2021年01月20日

パトロール隊出動!(Polizeifunk ruft) 放送リスト

西ドイツのSFテレビドラマ「宇宙パトロール~宇宙船オリオン号の素晴らしき冒険~」は残念ながら日本で放送されることはなかったが、西ドイツの番組を日本へ輸出するルートが無かったというわけではないようだ。TBSで昭和44年に放送された「パトロール隊出動!」は西ドイツのARD(ドイツ公共放送連盟)で4シーズン(13話×4クール)が放送された人気ポリスアクションドラマで、第2シーズン最終2話ではTBSの共同制作により日本ロケが敢行されている。ストーリーとしては至極定番の刑事ドラマで特筆するものはない。スティングレイ発行「海外ドラマ超大事典」p237にみられる本作の紹介文では「ハンブルグの街を舞台に、パトロール隊のウォルター・ハルトマンと同僚たちの活躍を描く。」と至って簡潔である。

本作は第1シーズンがモノクロ、第2~第4シーズンがカラーで製作されている。日本ではまずカラー作品である第2シーズンから計8話分が選ばれ、昭和43年12月30日から翌44年1月9日の月~木×2週にかけて正午に先行放送された。その後、昭和44年4月1日から9月23日まで第1シーズンの全13話と第2シーズンの12話分、計25話が毎週火曜深夜23:45~0:15に放送されている。第3シーズンが西ドイツで放送されたのは昭和43年12月15日~44年3月10日の間で、日本語吹き替え版を作るには準備期間が足りなさすぎたのだろうか、第3シーズン以降は日本では放送されていない。

先に説明したとおり、第2シーズンでカール=ハインツ・ヘス演じるハルトマン(吹き替え:石原良)は他国との警察官交換プログラムに参加することになったという設定で、フランスで5話分をロケした他、日本でも2話分をロケしている。オリジナル版第2シーズンのラストを飾る第25話「Empfang in Japan(日本でのレセプション)」および第26話「Flucht nach Kyoto(京都への脱出)」の前後編がそれだ。

幸いなことに「パトロール隊出動!」は全52話を収録した7枚組DVDセットとして2009年にソフト化され、2018年には廉価版DVDセットも発売されているため、日本ロケ回も鮮明な画像で鑑賞することができる。残念なことに字幕機能が付いていないため「オリオン号の冒険」の時のように機械翻訳の助けを借りたストーリー紹介ができないが、それは今後の機会に改めて紹介することにしたい。EDテロップを見たところ、TBSや大映作品でよく目にした名前が何人も出てくるのに驚かされる。

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スタッフでは、共同脚本に佐々木守、カメラマンに渡辺公夫、音楽に冨田勲、録音に磯崎洋三と今野勉、共同監督に飯島敏宏(誤ってかJijimaと表記されている)。ほかにも今すぐには名前を特定できないスタッフの名前も何人か見られる。
前編の日本側キャストでは二谷英明、ジューン・アダムス、寺島達夫、夏木章、夏川大二郎、橋本力、上田忠好の名前が見られる。

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後編の日本側キャストは二谷英明、夏圭子、滝瑛子。外国人出演者にボガード参謀ことフランツ・グルーバーの名前が見える。
それはそうと、西ドイツでも「この番組はフィクションであり……」というテロップを流していたのか。どこの国でも創作物に伴う気苦労は同じようである。

下記は朝日新聞と毎日新聞のラテ欄から拾い出したTBS日本語吹き替え版の放映リストである。第1シーズンの第1・2・10話のサブタイトルは記載されておらず未確認。通常放送枠では本来20話が放送されるはずの8月12日にアポロ宇宙飛行士が記者会見を開くという特別番組が入って延期、本来先行放送の第8話にあたる「ひき逃げ犯を追え!」が放送されるはずの9月30日には「パトロール隊出動!」が放送されていない。またオリジナル版と日本放映版とでは放映順に入れ替わりがあると考えられるため、日本ロケの前後編が日本では第何話として放送されたのかも今のところ決め手がなく特定に至っていない。他のテレビ欄や海外ドラマ専門誌「テレビジョンエイジ」には何か有益な情報が掲載されているかもしれない。

<先行放送>  ※月~木 12:00~12:30
【1968年】
19 12/30 <カラー>ハレンチ強盗(※ハレンチ強盗顛末記)
20 12/31 <カラー>深夜の大非常線
【1969年】
21 1/1 <カラー>ロッカー破りを洗え!
22 1/2 <カラー>大都会の落し穴
23 1/6 <カラー>空港に網を張れ!
24 1/7 <カラー>美貌の女詐欺師
25 1/8 <カラー>偽装殺人事件
26 1/9 <カラー>ひき逃げ犯を追え!(仏)

<通常放送> ※火曜 23:45~00:15
【1969年】
1 4/1 (サブタイトル不明)
2 4/8 (サブタイトル不明)
3 4/15 流し目のヒッチハイカー
4 4/22 時速140キロの狼たち
5 4/29 立入禁止地帯
6 5/6 真夜中の厩舎に張込め
7 5/13 非常なる裏切り
8 5/20 脱走狼を罠にかけろ
9 5/27 深夜の陰謀をあばけ
10 6/3 (サブタイトル不明)
11 6/10 帰って来た凶悪犯
12 6/17 森の暗殺者を捜せ!
13 6/24 学園を汚したのは誰だ!
14 7/1 <カラー>呪われた結婚式
15 7/8 <カラー>黒い誘拐者を捜せ!
16 7/15 <カラー>脱走犯を逃がすな
17 7/22 <カラー>女家庭教師
18 7/29 <カラー>影
19 8/5 <カラー>ハレンチ強盗顛末記
× 8/12 <カラー>特別番組:アポロ飛行士初の記者会見
20 8/19 <カラー>深夜の大非常線
21 8/26 <カラー>ロッカー破りを洗え!(再)
22 9/2 <カラー>大都会の落し穴(再)
23 9/9 <カラー>空港に網を張れ!
24 9/16 <カラー>美貌の女詐欺師
25 9/23 <カラー>偽装殺人事件


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2021年01月18日

ホクロにご用心!(My Living Doll) 放送リスト

東京12チャンネル(現在のテレビ東京)が開局してまだ日も浅い頃、ここで放送される海外ドラマはおおむね他局で本邦公開済みの作品をそのまま、あるいは改題し、あるいは新しく吹き替えて放送するものが多かった。が、そのうち東京12チャンネルで本邦初公開となる海外ドラマも少しずつ増えてくるようになる。

「ホクロにご用心(a.k.a. ホクロにご用心!)」はその東京12チャンネルで1968年4月1日から9月25日のあいだ全26話が放送された海外SFシチュエーションコメディードラマだ。放送時刻は当初は毎週月曜の23:15~45という深夜枠(ニューフジヤホテル提供)だったが、人気があったのか第8話からは水曜の22:30~23:00に移動した。タイトルは朝日新聞のラテ欄および新番組の広告によると第1話から第4話までは「ホクロにご用心」という表記だったが、第5話以降では末尾に感嘆符が付いて「ホクロにご用心!」と表記されている。

オリジナルは米国CBSで1964年9月27日から1965年3月17日にかけて放送された「My Living Doll」で、作られたばかりで感情も常識も経験不足な女性型アンドロイド“ローダ”(演:ジュリー・ニューマー、吹き替え:真山知子)と、ローダを作ったミラー博士から押し付けられてローダの世話をすることになったボブ・マクドナルド博士(演:ボブ・カミングス、吹き替え:広川太一郎)が繰り広げる「奥様は魔女」「かわいい魔女ジニー」のような秘密厳守コメディだが、主演のボブ・カミングスが契約トラブルのため米国版第21話で降板したため、2クールで終了してしまった。2クールに足りない残り5話分はどうやって乗り切ったのかというと、以前から登場しておりローダに片思いしているという設定のボブの同僚ピーター(演:ジャック・マラニー/マライ、吹き替え:愛川欽也)がローダの正体を知らされてボブの後釜に納まってしまうのである。短命に終わった本作品だが、今日では「宇宙家族ロビンソン」のロボット・フライデーの口癖として知られる「計算サレマセン(Does not compute)」をフライデーに先んじて世に送り出した作品としてSFテレビドラマ史に名を残している。

日本初放送時のサブタイトルと放映順は次の通り。第5話のサブタイトルは朝日新聞と毎日新聞には載っていなかった。他紙で確認できれば後日追記する。米国オリジナルサブタイトルと突合したところ、どうも第8話から第21話にかけて放映順の入れ替わりが何度かあるようだ。
Wikipediaによると1994年の地震で35mmオリジナルネガが失われ、2012年に発売されたDVDではマニアが11本だけ所蔵していた16mmプリントが使われたらしい。もし日本放映版のプリントが現存しているならば、何はさておき米国のマニアに知らせてあげてほしいものである。

1 4/1 美人ロボット誕生
2 4/8 身だしなみは下着から
3 4/15 読ませた本がアダとなり
4 4/22 こわれちまっただあー
5 4/29 (サブタイトル不明)
6 5/6 結婚なんてとんでもない
7 5/13 僕は相手が欲しいんだ
8 5/22 笑ってくれなきゃイヤイヤイヤ
9 5/29 審査員は手が早い
10 6/5 サイコロの目を読む方法
11 6/12 女房一人に山羊二十匹
12 6/19 うそつきは泥棒の始まり
13 6/26 転り込んだ1千万ドル
14 7/3 ひがみっぽいのはお年のせい
15 7/10 何が何んでも飛び降りる!
16 7/17 ギャングと玉突き
17 7/24 天才画家あらわる?
18 7/31 盗みのクセが悩みのタネ
19 8/7 宇宙飛行も楽じゃない
20 8/14 判事さんはイカしてる
21 8/21 暖めて狂わせろ
22 8/28 三度の食事は六人前
23 9/4 鐘にうらみはないけれど
24 9/11 モデルになれば夢はパリ
25 9/18 死体は生きている
26 9/25 芸能界はきびしい


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2020年06月10日

TV エノケンの孫悟空 全話レビュー/第五回

放送日:1957.2.3(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ局
演出:鈴木利泰/フロアマネージャー:吉沢比呂志・政田一喜/テクニカルディレクター:吉本琢也/CCU:成田哲雄/カメラ1:坂本晃、カメラ2:木村忠雄、カメラ3:武谷雅博/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利/照明:吉井澄雄/テレシネ技術:桜井芳裕/美術:出口雄章/美術進行:芦田光長、清水専三、田島、高木、矢野/化粧:小松英子/かつら:細野かつら店/衣裳:山我幸江
出演:榎本健一(孫悟空)、須藤健(牛魔王)、谷村昌彦・栗野操・石井沿彦(牛魔王の児分(1)~(3))、三越富夫(安甲)、岸本清(猿六爺)、横田年正・雲野朗・谷昭・坂井隆・小林幸・中右昌夫・辻仁一・村田茂男・中沢永一郎(山猿(1)~(9))、岡安博・泉正・石倉玲子(小猿(1)~(3))、安田洋子・山田薫(女(1)~(2))

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妖術を身に付ける念願が叶い、觔斗雲に乗ってふるさと花果山へ急ぎ帰ってきた孫悟空。水簾洞の入口から手下たちに呼びかけるが、誰も出迎えに出てこない。不審に思いつつ中へ入っていくと洞窟の奥では山猿たちが隅の方で震えていた。
「あ、あなたはいったいどなた様ですか」「どなた様ッて、俺は花果山水簾洞の主、猿彦大王、孫悟空様だ」「猿彦大王、孫悟空様……? するってぇと、昔々西牛賀洲へ妖術を習いに行かれたという大王様ですか」「いかにも、その猿彦大王じゃ」
驚いた山猿が孫悟空の帰還を大声で知らせると、屏風の裏から杖にすがった猿六じいさんが出てきた。
「えっ、そりゃ本当か? おう、大王様だ! 大王様、お懐かしゅうございます。猿六でございます」「猿六?」「はい。大王様はお忘れになったかも存じませぬが、西牛賀洲に行かれた時、私はほんの子供でした」「うーむ、そうかい……すると随分永い間、ここを留守にしてたってわけだなぁ」「はい。……しかし大王様はちっともおかわりになりませんねぇ」「そんな事より、他の山猿たちはどうしたんだ?」「されば……牛魔王という妖怪のために、次々とわが同胞は捕えられていってしまったのです」
自分が不在の間の一大事件を知った悟空は牛魔王のもとから仲間の猿たちを必ず救いだしてきてやると猿六たちに約束する。

そのころ牛魔王は側女に酌をさせつつ、子分に命じて山猿たちを奴隷のように働かせていた。側女もまた捕らわれてきた女たちで、家へ帰りたいと泣くが牛魔王は聞き入れない。
その牛魔王のすみかへとやってきた悟空。門前には鉄の扉が降りている。その扉に悟空が手を掛けたとたん、飾りだと思っていた牛の顔の目が光り、「モーウ、モーウ……」と警報を発し始めた。悟空の手は扉に吸い付いたように離れない。
「アッ! こいつはいけね! こんな仕掛けがあったのか!よーし、そんならこっちも」
思わぬトラップに引っかかった悟空はとっさに妖術を使って姿を消した。やがて牛魔王の子分が警報を聞いて門から出てきたが、姿を消している悟空には気付かない。誤報と思い込んだ手下が警報を解除したのを幸い、この隙に門の中へ侵入した悟空は、子分が牛魔王のもとへと報告に戻るのに付いていき、まんまと牛魔王が居座る本拠地の最深部に辿りついた。
「ややっ貴様は何者だ」「俺は花果山水簾洞の主、孫悟空様だ」「それがこの牛魔王様に何の用があって来たのだ」「子分を返してもらいに来たのだ」「子分を返してもらいたいって……生意気な山猿め。それっこいつもやっちまえ」
牛魔王に命じられた手下その一が悟空に向かっていくが、悟空が妖術を使ってフッと吹くとたちまち固まってしまう。別の手下その二が向かっていくと、また固められてしまう。たちまち3人の手下が固まってしまった。
「ウン、ちょこざいなり孫悟空、かくなる上は余が成敗してくれん」
牛魔王の振り下ろす薙刀をひらりとかわす悟空。追いかける牛魔王、逃げる悟空。
悟空は逃げるうちに山猿たちの閉じ込められている牢へと辿りついた。猿彦大王がみずから助けに来たと知って歓喜に沸く山猿たち。解放した山猿が追加の戦力となり、ついに牛魔王一味は降参。悟空は自分の子分の山猿たちを連れて帰ることを牛魔王に認めさせ、ついでに牛魔王の持つ武器を全て渡すことにも渋々同意させた。あまつさえ毎年かならず貢物を持ってくることまで約束させると、とどめに先程まで山猿たちが入れられていた牢へ牛魔王一味を押しこめて鍵をかけて出て行ってしまう。

牛魔王に捕らわれていた女たちが解放されたのを見届けると、悟空は子分たちに「雲に乗せて連れて帰ってやろう」と話す。雲に乗れると聞いて大喜びの子分たちだったが、悟空から言われるがまま隅に集まると、悟空の妖術で全員チョコレートに変えられてしまった。小さなチョコレートになった山猿たちを拾い集めてふところに仕舞う悟空。
「親分、わたしたちをこんなに小さくして、どうするんですか」「心配するな。不二家の動物チョコレートにして連れて帰るんだ。見ろ、とってもかわいいだろう」
そう言うと觔斗雲に乗りこみ、牛魔王の住処を後にして去っていく悟空。

牢の中に残された牛魔王と手下たちは、何とか悟空に対して仕返しできないものかと思案していた。ちょうどそこへ竜王一族の安甲が牛魔王を訪ねてくる。安甲に助けられて牢の外へ出た牛魔王たちは、これまでの経緯を安甲に話し、何かうまい悟空への仕返しはないかと相談する。それを聞いた安甲は「お任せください」と小声で牛魔王に耳打ち。どうやら何か妙案が思いついたようだ。

水簾洞に着いた悟空は、出迎える山猿たちの前でチョコレートにしていた子分たちを元の姿に戻した。別れ別れになっていた家族が感動の再会を果たし、喜びと悟空への感謝を口にしながら洞窟の奥へと戻っていく。――気がつくと、水簾洞の入口には悟空一人しか残っていなかった。
「あー、親子、兄弟って良いもんだなぁ……俺にゃどうして親もなけりゃ兄弟もねえんだろう」
ここで第一回でも歌った“天涯孤独を憂う唄”を歌う悟空(※画面に「不二家フランスキャラメル」のテロップ入る)。

その夜のことである。槍を携えた子分の山猿が水簾洞の入口で番をしていると、誰かが近づいてきた。さきほど牛魔王と密談をしていた竜王族の安甲である。
「孫悟空様はおいででございましょうか」「お前は何者だ!」「私は東海の竜王のところから参りました。どうぞこの手紙を孫悟空様にお渡し願いとうございます」
番兵が預かってきた手紙に悟空が目を通したところ、これは竜王からの招待状であった。悟空から面会を許されて入ってきた安甲、おべんちゃらを言って悟空の機嫌をとる。
「これはこれは、うるわしきご尊顔を拝し、きょうえつ至極に存じます」「竜王のお使者、遠路ご苦労であったのう」「ところで如何でございましょう。孫悟空様には竜宮においで願えましょうか」「うん、勿論お伺いする」「ははぁ、有難うございます。何しろ近頃、花果山水簾洞の孫悟空様といえば知らない者は知らないが知ってる者は誰でも知っている、甘いもカライもスッパイもなんでもかんでもかみわけた天下無敵の大王様、いまどき孫悟空様のお名前を知らない者は馬鹿かアホーはテーノーぐらいなもので……」「フフフフフ、それほどでもないがね」「いえ、孫悟空様においでいただければ、主人、竜王はどんなに喜ぶことでしょう……私も使者として、はるばる参った甲斐があるというものでございます」「ではそなた、ひとまず先に帰り、竜王どのによろしくお伝え下さい」「ハァ! ではお待ちいたしております」「ご苦労であった」
去り際、うまくいったとばかりにペロリと舌をだす安甲。

安甲が帰ってしまうと、傍で控えていた子分の山猿が悟空に上申した。
「あのー、大王様、竜王のところへ行かれるといっても、竜宮は海の中にあるんですよ。海の中にはいろいろ恐ろしい者がおりますからおやめになった方が良かろうかと存じますが」「つまらぬ心配するな、俺は妖術が使えるんじゃ。どんな化け物が出ようと、へっちゃらだ。では行ってまいるぞ」
自分を誇るいさましい唄を歌いながら水中を進んでいく悟空。やがて遠景に竜宮が見えてくる――

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【解説】
牛魔王は山猿たちを奴隷のように働かせているが、何の作業をさせられているかの描写はない。台本上にメモされた2カメ・3カメの確認図では山猿たちは「※」形の図で表現されており、これが“十字に組んだ棒に4人の山猿を配置させること”を意味しているのであれば、いまや「奴隷が回す謎の棒」としてネタにされたりネット百科事典にまとめられたりしているお馴染みのアレだったのかもしれない。

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前半では牛魔王の悪辣さが目立つものの、牛魔王が降参してからは悟空の尊大ぶりが鼻につくせいか、どちらが善玉でどっちが悪玉がわからなくなる。もっとも三蔵法師と出会うよりも前の話なので悟空らしいといえばそうなのではあるが。
またこのドラマの作者は隙あらば悟空に孤独であることへのコンプレックスを漏らさせようとするようだ。天外孤独の唄を披露するのはエピソード第一回(放送第二回)以来。「天涯孤独の唄」……というのは別にそういう題名なのではなく筆者が他の劇中歌と区別する便宜上そう表現しているだけで、台本ではどの劇中歌にも題名は記されておらず「悟空の唄」となっている。

今回使われたトリック撮影――便宜上「特撮」と呼んでよいと思うが、現存する台本上に指定が見られるものは次の通り。
・テロップカードによるものが「觔斗雲で飛ぶ石猿」「觔斗雲で飛ぶ猿彦王」(※名称は台本の指定のまま。以前のエピソードで使用したテロップカード2枚の再使用ということか)。
・フリップカードを写すものが「夜空梢ごし」、これは特撮というより時間経過をあらわすコマのようなもの。
・ミニチュアを使用するものが「花果山遠景」「水簾洞洞窟」「水中の竜宮遠景」。
・冒頭の觔斗雲で飛行中の背景と、ラストの水中シーンの背景はスクリーンプロセス。
・悟空が姿を消すシーンと、悟空の妖術で手下が次々と固まるシーンではスライド写真を使用。
・姿を消して門から入っていく悟空は黒幕前で演技する悟空(3カメ)と門を開ける手下(2カメ)の映像をダブらせた。
悟空が子分たちを不二家動物チョコレートに変えるシーンは特撮ではなくカメラワークによるもの。

余談だが、昭和15年の東宝映画版「孫悟空」と昭和32年のTBS版「エノケンの孫悟空」の中間に位置する昭和22年の東宝演劇版「孫悟空」での悟空は如何な性格立てだったものかとパンフレット(1947年11月5日発行)を取り寄せて梗概を読んでみたところ――どうもお話が変である。詳しくは菊田一夫による脚本を確かめてみないとわからないが、ストーリーは悟空が天界で大あばれして釈迦に閉じ込められるまでの物語で、天竺へお経を取りに行くくだりは含まれない。その中に天蓬と嫦娥とその他諸々を巡る恋愛話が絡んでくる。悟空は天界で爪弾きにされるうちに自暴自棄になって天界の桃の肥料を食べて妊娠、自分と瓜二つの赤ちゃんを出産して驚きのあまり卒倒しているところを逮捕されるとか書いてある。――ちょっと理解がついていかない。少なくとも三蔵・八戒・悟浄は登場はするものの特別出演みたいなものでストーリーにはあまり絡んでこないようであった。
なお演劇の正式タイトルは昭和15年版「孫悟空」と同様に冠の付かない「孫悟空」だが、ゲスト出演の寺島玉章・茶目の紹介文では昭和15年版「孫悟空」のことを括弧書きワンワードで「エノケンの孫悟空」と書いている。
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2020年04月13日

TV エノケンの孫悟空 全話レビュー/第四回

放送日:1957.1.27(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ局
演出:鈴木利泰/フロアマネージャー:吉沢比呂志・政田一喜/テクニカルディレクター:吉本琢也/CCU:成田哲雄/カメラ1:坂本晃、カメラ2:木村忠雄、カメラ3:武谷雅博/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利/照明:吉井澄雄/テレシネ技術:桜井芳裕/美術:出口雄章/美術進行:芦田光長、清水専三、長島省吾、高野将夫、山田守/小道具:高橋俊一/化粧:小松英子/かつら:細野/衣裳:山我幸江
出演:榎本健一(孫悟空)、中村是好(仙人)、武智豊子(婆や)、音羽美子(玉英)、武藤英司(椀丹)

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前回のつづき。悟空が薪割りの手を休めて「いつになったら妖術を教えてもらえるんだろう」とボンヤリしているところへ仙人が「これ猿彦、ボツボツ妖術をおしえてやろう」とやってきた。「ではまず、わしを打ってまいれ」「お師匠様をなぐっていいんですか」「かまわん、思いっきり殴ってこい」悟空がこれで殴ってやろうと薪を手に取ると、仙人の姿がスッと消えた。慌てる悟空のそばで仙人の声が聞こえてくる。「わしがここにいるのがわからんのか」「いいえ、わかります」「わかったら打ってこい」悟空は声が聞こえるあたりへ薪を打ち下ろすが、何度やっても空を切るばかり。そのうちに悟空は声の反対方向に仙人がいるらしいことに気付き、声がする方と逆の向きを薪で打ったところ、見事に仙人の頭へ当たった。仙人は悟空の手腕を誉め、妖術修業は終わったから山西洞を卒業するがいいと伝える。悟空はまだ何も教えてもらっていないと慌てるが、姿を消したり空を飛んだりする術は卒業証書に書いてあると言われて胸をなでおろした。

翌朝、仙人の居間で卒業式が行われた。仙人がうやうやしく証書を読み上げ始めると、どこからか蛍の光が聞こえてくる。「卒業証書。右の者はよく薪割りをし、水をくみ、お風呂を沸かした。以下長いから省略」「なんです、それは。随分へんな卒業証書だなぁ」「いらないのか」「いえ、いります」「では、これを授ける」受け取った卒業証書を早速広げて読んでみると、聞き覚えのない名前が書かれている。「孫悟空ッてなんだろう」「馬鹿者、それはお前に授けた名前じゃ。こんにち只今より、そなたは孫悟空と名乗れ」「孫悟空ねぇ……」「良い名前であろうが」「はい、結構な名前ですが、それよりねェお師匠様、妖術の方はちっとも書いてありませんねぇ」「あわて者、よく最後まで見ろ」巻き物を広げていくと確かになにやら書いてある。「なるほど……書いてある書いてある。まず最初、髪の毛をこう抜いて……」「アイタ、イタタ」「あっこれは失礼……つい夢中になってたもんで」「何てそそっかしい奴だ。自分の髪の毛を抜くんじゃ。よりによってわしの大切な髪の毛を抜くとは」「だってお師匠様はおいらより三本余計に毛があるんだからケチケチすることは無いじゃありませんか」「それは若い時の事でこう年をとると頭の毛は数えるくらいしかありません。もたいないことをする奴じゃ」仙人に呪文のコツを教わりながら髪の毛を抜いて吹くと、悟空の姿がパッと消え、また毛を抜いて吹くと元の姿に戻った。「なんだ、わりと簡単じゃねえか」仙人は悟空が術をうまく使えるようになったのを見届けると水簾洞へ帰るよう促した。が、行きかけた悟空を呼び止めると「そなた玉英が好きらしいが、お前はいかに妖術が使えようと所詮石猿じゃ。玉英は人間。猿と人間がいっしょになって、幸せになるものではない。かような事を言うのはつらいのだが、そちの行く末を案じればこそいうのじゃ」と玉英への恋を諦めるよう釘を刺した。

所変わって雑木林。玉英が美しい唄を歌っていると竜鳳がやってきた。竜鳳は玉英の父・椀丹から、玉英は猿の化け物に心を惹かれていると聞かされ、心配になってやって来たのだ。玉英はそれを否定しないばかりか、自分がもし竜鳳と結婚したら竜鳳はきっと盗賊の“鬼の大三元”に殺されてしまう、そんなことになるくらいなら猿彦と駆け落ちしてこの島を出たいと思っているのだと竜鳳に打ち明けた。

ちょうどその頃、山賊のすみかでは大三元が使いから戻ってきた子分の報告を聞いていた。「親分、今宵玉英をいただきに参上するという手紙、確かに手渡して参りました」「御苦労。して玉英に確かに渡してきたんだな」「それが、父親の椀丹に渡しました」「あれ、どうして玉英に渡さなかったの?」「あいにくと玉英がいないので……」「いないって、どこへ行ったんだ」「それが親分、あの竜鳳という男と」「どこへ行ったというのだ!」「さぁそこまでは……でもさしずめ今頃は手に手を取りあって『あなた』『なんだい』『あら恥ずかしいわ』」「まぁそう言うなよ……ってバカヤロ!不潔なことをするな!畜生!竜鳳のヤツうまいことやりやがって……ようし!野郎ども!こうなったら竜鳳の手からすぐに玉英を奪ってくるんだ!」

雑木林から戻ってきた玉英と竜鳳、そこへ大三元とその子分たちが立ちはだかる。「竜鳳!気の毒だが玉英は貰ったぞ!命が惜しけりゃ逃げるのは今のうちだぞ!」「なに!貴様のような盗賊に玉英を渡してなるものか!」「フフ……言ったな竜鳳。おう野郎ども、たたんじめぇ」真っ青になって悲鳴を上げる玉英。「誰か助けて!助けて!」

その悲鳴は、觔斗雲に乗って水簾洞へ帰る途中だった悟空の耳にも入った。あれは玉英さんの声だったような……と気がかりになって地上に降りて見ると、竜鳳がひとり嘆き悲しんでいる。事情を聴くと「私の恋人、玉英さんがさらわれたんです」というではないか。「なに、お前は何て意気地のねぇ男なんだ!てめぇの恋人がさらわれておきながら、取り返しにも行かねぇで、メソメソしてる奴があるかい!」「それが……何しろ相手は鬼の大三元という大泥棒なんで」竜鳳から玉英を助け出してほしいと懇願された悟空は単身、山賊のすみかへ乗り込んで行った。
「やい大三元、俺は孫悟空様という者だが、今さらってきた女を返してもらいに来た。素直に出せば許してやるが、さもなければ痛い目にあうぞ」「何をほざくか、片腹痛い。おい野郎ども、こいつもたたんじめぇ」たちまち始まる悟空と山賊たちの大立ち回り。

竜鳳が玉英の身を案じていると、椀丹が玉英を探す声が聞こえてきた。「おう竜鳳さん、玉英を知りませんか」「それがその……大三元のために」「えっ、もう連れて行かれてしまったのか……ああ竜鳳さん、貴方はなぜ玉英を守って下さらなかったのじゃ」「しかし今、どなたかは知らないが、助けに行って下さいました」「えっ、玉英を助けに!?」

山賊のすみかでは子分たちが全員のされてしまい、残った大三元だけが悟空と睨みあっていたが、大三元もやがて悟空の妖術のためにヘナヘナと座り込んでしまった。もう二度と悪行を働かないと誓わされ、玉英をここへ連れてくるよう命じられて大三元が出ていくと、悟空は「そうだ、おいらが玉英さんを助けるよりも、竜鳳に助けられたほうがいいだろう」と考えて竜鳳の姿に化けた。やがて玉英が大三元に連れられてやってくると、そこにいる竜鳳の姿を見て驚く。「ありがとう竜鳳さん、貴方ってかた、こんなに強い方とは思っていませんでしたわ」大三元もそこにいるのが孫悟空でなく竜鳳なので驚く。「あれ!てめえは竜鳳……あの野郎、いつの間に強くなりやがったんだろう」

やがて椀丹と竜鳳のもとへ玉英が帰ってきた。「玉英!よく無事に帰ってきたのう」「竜鳳さんどこへ行ったのかしら……まぁ、こっちにも竜鳳さん。おかしいわネ」「良かったですね、助かって」「まぁ、貴方が助けて下さったのじゃありませんか」「私は知りませんよ」「何がなんだかサッパリわからないが、まぁとにかく、玉英が無事に帰って来てこんなめでたい事はない。さあ、家に入んなさい、入んなさい」
三人が家の中へ入っていったのを見届けて物陰から姿をあらわす悟空。「玉英さんも竜鳳さんもこれで幸せに暮らせようっていうものだ。これでいいんだ」そのとき仙人の声が聞こえてきた。「これ悟空、早く水簾洞へ帰れ。おまえの子分の山猿たちはひどい目に遭っているぞ」「そりゃ本当ですか!じゃ、私はすぐ帰ります。お師匠様もお達者で」「ウン、お前もな。さらばじゃ……」遠ざかっていく仙人の声。「早く帰ろう。玉英さん、お達者で。さようなら」悟空がその場を後にするのと入れ替わりに、竜鳳から事の真相を聞いた玉英たち三人が庭に出てきた。「それでは、さっき私を助けて下さったのは猿彦さんだったのね」「ええ」「そういうわけだったのか」「あっ、猿彦さんが雲に乗って飛んで行く」「あっ本当だ」「猿彦さん、ありがとう」「さようなら、さようなら」空を見上げて手を振りながら、口々に別れを告げる玉英たち。悟空も觔斗雲の上から後ろを振り返って別れを告げながら、一目散に水簾洞を目指して飛んで行くのだった。

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【解説】
冒頭で姿を消して見せる仙人、妖術のテストで消えたり出現したりする悟空、竜鳳に化ける悟空はスライド写真を用いたワイプ撮影。薪で叩かれた仙人の出現シーンは2カメ1カメの切り替えでトリックは用いていない。
卒業式の朝の山西洞はミニチュア、ラストシーンで空を飛ぶ觔斗雲に乗った悟空はテロップ合成(背景の雲と悟空をお互い逆方向に移動)。その前の振り返り悟空はスクリーンプロセス。
大三元が悟空に妖術でヘナヘナにされるという描写があるがトリックの指示はない。そういう見たての演技で済ませたと思われる。
もはやミュージカルのていにもなっていない、唄のシーンは玉英登場シーンのみ歌詞あり。ここで「不二家のフランスキャラメル」のテロップがかぶる。

悟空が大三元を懲らしめてから後のシーンはどうやら脚本を現場で大きく改稿したらしい。紙を貼って上から万年筆で書き改めているため印刷当初の脚本はほとんど判読できないが、悟空は竜鳳の姿に変身したりはせず、悟空として玉英を助けたうえで仙人のいいつけ通り身を引き、人間である竜鳳に託して水簾洞へ去っていく展開だったようだ。今回のエピソードも「西遊記」には無いオリジナルだが、自らの恋を諦めライバルになり替わってヒロインに結び付けようという改変は戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」でもよく知られる展開。1951年にはアメリカでの映画化作品が日本公開されているし影響を受けて取り入れたのかもしれない(そういえば手塚治虫も1953年に「快傑シラノ」を連載している)。修行のため恋路を捨てる――というと結城孫三郎一座が「玉藻前」の前にNHKテレビ実験放送で演じていた連続マリオネット劇「猿飛佐助」の第一話(1952年3月23日15:30-16:00放送)がだいたいそんな感じの締めだったのを思い出したので、立川文庫あたりの「猿飛佐助」をサルつながりで西遊記に持ってきたのかなと思ったのだが、調べてみても立川文庫版にそういう展開は見当たらなかったのであった。これが話に聞くシンクロニティというやつか、いや違う。

なお、この第四回でのリハーサルの様子が集英社の芸能雑誌「明星」昭和32年4月号のp.58に掲載されており、孫悟空のメーキャップや衣裳、仙人から授かった免許皆伝の巻き物に書かれた“孫悟空”の命名シーン、そのあと玉英を慕う悟空に仙人が釘をさすシーンの様子が確認できる。

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posted by 猫山れーめ at 19:41| Comment(0) | エノケンの孫悟空(TV版) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月09日

「PZFジェット機」は本当に誤植だったのか

2006年12月29日(コミケ71の1日目)合わせで「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃 作品解題」を発行した際、可能な限り原本の表記を忠実に再現するという方針をとったので、明らかな誤植であってもそのままテキストに起こした。
ふつう全集などの巻末で複数の作品を個別に解説していく「作品解題」を誌名にしたのは、今にして思えばくだらない考えすぎが発端だったと記憶している。
ほぼ20年ぶりに他人の著作物を再録した同人誌を作るのにあたり(※これ以前に私が他人の著作物を復刻したオフセット同人誌には漫画家の寺島令子先生の学生時代の作品を再録した1988年8月1日発行「寺島令子初期作品集」があった)、これを建前上は私の著書(映画研究書)とし、脚本はその参考資料として採録する形をとったほうが、何かあったときに関沢新一サイドに迷惑をかけずにすむのではないか……とその時は考えたのだ。当時の窓口であった日本シナリオ作家協会に問い合わせて、脚本を採録するのに映画製作会社から許可を得る必要はないと確認ずみではあったが、晩年の関沢氏がこの話題から避けていた様子を他の作家の著作から2例見かけていたこともあって、思わぬ方面から揚げ足を取られることが無いよう著作権法やら判例やらを調べまくって自己防衛にも努めていた。

私自身は「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」を見たことが一度もない。中学生のころガンプラに惹かれて手に取った1981年夏の朝日ソノラマ「宇宙船」vol.7をリアルタイムで読んでいながら、そこに大きく掲載されている怪ロボット・ダレスのスチル写真は「古典SF洋画のロボットだな」と思い込んで読み飛ばしていたくらいだった。
その後、大学生となって図書室の書庫に入ったとき「朝日新聞縮刷版」の存在を知ると、失われたはずの過去のテレビ番組がそこに息づいているのを見てすっかりイカレてしまい、毎日のように書庫へ入り浸るようになり、やがて色々なドラマのサブタイトルリストを作り始めた。余談だが、この当時に毎週○曜日の○面に該当するページを何千日分もめくり続けていたおかげで、今でも7日おきの日付を頭の中でスムーズに思い浮かべることができる。そうしているうちに朝日新聞縮刷版の昭和31年11月号のとあるページで今まで見たこともない特撮映画の広告が目に入った。そこには「M87星雲が地球を総攻撃!」という惹句が踊っている。「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」という身も蓋もないタイトルに、私はなぜか強く興味を惹かれた――

――どうも「記憶をたどりながら書く」と話が脱線していけない。要は、その後「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」は脚本を読んだ限りでは面白そうなのになんだか不当に評価を貶められているのはなぜだろうと感じ、文献を調べていくうちに、どうやら今では映画を実際に見て評価できないらしい、それで公開当時のキネ旬の映画評でケチョンケチョンに叩かれてるからみんな右へ倣えしているようだ(評価の内容が似通っていて、なかには孫引き・曾孫引きらしきものまである)、でもキネ旬のバックナンバー辿ったらこの戸田隆雄ってひと戦前から辛口批評ばっかりしてるじゃないか、大伴昌司も1969年の「世界SF映画大鑑」でケチョンケチョンだけどどうやらテレビで見ての感想らしいし、成熟した60年代SF映画と比べて語るなんてフェアじゃない、こういう流行・トピックスに便乗した映画=いわば「トピック・ムービー」は時代を問わない永遠の視点から値踏みするのではなく、1956年当時の大衆ニーズという視点から価値を見直さなきゃいけないんじゃないだろうか?……そういう動機から始まって、脚本を復刻して多くの人が手軽に読めるようになれば、再評価につながるんじゃないかと思ったのである。

「日本初期SF映像顕彰会」という名称も、個人で当時の関係者等に手紙を出しても相手にされないと思って考えた架空の団体名だった。言ってしまえば独り親方である。主演の高嶋忠夫を含め、所属事務所がわかる関係者には可能な限り手紙を出したが、返事は1通もこなかった。「作品解題」は200部印刷したが、コミケ71で売れたのは80冊だった。これでもよく売れた(「売れる」=大切なお金を払ってでも興味を持ってくれる人がいる、と私は認識している)と思うが、当時は120冊を持ち帰ることになり呆然としたのを覚えている。その後、特撮関係の本で名前を見かけるライターの方々へ、無礼にも一方的に「読んでください」と郵便で送りつけたり、専門書店に委託させてもらったり、小規模なSF関連の集会で手売りしたりして、少しずつ在庫を減らしていった。とあるライターの方から「興味があるので通販方法を教えてください」と連絡があり、日本中誰もが知るビッグネームの方だったので舞い上がって「先に本を送るので届いたら代金をお願いします」と送ったら、贈呈されたと思われたのかお金を払ってくれなかったこともあった。完売するまでの期間はよく覚えていないが、コミケ74終了時の記録では在庫12冊、コミケ75では販売実績の記録がないので、複数のイベントに参加費と旅費を払い積極的に参加して何とか2年で片づけたようだ。

また脱線してしまった。「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃 作品解題」発行から11年が過ぎた2017年12月30日(コミケ93の2日目)、今度は主従を逆転させることなく「著:関沢新一」として正規の脚本集「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」を発行することにした。11年の間に関沢新一の著作権管理は日本シナリオ作家協会から個人弁護士事務所に移っていたが、幸いにも許諾を得ることができた。
私が2011年から始めた新書版での同人誌では、これまでのB5判同人誌が出典元の資料性を第一に考えて旧字旧かなはもちろん誤植も忠実に再現しており、それがかえって今の読者と古典作品との間に壁を作っているのではないかと反省した結果、誤植や旧字旧かなを私個人の責任で改めることにしたシリーズでもある。所有していた「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」の台本は誤植だらけだったので、これを改めることは脚本家の本意にも添うことだと思っており、迷いは無かったのだが、ある部分のセリフで私のタイピングの手はハタと止まってしまった。「PZFジェットって何だ……?」

FSFA_PZF.jpg

決定稿の中で、東京のどまんなかに現われた円盤を牽制するために三機編隊のジェット機が飛んでくる。これをおそらく自衛隊員が「只今、PZFジェット三機、間もなく上空に現れます」と知らせてくるシーンである。
私はミリタリーに詳しくないので当時そういう略号の軍用機があったのかもしれないと考え「PZF」というジェット機を検索してみたがヒットしない。もちろん対戦車兵器パンツァーファウストでないのは明らかなので除く。酣燈社の1955年版「世界航空機年鑑」を取り寄せてみたところ、Pで始まるのは米海軍の哨戒機だとわかったが、次のZを使う会社記号がない。仮にZが2の誤植で「P2F」だったら「グラマンが2番目に製造した哨戒機」という意味になるらしい。劇中ではこれがジェット機の3機編隊で、円盤をかすめて飛ぶという描写からちょっと違う気がする。レシプロ機のP-36 ホークは1954年には全機退役している。
このセリフは準備稿だと「只今、所沢の極東米空軍基地より連絡がありました、ジェット機三機円盤偵察のために出発、まもなく上空に現れるとの事です」となっている。もし「PZF」が「極東米空軍基地」の略称であれば辻褄が合うはずだ。検索したところ昭和31年当時の所沢にあったアメリカ極東空軍の略称はFEAF(Far East Air Force)だった。私はガックリした。やはりこれは肉筆で書かれた縦書きの「F86」が「PZF」に見えてそのまま活字を組んでしまったものなのか……。決定稿では三機のジェット機がどこの所属の機かについては触れられていない。F86-Fはこの頃には既に自衛隊に配備されている。当時のTBSの特撮SFテレビドラマ「遊星人M」の第10話でも「現にアメリカでは最新鋭・高性能を誇るスターファイターというジェット戦闘機も、ミサイルすなわち誘導兵器のナイキ、ファルコン、スパローさえも円盤の前には何の効力も発し得なかったといわれています。ましてや我が自衛隊の保持するF86F戦闘機が要撃に向かったとて……」というセリフがある。当時の日本人にはそれなりに馴染みのある名称だったはずだ。

私は腹を括って、このセリフを「只今、F86ジェット三機、間もなく上空に現れます」に改め、印刷所に入稿した。

新書版を発行してしばらく経つと、将来『空飛ぶ円盤恐怖の襲撃』がブルーレイなり劇場公開なりで見られるようになったとき劇中で『ピー ゼット エフ ジェット』と発音されていたら……という想像が私を悩ませるようになった。さらにアメリカ版Wikipediaを調べたところ所沢にあったFEAFに属する一部門として太平洋空軍(Pacific Air Forces)があったということも知った。「PZF」は「PAF」の誤植なのか、それとも実在の軍隊の名称を避けてわざと「PZF」と書いたのだろうか。

私としては一語たりとも軽い気持ちで選んではいない。その時その時での最善を尽くしているつもりである。誤植と判断した時は、それなりにそう判断できる材料が少しだけ他を上回っていたのだ。JESFTV第2号で「大怪獣ゲボラは撮影されていないのでは」と問題提起した時も、撮影されていたという証言の存在を知らなかったのだ。ただ、私が事実誤認をしたおかげで貴重な証言を教えてもらえることができたのは怪我の功名であったかもしれない。

この今でも私を煩悶させ続けている爆弾を孕んだ新書版脚本集「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」は、残酷なことに(2021年4月の時点で)まだ50冊ほど在庫が残っている。
posted by 猫山れーめ at 03:00| Comment(0) | 空飛ぶ円盤恐怖の襲撃 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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