2020年02月25日

「空飛ぶ円盤」という訳語はいつできたのか

かつて東北電力が発行していた情報誌「白い国の詩」2003年12月号に北村小松に関する記事があるというので国会図書館から複写を取り寄せてみた。筆者は米田省三氏という日本近代文学会会員の方だが、我々が今日でも目にする九割方の解説(Wikipediaを含む)と同様に戦前の業績にしかスポットを当てていない――要は戦後の19年間がほぼ空白のものだった。それよりも気になったのが「北村小松は『空飛ぶ円盤』という言葉の名付け親である」という事実誤認を書いてある点である。北村氏が円盤の事を知ったのはマンテル事件以降で、その頃には既に日本でも「空飛ぶ円盤」という単語が話題の新語として浸透済みだった(宇宙人の乗り物としてではなく、科学時代の人魂、不知火、狐火というべき不思議現象として)。どちらかというと、欧米で使われている「UFO」という略称を最初に日本へ紹介したのが北村氏であろうから、推すならその点を推すべきだろう。
ところが誰が言い出したのかはわからないが、北村氏が「空飛ぶ円盤」の名付け親のように語られることがしばしばある。青森県近代文学館の発行したパンフレットでは北村氏の御令嬢様より寄せられた寄稿にもこのくだりが出てくる。記憶違いか、ずっと後になって誰かから吹きこまれたのを信じ込んだに相違ない。

では実際に日本で誰がいつ Flying Saucer を「飛行皿」でなく「空飛ぶ円盤」と訳したのかというと、名だたるUFO研究家の間でもはっきりと起源を断定できないらしい。とあるUFO研究の大家からは「この言葉は戦前にはもうあったらしい」という示唆が与えられたそうだが、ソースまでは出てこなかったようだ。
全ての「空飛ぶ円盤」のはじまりであるケネス・アーノルド事件の起きた1947年6月24日から12日後の7月6日、アメリカでのUFO騒動がようやく日本のマスコミでも報じられた。もうこの時点ではUFOはアーノルド一人のものではなく全米を挙げて見たの見ないの大騒ぎになっていたため、ケネス・アーノルド事件を指して報じる記事ではないが、記事の見出しが説明もなくいきなり「空飛ぶ圓盤」! これが日本での初報道である。画像はたまたま取り寄せた九州タイムズの複写記事だが、元はAP通信による外電記事なので東京タイムズの同日にも同じ記事があるそうだ。

FlyingSaucer.jpg
空飛ぶ圓盤
【ニューヨーク四日発AP=共同】今週來アメリカ各地で輝いた円盤樣の物体が空高く物すごい早さで飛んで行くのを見たという報道がひんぴんと傳わりアメリカ國民に疑惑を抱かせている、最近では定期空路の乘組員達がこの「飛び行くコーヒー皿」を見たといゝ、またこれを寫眞にとつたという沿岸警備隊員も現れて、いよいよ好奇心をそゝつている
 ワシントンの海軍監督所では「これは天文学的な現象ではないと思う」と語つており、陸軍当局では三日以來事件の眞相調査を開始した、一部ではこれは「飛び行くパン・ケーキ」という海軍の新型機ではないかとの説もあるが海軍側では同機はまだハートフォードに一機あるだけだからそんなはずはないと否定している


翌月の雑誌でもちらほらと空飛ぶ円盤の話題が取り上げられるようになっていたが、時事通信社の「WORLD NEWS 時事英語通信」にコラム「略語と新語」を連載していた三輪武久は同誌1947年8月15日号で「Flying Saucers」を近頃話題の言葉として取り上げ、その文中で「Flying Saucers」を「空飛ぶコーヒー皿」、「flying discs」を「空飛ぶ圓盤」として2つの表現があることを紹介している。
また「旬刊ニュース」29号(1947年8月)の特集「どれが本物か?『空飛ぶ円盤』集」でも同様に「空飛ぶ圓盤(flying disc)」と「空飛ぶ皿(flying saucer)」の二語があることを紹介している。どちらもリアルタイムのアメリカの動静を伝えようとする記事であり、現地アメリカに2つの名称が存在することに戸惑いつつも、念のため両方を紹介しているのはジャーナリストとして非常に真摯な姿勢だといえる。

そこでいまいちど夕刊各紙に立ち返ってみると「新潟日報」1947年7月14日号、7月15日号「九州タイムズ」1947年7月23日号、8月3日号、これらすべて「空飛ぶ圓盤」で統一されており「空飛ぶ皿」の表記は無い。どうやらAP通信からのソースが「Flying Disc」で統一されており、各社の日本語訳も原文に忠実に従ったにすぎないようだ。時々失念してしまいがちだが、この時点ではまだGHQが日本のメディアに対し検閲を行なっている。原文が「Flying Saucer」となっているものをリスクを冒して「空飛ぶ円盤」に意訳するとは考え難い。

では「Flying Saucer」の出どころは何かというと、これも同じくケネス・アーノルド事件を報じる新聞記事だ。英語版Wikipedia「Kenneth Arnold UFO sighting」の頁には世界で初めて空飛ぶ円盤の目撃事件を報じたと見なされているシカゴ・サン紙1947年6月26日号の画像が掲載されており、その見出しは「Supersonic Flying Saucers Sighted by Idaho Pilot」となっている。アーノルドが説明した「水面を皿が跳ねるような飛び方」が曲解された結果生まれた単語であることは今や誰もが知るところだ。

ところがその後に続く報道各社の表記が「flying disc」派と「flying saucer」派で真っ二つに分かれていく。
UFO関係の資料を集めた海外のサイト「ROSWELL PROOF」には当時の円盤関係の報道が端的にまとめられており、先述のシカゴ・サン紙に続くUFO関連記事が「saucer」派か「disc」派かを抽出してみたところ、いずれもせめぎ合っていて2週間弱ではどちらか一方に収束しそうな兆しは見られなかった。当初はUP通信に「saucer」、AP通信に「disc」が多かったようだが、日数が経つと読者の理解を促すためか「saucer」と「disc」を併記する記事がちらほら現れるのも興味深い。

・6/27 ロディ・ニュースセンティネル紙「Flying Saucer」(UP通信からの配信)
・6/27 ユージン・レジスターガード紙「Flying Discs
・6/27 スポケーン・デイリークロニクル紙「Flying Piepans」(空飛ぶパイ皿)
・7/1 ピッツバーグ・ポストガゼット紙「Flying Saucers」(UP通信からの配信)
・7/1 フォートワース・スターテレグラム紙「Flying Discs
・7/1 ロズウェル・モーニングディスパッチ紙「Flying Disks」(※diskはアメリカ英語でのdisc)
・7/1 オースティン・アメリカン紙「Flying Disks」(AP通信からの配信)
・7/2 フォートワース・スターテレグラム紙「Flying Discs
・7/2 エルパソ・タイムズ紙「Flying Disc」(AP通信からの配信)
・7/3 リッチランド・ビレッジャー紙「Flying Disks
・7/3 ピッツバーグ・ポストガゼット紙「flying saucers
・7/4 モントリオール・ガジェット紙「flying saucers
・7/4 ツインフォールズ・タイムズニュース紙「Saucers
・7/5 ビリングス・ガゼット紙「Flying Saucers」 (※Mysterious Discs とも併記)
・7/5 ワシントンポスト紙「flying saucers」と「flying discs」の併用(UP通信からの配信)
・7/5 アビリーン・レポーターニュース紙「flying saucers
・7/6 ポートランド・オレゴニアン紙「flying discs」(INS通信からの配信)
・7/6 デンバー・ポスト紙「flying disc
・7/6 デンバー・ロッキーマウンテンニュース紙「Flying Discs
・7/6 ローガンズポート・プレス紙「Flying Saucers
・7/7 ウィニペグ・フリープレス紙「Flying Discus」と「flying saucers」の併用
・7/7 ガストニア・ガゼット紙「Flying Saucer
・7/7 ルイストン・デイリーサン紙「Flying Saucers
・7/7 メアリーズビル・イブニングトリビューン紙「SAUCERS」と「Flying Discs」の併用
・7/7 ビデット・メッセンジャー紙「celestial saucers(天の皿)」と「flying discs」の併用
・7/7 メルボルン・ジ・エイジ紙「Flying Saucers」(豪AAP通信からの配信)
・7/7 エリリア・クロニクルテレグラム紙「flying saucers
・7/7 ロチェスター・ニュースセンチネル紙「Sky Discs(空の円盤)」
・7/7 シカゴ・デイリータイムス紙「Flying discs」を見出しに、本文に「flying saucers」を使用
・7/7 ソルトレイクシティ・デザートニュー紙「Discs」を見出しに、本文に「flying saucers」を使用
・7/7 オックスナード・プレスクーリエ紙「flying "saucers"
・7/7 サンマテオ・タイムズ紙「Flying Discs」(AP通信からの配信)(※本文は"flying saucers"
・7/8 シカゴ・サン紙「flying disks
・7/8 ワシントンポスト紙「Flying Saucers
・7/8 ステーツビル・デイリーレコード紙「Flying Saucers」(UP通信からの配信)
……
※情報ソース:http://www.roswellproof.com/

結局のところ日本へは最初に「Flying Disc」を用いていたAP通信社の外電が入ってきたのでこれを直訳した「空飛ぶ円盤」が定着し、欧米では「Flying Saucer」と「Flying Disc」が拮抗していたものの何らかの理由で「Flying Saucer」へ収束していった……というのが無難な落としどころだろう。

もちろん、1934年の米「ネメス・パラソル」(Nemeth Parasol)や1944年の独「ザックAS-6」(Sack AS-6)といった円盤翼飛行機がケネス・アーノルド事件以前の日本で記事になり、その際に「空飛ぶ圓盤」という表現が使われた可能性も考えられないことはない。だが、その記事が日本中あまねく広まって「空飛ぶ円盤」という単語を日本人の常識レベルに浸透させたか、といえばいささか疑問である。
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2019年12月02日

ロシアの科学雑誌に載った光子ロケットとスタニスワフ・レム

50~60年代、日本の雑誌書籍で紹介される「光子ロケット」といえば、垂直に伸びたタワーの尻尾にパラボラを据え付けたデザインのものが多かった(というか同じ絵の流用)ような気がする。
1957年12月25日発行の三一書房刊「ソビエトの人工衛星・宇宙旅行」のカバー表紙を飾っているものがそれだ。

LightRocket01.jpg

表紙イラストを手掛けたのは目次ページによると大塚勇とのことだが、これには元ネタがある。

――その前に本書「ソビエトの人工衛星・宇宙旅行」がどういう本なのか説明しておくと、同年10月・11月のソビエト連邦人工衛星打ち上げ成功を受けて急遽、ソビエト連邦の雑誌や新聞に載っていた宇宙科学関連の記事を集めて翻訳した宇宙科学寄稿の拾遺集である。スクラップ集と言った方が近いのか、アンソロジーというべきか。

いろんな雑誌や新聞から記事を拾っているので筆者も様々だ。フレブツェヴィッチが4件、ドヴロスラーボフが4件、リヤプノーフが2件、パユ・キー、ヤ・ガドムスキー、ヴァルヴァロフ、グシチェフが各1件……最後に「科学朝日」編集部の岸田純之助が1章分を書いている。
書き下ろしらしき岸田純之助を除けば、すべての記事には出典が明記してあり、ヤ・ガドムスキーの「光子ロケット」には「『青年技術』1957.7」から採ったものだと記されている。
「青年技術(Техника - молодёжи、テークニカ・モラドッジ)」は有志によって1933年創刊号から2012年1月号までの実に904冊が全ページ公開されており、出典該当号の1957年7月号を閲覧してみると、まさに「Доктор Я. ГАДОМСКИЙ(ヤ・ガドムスキー博士)」の「ФОТОННАЯ РАКЕТА(光子ロケット)」という記事が掲載されていた。この「青年技術」誌は各国の科学技術トピックスを集めた雑誌なので、この話題のソースがどこの国からの発信かが国名で表示されているのだが、ここには「Польша(ポーランド)」と記してあった。ポーランドのWebサイトで調べてみると、確かにポーランドの天文学者でヤン・ガドムスキー(Jan Gadomski、1889-1966)という人物がいたからこの人が筆者と考えて間違いないだろう。

LightRocket02.jpg
http://zhurnalko.net/=nauka-i-tehnika/tehnika-molodezhi/1957-07--num38

「ソビエトの人工衛星・宇宙旅行」では右ページの本文だけでなくカラーイラストの左上に描かれた模式図も忠実に翻訳されていて、この光子ロケットは粒子と反粒子を反応させて発生した光を推進力にするといった説明がなされている。居住区はエンジンから遠く離されていて、その途中にはエンジンから発生する放射線を防ぐ隔壁がしつらえてある。後に公開された映画「2001年宇宙の旅」のディスカバリー号が異様に長いのも、この頃から考えられていた“核エンジンの放射線から居住区を守るため可能な限り距離をとる”という設計思想に則ったもの。

ここまで整理すると、ポーランドのガドムスキー博士がソビエト連邦の科学雑誌「青年技術」1957年7月号に「光子ロケット」についての記事を寄稿し、その想像図は宇宙科学イラストを数多く手がけるアーティスト、ニコライ・コルチツキー(НИКОЛАЯ КОЛЬЧИЦКОГО、1907-1979)が描いた――ということになるようだ。
※アーティストの名前について、「青年技術」の奥付ではКОЛЬЧИЦКОГО(コルチツコガ)となっているのだが、検索するとКОЛЬЧИЦКИЙ(コルチツキー)としているものが多い。不勉強のため異なる理由がわからず。

この、コルチツキーが1957年6月11日発行「青年技術」1957年7月号センターカラーページ(p33対向)で発表した「光子ロケット」の想像図を大塚勇が忠実に摸写したものが「ソビエトの人工衛星・宇宙旅行」カバーイラストというわけである。

ちなみにこの「青年技術」1957年7月号にはスタニスワフ・レムの戯曲「УЩЕСТВУЕТЕ ЛИ ВЫ, МИСТЕР ДЖОНС?(ジョーンズ氏はいますか?)」という短編SFが掲載されているが、この戯曲の挿絵もコルチツキーが描いている。
ストーリーは裁判所を舞台に、事故で全身を機械に置き換えられたレーサーのハリー・ジョーンズに対してサイバネティック社が「義体の代金が未払いだが彼にはもう支払い能力が無い。現物で回収したい(ジョーンズを解体したい)」と訴えたことから始まる。サイバネティック社はオリジナルのジョーンズがもう脳すら残っていないことから「ジョーンズという人はもういない。ここには電気的に応答する機械があるだけだ」と主張。一方でジョーンズは自分の意思ははっきり存在していることを主張し、たとえば人間は小麦や肉を食べることでやがて自分の肉体に置き換わっていくが、その小麦や肉の代金が未払いだからといって同じ分だけ人間の肉を切り取ってよいわけがないと反論する。さて裁判所の判断は……?という「テセウスの船」ネタのようなお話。
日本で収録されている出版物はないようだが、かつてイギリスBBCのテレビドラマシリーズ「Thirty-Minute Theatre」でドラマ化されたことがあるらしい。

posted by 猫山れーめ at 19:30| Comment(0) | 空想宇宙科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月15日

宇宙物語・遊星人M 全話レビュー/第3話「ガロアよりの使者」

宇宙物語シリーズその二 遊星人M
第三話「ガロアよりの使者」
1956年12月27日(木)20:00~20:30放送

原作:香山滋、脚色:魚住大二、音楽:宇野誠一郎、広告代理店:博報堂、提供:シルバー携帯ラジオ(白砂電機)
制作:大垣三郎、演出:北代博、フロアマネージャ:忠隈昌、AD:柴田馨、デザイン:坂上建司、美術連絡:青山宏央、美術進行:芦田光長、小道具:高橋俊一、衣装:山我幸江、化粧:小松英子、音響:高橋孝・市川昭和・居作昌果、テクニカルディレクター:岩西浩、カメラ(ロケ):糸田頼一・藤波貞夫・中村昭三、ビデオエンジニア:北大路矗、オーディオエンジニア:林清男・須賀良浩、照明:倉本泰司

出演:
浅香(天文台勤務 理学博士)50歳……江川宇礼雄
園部伊都子(その助手)26歳……西朱美
水島亮吉(新聞記者)33歳……沼田曜一
関なち子(その恋人 インターン医学生)23歳……藤波京子
小野寺善樹(国立細菌学研究所長 医学博士)45歳……河野秋武
今井周一(科学小説家 アマチュア写真家)36歳……原保美
今井カズ子(その妹 サラリーガール)21歳……青島純子
寺尾晃(カズ子の恋人 サラリーマン)27歳……相原巨典
遊星人M(惑星ガロア人)……江見渉
川北利子(看護婦)……山岡久乃
ゴリラ……高木新平
ナレーター……浦野光

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 熱病の正体は依然不明だったが、国立細菌学研究所の小野寺所長(河野秋武)は新薬の効果を試すため、熱病患者の血液から採った病原体を自らに注射して試そうとしていた。小野寺はかつて別の熱病を同じ療法で治療したことがあったのだ。理論的に確かめている暇がないと言ってウイスキーグラスに入れた新薬を飲もうとする小野寺を、この熱病で入院している浅香博士(江川宇礼雄)の助手・園部伊都子(西朱実)とインターンの関なち子(藤波京子)は、無謀だと言って止めた。さらに伊都子は自分が代わりに実験台になると申し出るのを聞いて、なち子はいかなる場合でも人体実験は認められないといって反対する。そんな押し問答が続く中、水島記者(沼田曜一)が三人の間に割り込んできて、ゴリラ失踪事件の現場に残されていた遺留品を鑑定してほしいといって緑色の血に濡れた指を小野寺に見せた。水島記者の恋人でもあるなち子が「先生は細菌学が専門だからお門違いよ。生物学の先生に見てもらったら?」とあしらうが、既に水島はあちこちの専門家に見せて回って結論が出なかったのだという。最初は苦笑いしていた小野寺も、知的好奇心をそそられて観察を始める。そこへ浅香博士付きの川北看護婦(山岡久乃)が「浅香博士がどこかへ行ってしまった」と駆け込んできた。受付に浅香博士への面会希望者がきたというので断りに行ったほんのわずかの隙にいなくなったのだという。小野寺たちは慌てて浅香を探しに部屋を飛び出すが、水島はその行きがけのドタバタに紛れて、目をつけていたウィスキーのグラス(実は熱病の新薬)を飲み干し、それをごまかすため空のグラスにウイスキーを注ぎ直してから出て行った。

 円盤の中ではこの一部始終がモニター画面に映し出していた。遊星人M(江見渉)にさらわれ、円盤の中でMとモニター画面を見ていた今井カズ子(青島純子)は、今の面会希望者とは自分の兄であるSF作家・今井周一(原保美)のことだと気がついた。Mは、周一と浅香博士が邪魔されることなく面会できるよう、自分がある場所へ誘導したのだと語り、モニター画面を調節し始めた。するとモニターに浅香博士と周一、それにカズ子の恋人・寺尾晃(相原巨典)の三人が会見している様子が映し出された。熱病で昏睡状態と聞いていた浅香博士が何事もなく話しているのを見て驚くカズ子。Mは浅香博士の状態を「私の意思の通りに動く時だけ元気でいられる、そんな病気なのだ」と言い、東京で流行している熱病は自分の仕業であると語った。今から自分もこの会見の場へ行くとカズ子に告げるM。

 先ほどモニターに映し出されていた場所では、浅香博士が周一に不穏な話を続けていた。「……そうだ、私も君と会うように命令を受けたのだ。君と会って説得するように」「説得? 何を説得なさるんです」「君は、円盤が消えたことについて、ある理論を持っている」うなずく周一に浅香が畳みかけるように言う。「しかし、その理論は間違っているのだ」周一は何も話さないうちから間違っていると決めつけられたことを怪しみ「どうしてご存じなんです、私の考えを」と逆に問いかけるが、浅香は答えない。「私の考えはこうです……」「いや、言わなくてよろしい。私にはわかっている。そしてそれは、まちがっているのだ。だから捨てなさい、そんな空想は。発表しようなどという馬鹿げた考えはよしなさい」「しかし……そんならなぜ、妹をさらっていったんでしょう……」何かに思い当たる周一。「……僕を黙らせようとして」「他に要求があるのだ。君に対して」「どんな要求です」「それは……あの者が来て、直接君に話す」「あの者?円盤に住む生物ですね」うなずく浅香。「この屋上へ舞い降りてくる」「屋上へ?」「夜の闇とともに舞い降りてくる……もう間もない……」

 その頃、小野寺は伊都子やなち子が浅香博士の捜索に掛かりきりになっている隙をみて一人研究室に戻ってきていた。そして新薬が入っているはずのウィスキーグラスをあおってから、自らの腕に病原体を注射する。だが……小野寺が飲んだのは熱病の新薬ではなく、水島記者に差し替えられた本物のウィスキーだったのだ。なち子が研究室に戻ってきたとき、小野寺は熱病を発症して今まさに昏倒するところだった。全てを察して駆け寄るなち子に小野寺は、今まさに自分の身に起きている症状を記録するように言って症状を伝えながら意識を失った。

 夜が来て病棟の屋上から眼下に眺める街々には明かりが灯り始め、ジングルベルの音がかすかに聞えてきた。そのとき病棟の屋上に待機していた浅香博士、周一、寺尾の眼前に忽然と遊星人Mの姿が現われる。周一がMと向き合っている隙をみてその場からそっと抜け出す寺尾。

 研究室では水島、伊都子、なち子、川北が小野寺の発病を知って落胆していた。水島がなち子に、小野寺の作った新薬というのは注射なのかと尋ねかけたとき、息を切らせて寺尾が駆けこんできた。「け、警察へ電話を」「何です、どうしたんです」「あらわれたんです、円盤……空飛ぶ円盤のやつが」「えッ」「屋上で会ってる……今井さんと浅香博士が」「えっ、浅香先生が」

 屋上で周一はMから、妹と引き換えにMのスポークスマンとなり、地球人にMの意思を広めるよう迫られていた。「君の意志?どんな意志です」と尋ねる周一にMは「そんな質問は許されぬ。私に従うか、そもなければ……」といって浅香を指さした。その時、寺尾に案内されて水島・伊都子・なち子・川北が屋上へドヤドヤと駆け上がってきた。Mの姿を目の当たりにして戦慄する水島たち一同。Mは浅香を指して言葉を続ける。「……彼はすでに私の味方だ。心を失ってしまったのだ、地球人の心を……永久に。君をこのようにしないのは、君には今いった役目を与えたいからだ。従わねば、君も死ぬのだ。よけいな人間どもと同じように……」ふとMの言葉が途切れる。「……これらのよけいな人間と……同じように……」Mは駆けつけてきた面々を見まわしながら話をしていた。Mはその中に伊都子の顔を見てとると――どういうわけかMは放心状態になってしまったのだ。Mの様子が変なことに気付いた水島が「おいッ、何だ君は」とMに怒鳴る。Mに見据えられておびえ、人の後ろに隠れる伊都子。水島が重ねて問いかける。「どっから来たんだ!何で来たんだ!」「……私は、遊星ガロアの使者……」「ガロア?」水島は遊星ガロアと聞いて伊都子が何か知っているのかと目を向けるが、伊都子はわからないそぶりで首を振る。「何の使いだ!」「……命令を伝えに来た」「命令?馬鹿にするな、こっちには命令される覚えはない」「従わねば、全滅する」「大きく出たね!むざむざやられると思ってるのか」Mは屋上から眼下に広がる街の灯を指さした。「見るがいい。君たちの街……クリスマス・イブとかいい踊り楽しんでいる地球人たち……何が起きるか、よく見るがいい」そして何かの合図を始めようとするように手を高々と振り上げるM。円盤の中でもカズ子がモニター画面を見ながら心配そうに両手で胸を押さえている。手を振り降ろそうとするM――その時、怯えた伊都子から「待って……怖いわ、やめて……お願い」という言葉が口を突いて出た。Mは明らかに意志を動かされた様子で「あなたが言うのか。お願い、と……」と伊都子に問いかける。うなずく伊都子。Mは静かに手をおろした。

 その時、寺尾からの通報を受けて駆け付けた出窪刑事が警官隊とともに屋上に駆け込んできた。武装警官の姿を見て俄然強気になった寺尾は、Mを指して「こいつはカズ子をさらった誘拐犯だから早く捕まえてくれ」と刑事に訴える。水島となち子もそれに同調して「動物園のゴリラをさらったのもこいつに違いない、その証拠に指が1本欠けているはずだ」「熱病菌を撒き散らした犯人もきっとこいつよ」と口々にMを非難した。警官隊にピストルを向けられたMは、そのこと自体にはまるで無関心のようにふるまい、浅香に小型の機械を与えて円盤に連絡を取るよう指示した。浅香は伊都子の静止を振り切ってクリスマスパーティーに浮かれる夜の街へと出て行く。後を追う伊都子、周一、寺尾。Mは警官隊から銃で威嚇されて身動きできないようだった。浅香は街のキャバレーで開かれていたダンスパーティーにもぐり込み、飛び入り参加のボーカル客を装ってバンドマイクに機械を付けて円盤への連絡を始めた。「ガロアの宇宙船に告ぐ。Mはいま……」パーティーの喧騒の中でマネージャーに引き摺り下ろされる浅香。その隙を見て壇上に上がった周一は、やはり飛び入り客を装って歌を歌いながら、合間合間に円盤内のカズ子に向けたメッセージをはさむ。「カズ、聞こえるか――きいてるか――カズ、すぐ助けるぞ――もう少しの辛抱だ――Mはね、Mのやつは……」円盤の中でモニターから周一の声だけが伝わってくるのを聞いたカズ子は、画像も映し出そうとして焦ってダイヤルを回し、かえってチューニングを外してしまう。周一は何か肝心なことを伝えようてしていたようだったが、カズ子には伝わらなかった。「……だから、もうすぐだぞ――」その時、周一の歌に合わせて踊っていた人々のダンスの輪の中に、行方不明になっていたゴリラ(演:高木新平)が突然現われた。たちまち大混乱となるパーティー会場、その機に乗じてバンドマイクへ歩み寄っていくゴリラ――その後ろには浅香博士が付き添うように歩いてきている。屋上ではMが警官隊に迫られて絶体絶命、円盤ではカズ子が必死にダイヤルを操作中、そしてパーティー会場では浅香が今まさにマイクを手にして円盤への連絡を行なおうとしていた――。

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 出窪刑事を演じた俳優名は不明。12月27日放送なのでリアルタイムとのシンクロを図ってかクリスマス・イブの喧騒を劇中に取り込んでいる。台本では夜にまたたく街の灯をテロップで表現する指示がある。これと、円盤内のモニター画面に地上での出来事が映るシーンくらいが今回のトリック(特撮)シーンだろうか。もしかしたら病棟屋上のシーンで夜景にスクリーンプロセスを用いたかもしれない。各テレビ局は開局当初よりスクリーンプロセスを導入していたが、当時のスクプロは後方からスクリーンに投射するタイプ(リア・プロジェクション)だったので場所をとる割に画質が悪く、邪魔扱いされて早々と使われなくなった……という話を当時「遊星人M」で美術デザイナーを担当した坂上建司氏から伺ったことがある。ちなみに前作「誰か見ている」ではリア・プロジェクションの前で江川宇礼雄が演技をしているスナップ写真が当時の雑誌に掲載されている。
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2019年08月24日

原作版・緯度0大作戦(放送リスト)

単なる覚え書きレベルのもの。

1969年7月公開の東宝特撮映画「緯度0大作戦」は1940年代にアメリカで放送されたテッド・シャードマン原作のラジオドラマ「Tales of Latitude Zero(緯度0の物語)」を原作としていると言われているが、国内においてそのラジオドラマの内容を知る術はほとんど無いといっていい。

そこで海外でラジオドラマのノベライズ化がされていないかと考え「世界中の20億件をこえる図書館資料を見つけることができる」との触れ込みである検索サイト「WorldCat」で「Tales of Latitude Zero」を検索してみたが該当するものはなかった。酷似したタイトルはあったが内容は別物だった。
「Latitude Zero」での検索では大量にヒットしてしまうため発行年を1940年代に絞っていくと――著者にテッド・シャードマンが含まれるものがいくつかあった。一つはワイオミング州のアメリカンヘリテージセンターが所蔵するテッド・シャードマンの莫大な収集品集で、映画やテレビドラマの脚本・アイデアを含んでいるらしい。容積67立方フィートに105箱以上収蔵されているそうだ。
もう一つはズバリそのまま、ラジオドラマ「Latitude zero」の脚本であった(タイトルはWikipediaで紹介されている「Tales of Latitude Zero」ではない)。ただ、所蔵施設については「申し訳ありません。該当資料の所蔵館が見つかりませんでした。」と表示されている。また、メモ欄の表記を含めて誤転記なのか原書どおりの表記なのか判別つかない部分も多い。メモでは第一部の放送期間が1941/6/7~8/16の毎週土曜、第二部の放送期間が1941/4/29~6/10の毎週火曜となっているのだが、これでは第二部の方が先に放送されたことになってしまう。おそらく第二部放送の1941年は1942年の転記ミスで、毎週水曜放送なのだが誤記した日付データを元にして毎週火曜と記してしまったものと推測する。ただし当時の新聞のラジオ欄など一次資料との裏付けはできていない(ニューヨークタイムズの紙面アーカイブ「TimesMachine」で確認できるかなと思ったが、どうも有料であるらしいし、そもそもラジオ欄が載っているかかどうかも不明なため見送った)。東宝映画では「ルクレチア夫人」と呼ばれるキャラクターもラジオドラマ版のサブタイトルを見ると「ルシファー夫人」となっているようだが、これも原書どおりなのかweb転記ミスなのかはわからない。

その点も含めて、WorldCatから判る範囲でのラジオドラマ版「緯度0大作戦(原作)」の放送リストを下記のとおり整理してみた。信頼度としてはいささか怪しいので、新聞での突合が必用である。また有志によるラジオドラマ脚本の発掘と翻訳出版を期待する。

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米NBCラジオ「緯度ゼロ(Latitude zero)」
脚本 テッド・シャードマン、アン・シャードマン(※テッドの妻。検索によると東宝映画「華麗なる闘争」(1969)にも出演している「アン・ストーン」がアン・シャードマンの別名らしいが未確認。)

第一部
1941/6/7~8/16(土)16:00~16:30放送

第 1話「オメガの発見 (Discovery of Omega)」
第 2話「ルシファー夫人 (Madame Lucifer)」
第 3話「鮫 (The shark)」
第 4話「マリク (Malic)」
第 5話「マリクの計画 (Malic's plan)」
第 6話「魔魚の海淵 (The deeps of the devil fish)」
第 7話「レムリアの野獣 (The beast of Lemuria)」
第 8話「緯度ゼロ (Latitude zero)」
第 9話「ズァクームへの出発 (Start to Zhakoom)」
第10話「ズァクーム到着 (Arrival at Zhakoom)」
第11話「ズァクームの冒険 (Adventures on Zhakoom)」

第二部
1942/4/29~6/10(水)21:30~22:00放送

第12話「羊飼いの息子 (The son of Shepherd)」
第13話「ズァクームの悪魔の樹 (The demon trees of Zhakoom)」
第14話「グリフォンの襲撃 (The Griffon attacks)」
第15話「勝利と敗北 (Victory and defeat)」
第16話「ズァクームからの離脱 (Departure from Zhakoom)」
第17話「鮫の壊滅 (Destruction of the shark)」

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2019年08月23日

宇宙物語・遊星人M 全話レビュー/第2話「悪魔指さすところ」

宇宙物語シリーズその二 遊星人M
第二話「悪魔指さすところ」
1956年12月20日(木)20:00~20:30放送

原作:香山滋、脚色:魚住大二、音楽:宇野誠一郎、広告代理店:博報堂、提供:シルバー携帯ラジオ(白砂電機)
制作:大垣三郎、演出:北代博、フロアマネージャ:忠隈昌、AD:柴田馨、デザイン:坂上建司、美術連絡:青山宏央、美術進行:芦田光長、小道具:高橋俊一、衣装:山我幸江、化粧:小松英子、音響:高橋孝・市川昭和・居作昌果、テクニカルディレクター:岩西浩、カメラ(ロケ):糸田頼一・藤波貞夫・中村昭三、ビデオエンジニア:北大路矗、オーディオエンジニア:林清男・須賀良浩、照明:倉本泰司

出演:
浅香(天文台勤務 理学博士)50歳……江川宇礼雄
園部伊都子(その助手)26歳……西朱美
水島亮吉(新聞記者)33歳……沼田曜一
関なち子(その恋人 インターン医学生)23歳……藤波京子
小野寺善樹(国立細菌学研究所長 医学博士)45歳……河野秋武
今井周一(科学小説家 アマチュア写真家)36歳……原保美
今井カズ子(その妹 サラリーガール)21歳……青島純子
寺尾晃(カズ子の恋人 サラリーマン)27歳……相原巨典
遊星人M(惑星ガロア人)……江見渉

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 新聞社に押しかけて円盤が消える原理を水島記者(沼田曜一)と早野少年(山本豊三)に説明しようとする今井周一(原保美)だったが、そのとき何者かから「妹を愛するなら語るのをやめよ、直ちに帰りて妹の運命を見よ」というテレパシーでの警告を受け、妹カズ子(青島純子)の身を案じて説明もそこそこに新聞社を辞去した。

 入れ替わりに来た写真班の品川カメラマンは水島記者に、動物園から逃げたゴリラの取材への同行をもちかける。ゴリラは熱病に罹っており動けないはずだったが、誰かが故意に檻から逃がしたらしい。それを聞いた早野少年は熱病の流行とゴリラの脱走には今回の円盤騒動と何か関係があるのでは、と推理を巡らせ、同行をねだる。ゴリラの件は報道禁止のお忍び取材だったため、弱った水島記者は早野少年に仕度してくるように言っておいて、そのすきに早野少年を置いて品川カメラマンと二人で取材に出てしまった。

 一方、周一がアパートに戻るとカズ子の姿はなく、スーツケースにはヒトデのような手型が残されていた。周一はカズ子の恋人・寺尾晃(相原巨典)を呼び出し、円盤でやってきた生物にカズ子がさらわれたらしいことを説明していると、再びあの不思議なテレパシーが伝わり、細菌研究所附属病院に入院している浅香博士の病室に来るよう指示される。寺尾と周一は指定された場所へと向かった。

 病室で眠りつづける浅香博士(江川宇礼雄)を助手の園部伊都子(西朱実)が看病していると、突然浅香博士が目を開き、これから来客があること、その者の名は今井周一であることを告げると、再び気を失ったように眠ってしまう。浅香博士が目覚めたことを川北看護婦(山岡久乃)から知らされた小野寺所長(河野秋武)が少し遅れて病室にやってきたが、その時はもう浅香博士は眠りつづけるだけであった。このとき小野寺所長のそばにインターン医学生で水島記者の恋人・関なち子(藤波京子)の姿はなかった。彼女は小野寺所長の指示でゴリラが脱走した動物園に出向いていたのである。

 動物園へ忍び込んだところを守衛に見つかって逃げ惑っていた水島記者と品川カメラマンの二人を救ったのは、調査に来ているなち子、そして水島から置いてきぼりを食らったと知るや、なち子に連絡をとってまんまと同伴してきた早野少年だった。人心地ついて現場の調査を始めた水島は、草むらで緑色の血に濡れた細長いヒトデのような指を発見。これはゴリラを連れ去ろうとしてゴリラにもぎとられた犯人の指に相違なかった。

 そのヒトデのような指の持ち主である謎の人物―遊星人M(江見渉)は、先ほどからの水島たちの一部始終を円盤の中のテレビで監視していた。テレビを見終えた彼は、気絶していたカズ子を目覚めさた。驚くカズ子にMは、ここが地上300メートルの空中に停止している円盤の中であること、自分は遊星ガロアに住むMだと語った。カズ子はMが宇宙人だというのは嘘で、その証拠にMは地球の言葉を話しているじゃないかと指摘する。これに対してMは、言葉でなくテレパシーを伝えているのだと答え、またカズ子からの様々な問いに対しても、カズ子を誘拐したのは円盤の秘密に気づいた周一の言動を牽制する人質のため、地球に来た目的はガロアの指示する条件を地球人が受け入れなければ皆殺しにするため――と答えた。そしてMが円盤内のテレビを操作すると、そこには病室の窓辺にうつろな目で立つ浅香博士の姿が映った。博士の頭には何かを受信しているかのように稲妻のような電光が閃いている。病室に入ってきた伊都子が驚いて浅香博士をベッドに連れ戻そうとすると、浅香博士は来客がもう来る頃だと答えた。続いてテレビの画面が切り替わると、病院への坂道を急ぐ周一と寺尾の姿が映し出された。Mはカズ子に、これから自分もその場へ行く、何が起きるかテレビで見ているがいいと語るのだった――。

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 この時点ではMの肉体は原作小説に準じて「ヒトデのような指」を持ち「緑色の血」が流れる植物性宇宙人として描かれているが、この設定はストーリー後半のオリジナル展開において大きく改変されることになる。
 水島記者のセリフで、今井周一がSF作家として一応知られた存在であること(ただし売れない作家という認識)が語られている。この設定自体はストーリー上ほとんど活かされていないが、やはり後半のオリジナル展開で熱狂的なファンもおり、それが事件を解決に導くキーマンを引き合わせる鍵になるという形で活かされている。
 今回は第一話のように劇中にスポンサーの製品を織り込めるような演出は台本上に見当たらないようだ。浅香の病室で伊都子が看病をしているシーンあたりでシルバー携帯ラジオから音楽を流しているような演出を加えていたのかもしれない。
 特撮シーンの有無も不明。脚本からの推測ではあるが、Mからのテレパシー指令を受けている浅香の頭に稲妻が閃くシーンをテロップ合成、円盤のテレビ画面に映る映像をハメコミ合成かグラスワークで表現したのだろう。
posted by 猫山れーめ at 07:19| Comment(0) | 遊星人M(TV版) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月05日

宇宙物語・遊星人M 全話レビュー/第1話「円盤飛来?」

宇宙物語シリーズその二 遊星人M
第一話「円盤飛来?」
1956年12月13日(木)20:00~20:30放送

原作:香山滋、脚色:魚住大二、音楽:宇野誠一郎、広告代理店:博報堂、提供:シルバー携帯ラジオ(白砂電機)
制作:大垣三郎、演出:北代博、フロアマネージャ:忠隈昌、AD:柴田馨、デザイン:坂上建司、美術連絡:青山宏央、美術進行:芦田光長、小道具:高橋俊一、衣装:山我幸江、化粧:小松英子、音響:高橋孝・市川昭和・居作昌果、テクニカルディレクター:岩西浩、カメラ(ロケ):糸田頼一・藤波貞夫・中村昭三、ビデオエンジニア:北大路矗、オーディオエンジニア:林清男・須賀良浩、照明:倉本泰司

出演:
浅香(天文台勤務 理学博士)50歳……江川宇礼雄
園部伊都子(その助手)26歳……西朱美
水島亮吉(新聞記者)33歳……沼田曜一
関なち子(その恋人 インターン医学生)23歳……藤波京子
小野寺善樹(国立細菌学研究所長 医学博士)45歳……河野秋武
今井周一(科学小説家 アマチュア写真家)36歳……原保美
今井カズ子(その妹 サラリーガール)21歳……青島純子
寺尾晃(カズ子の恋人 サラリーマン)27歳……相原巨典
遊星人M(惑星ガロア人)……江見渉

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1956年初冬のある日、大空に高音を発する発行体が現れ、それは空中に停止すると、大勢の人々が見守る中で忽然と消えてしまった。
その正体について日東新報の新聞記者・水島亮吉(沼田曜一)は三鷹天文台長の浅香博士(江川宇礼雄)に取材を試みるが、博士は言葉を濁して明言を避ける。それを横から取って代わるように現れた博士の助手・園部伊都子(西朱実)は、発行体の正体はアル・アーラーフ、つまり超新星爆発であろうと話す。辻褄は合うが本能的なところで納得のいかない水島がなおも食い下がると、伊都子は、博士もある仮説を持っており今日の会議で発表するかもしれないと語って去っていった。

その夜、昼間の騒ぎに出合わして首尾よく発行体をカメラに収めたSF小説家の今井周一(原保美)は、同居する妹カズ子(青島純子)と、訪ねてきた妹の恋人寺尾晃(相原巨典)に暗室でネガを現像してみせたが、写真は全て真っ黒に感光していた。露光を間違えるはずはないんだがと訝しむ周一に、カズ子は昼間の騒ぎが宇宙人の襲来ではないかと不安をのぞかせる。そんなカズ子に周一は、宇宙の住人は全て本質的に平和主義者だから心配することはないと説く。ちょうどその時ラジオから臨時ニュースが流れてくる。都内で原因不明の熱病が発生し、浅香博士が会議の席上で「サーチライト……」と言い残して倒れたというのだ。周一はこの言葉に思い当たるものがあったらしく、浅香の代理とばかりに新聞社へ向った。

倒れた浅香博士を診察した国立細菌学研究所長の小野寺博士(河野秋武)は熱病の病原体をいまだに発見できず悩んでいた。インターン医学生の関なち子(藤波京子)は発生のタイミングから考えてこの熱病の原因が空飛ぶ円盤に関係あるのではないかと推察する。

これらの空飛ぶ円盤について思索を巡らせる人々の一部始終をテレビモニターで監視している何者かの姿(江見渉)があった。
ヒトデのような指を持つその人物が機械を操作すると、テレビは小野寺博士と関なち子が話し合う病室から一転し、日東新報で水島に何かを説明している周一の様子を映し出した。怪人物がさらに機械を操作すると、今度は寺尾を送り出してひとりアパートに残っているカズ子の様子を映し出す。そしてカズ子が眠りについたとき、その部屋の前へと何者かの影が近づいていった――。

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スポンサーが当時ポータブルテレビとラジオを製造販売していたシルバー携帯ラジオなので、劇中でラジオが音楽やニュースを流すシーンを意識的に設けている。本放送ではこのシーンで画面下にCMテロップが挿入された。CM枠は他に、スタジオで高橋恵美子が製品を紹介する生CMを冒頭に1分、番組の最後にフィルム製作によるCM1分が設けられている。

ドラマの最初に現れる発行体(空飛ぶ円盤)はテロップまたはマジックシーンを用いたハメコミ合成で表現したらしいが、「大空」から「ビルの窓から顔を出して空を眺める人々」のシーンに切り替わったのに円盤の合成が消えておらず、円盤がいつまでも画面の下に残っていた……と当時第一話を見た報知新聞の記者に書き記されてしまっている。また、円盤の内部の光の点滅がクリスマスツリーのイルミネーションに使う点滅球のそれで、こどもだましに感じたとのこと。ただ前作「誰か見ている」に比べて出演者がのびのびと演じていた点は評価されている。

当時TBSには少し広いAスタジオと狭いBスタジオの2つしかなく「遊星人M」の放送に使われていたのは狭いBスタジオだった。テレビカメラも2台しか無かったため、生放送では片方のカメラが映しているうちにもう片方のカメラがサッと移動して画面の切り替えに備えなければならない。パズルを組み合わせるような複雑なワメラワーク、スイッチングのセンスが求められていたのは想像に難くない。また冒頭の浅香博士と水島記者が話しながら近づいてくるシーンでは、はじめの会話3つをあらかじめ録音しておいて本放送時に流すよう指定されていた。二人がまだセットの端で演技しているうちはマイクが声を明瞭に拾えない可能性があったため、別録りのセリフで補完したのである。機材もノウハウも足りない生放送の時代に知恵と工夫で「特撮SFドラマ」という複雑怪奇なものを放送した先達の勇気には敬服するばかりだ。なお「遊星人M」でブームマイクが使われるようになったのは番組も終わり間際の第10話からになる。

第一話でレギュラー陣が全員何らかの出番を与えられているのは登場人物紹介の意味合いもある。ラスト間際になって登場する謎の男=遊星人Mは台本の記述では手か影しか映らないはずだが、配役一覧では江見渉が第一話からクレジットされており、顔が映らないからといって代役をたてたわけではないようだ。

【追記】2019/8/23
※放送時刻を20:30~21:00(台本の表紙にある記述)から20:00~20:30(ラテ欄で確認した実際の放送時刻)訂正した。
posted by 猫山れーめ at 01:51| Comment(0) | 遊星人M(TV版) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月29日

宇宙物語・遊星人M 全話レビュー/まえがき

「遊星人M」……正式タイトル「宇宙物語シリーズその二 遊星人M」は、昭和31年12月~昭和32年3月にかけてラジオ東京テレビジョン(現在のTBSテレビ)で全13話が放映された日本最初期の特撮SFテレビドラマである。

TBSテレビは昭和31年7月から「宇宙物語 誰か見ている」という空飛ぶ円盤テーマの特撮SFテレビドラマを放送していた。これが全20回で終了したあと、出演者とスタッフはほぼそのままに、新たに「宇宙人による侵略テーマ」の新シリーズを始めた。副題が「その二」とあるのはそのためである。

原作には双葉社の大衆小説誌「傑作倶楽部」に香山滋がかつて連載していた同名の怪奇SF小説が用いられた。原作では終盤になって登場する人物などもドラマでは当初から登場し、それぞれの人物をめぐるストーリーが同時進行していきながらやがて一本の道に収束していく群像劇の形が取られている。ドラマの序盤こそ原作に沿ったストーリーとなっているが後半からはドラマオリジナル設定がふんだんに盛り込まれ、ストーリーも原作小説とはほとんど異なっている。そのため、こんにち全集などで読むことのできる香山滋本人の小説は原作というよりもむしろ「原案」に近い。

生放送時代でVTRが無いどころか正面向きしか撮れない重量級のカメラが局内に2台しかないという時代に、テロップなどの電気的な合成画面や、スクリーンプロセス、グラスワーク、16mmフィルムに別撮りしたミニチュア特撮への切り替えなど、当時できる限りの知恵をしぼってトリック撮影を実現していった。宇宙人が登場するテレビドラマ第一号はというと前番組の「誰か見ている」どころかNHKの児童劇に操り人形を混在させた「星から来た紳士(1956)」、テレビ紙芝居も範疇に含めるとTBS「惑星第10号(1955)」まで遡れてしまうが、特撮という手段で空飛ぶ円盤による東京の破壊シーンや円盤対円盤の空中戦を表現したテレビドラマ第一号はまぎれもなく「遊星人M」である。

登場人物は実質的な主人公にSF小説家の今井周一(原保美)、新聞記者の水島亮吉(沼田曜一)、天文台長の浅香博士(江川宇礼雄)。ウルトラQでいうところの万城目・一平・一の谷博士の役どころをイメージしてほしい。これに、浅香博士の助手でキーマンとなる園部伊都子(西朱実)、周一の妹・カズ子(青島純子)とその恋人・寺尾晃(相原巨典)、伝染病研究所所長の小野寺博士(河野秋武)とその助手で水島の恋人・関なち子(藤波京子)、新聞社の給仕でマスコット的存在の早野少年(山本豊三)が加わって、「M」と名乗る神出鬼没で正体不明の男(江見渉)の謎を追う。

その他、Mが操るゴリラのスーツアクターに高木新平、ロケット工学の大島博士に清水一郎、看護婦に山岡久乃。後半オリジナル展開に突入してからの追加キャストに、赤堀あき(高橋真子)と赤堀眉美(近藤万紗子)の母娘、ガロアの声に矢島正明(声の出演)。全話とおしてのナレーターに浦野光。プロデューサー・大垣三郎、演出・北代博、音楽・宇野誠一郎。シルバー携帯ラジオ(白砂電機)一社提供。

OPはまず画面に「宇宙物語 シリーズ その二」というテロップボードを表示した後、1分間の生CMが入り、最後に「提供 シルバー携帯ラジオ」のテロップを表示。
続くOPは16mmフィルム+テープ録音なので全話共通。まず浦野光によるOPナレーションが流れる。
「日頃この世には何事もなく、私たちは安心しきって街を歩く。これは周囲がみな私たちと同じ人間、すなわち地球人だからである。だが、果たしてそうだろうか。いま、この瞬間、私たちの知らない恐怖、地球以外の生物が私たちを狙っていないと断言できるであろうか。そして、その最初の犠牲者は……あなたかも知れない」
ナレーション中の映像は、TBS屋上から見おろした赤坂4丁目の風景→銀座の雑踏につなぐ・銀座の人波・交差点の人間のひとりにズームイン、という内容。ナレーションが終ると宇野誠一郎のOPテーマ曲が流れる。OPフィルムが暗転して星空になり、その奥から円盤3機が飛来する。円盤がアップになってそのまま消えると「遊星人M」のタイトルロゴがあらわれる。ロゴ消えるとまた星空になり、星空をバックにしてスタッフ・キャストが表示される。

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次回からは各話のあらすじを紹介します。
posted by 猫山れーめ at 21:20| Comment(0) | 遊星人M(TV版) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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