2021年03月03日

宇宙物語・遊星人M 全話レビュー/第4話「火星を越えて」

宇宙物語シリーズその二 遊星人M
第四話「火星を越えて」
1957年1月3日(木)20:00~20:30放送

原作:香山滋、脚色:魚住大二、音楽:宇野誠一郎、広告代理店:博報堂、提供:シルバー携帯ラジオ(白砂電機)
制作:大垣三郎、演出:北代博、フロアマネージャ:忠隈昌、AD:柴田馨、デザイン:坂上建司、美術連絡:青山宏央、美術進行:芦田光長、小道具:高橋俊一、衣装:山我幸江、化粧:小松英子、音響:高橋孝・市川昭和・居作昌果、テクニカルディレクター:岩西浩、カメラ(ロケ):糸田頼一・藤波貞夫・中村昭三、ビデオエンジニア:北大路矗、オーディオエンジニア:林清男・須賀良浩、照明:倉本泰司

出演:
浅香(天文台勤務 理学博士)50歳……江川宇礼雄
園部伊都子(その助手)26歳……西朱美
水島亮吉(新聞記者)33歳……沼田曜一
関なち子(その恋人 インターン医学生)23歳……藤波京子
小野寺善樹(国立細菌学研究所長 医学博士)45歳……河野秋武
今井周一(科学小説家 アマチュア写真家)36歳……原保美
今井カズ子(その妹 サラリーガール)21歳……青島純子
寺尾晃(カズ子の恋人 サラリーマン)27歳……相原巨典
遊星人M(惑星ガロア人)……江見渉
川北利子(看護婦)……山岡久乃
ゴリラ……高木新平
阿古川(青年)……川上連太郎
ナレーター……浦野光

------------------------------------------
 円盤内のテレビモニターで兄・周一(原保美)からの連絡を聴き取ろうと必死でダイヤルを回すカズ子(青島純子)だったが、突然モニターから浅香博士(江川宇礼雄)の声が響いてくる。「ガロアの宇宙船に告ぐ……Mは危機に落ちた……Mは危機に落ちた」画像の映らないモニターからは続けてゴリラの唸り声や女性の悲鳴などが聞こえてくる。カズ子がさらにダイヤルを回すと、どうやら水島記者(沼田曜一)たちが遊星人M(江見渉)をピストルで追い詰めているらしき場面が聞こえてきた。やがて聞こえる拳銃の音――ところが続けて聞こえてきたのは関なち子(藤波京子)の怪訝な声。「あらっ、もう居ないわ。どうしたんでしょう」水島「すばしこい奴だ……が、それにしても変だな」川北看護婦(山岡久乃)も言う。「魔法使いみたい……ガロアの人間って魔法も使うのかしら」三人がMを探し回る音はやがてノイズに紛れて聞こえなくなった。カズ子が円盤の底面シャッターから眼下を覗くと、街の灯の中からMがぐんぐん上昇している。驚いて身退りすると、カズ子の覗いていたシャッターからスーッとMがせり上がり、円盤内に入り込むとカズ子には目もくれずに機械の操作を始めた。カズ子は怖れつつも思い切ってまたシャッターから眼下を覗いてみると――街の灯が急速に遠ざかっているではないか。Mはカズ子へ示すようにテレビモニターを点けてみせると、そこには浅香が入院していた国立細菌学研究所附属病院の小高い裏山が映し出された。ゴリラは再び昏倒した浅香を抱えて裏山の松林の中に逃げ込んだのだ。

地上では周一や水島たちがMとゴリラを追って裏山に集まっていた。水島の話によると、クリスマスパーティーでゴリラに引っ掻かれた女の子は今流行っている例の熱病を発症して病院に担ぎ込まれたそうだ。熱病に感染しているゴリラに接触すれば自分も熱病に罹る惧れがある……水島の話を聞いて戦慄する周一たち。水島は浅香博士の助手・伊都子(西朱実)に戻るよう呼びかけ、自分の恋人であるなち子にも伊都子を送っていくよう頼んだ。なち子は一旦は承諾しつつも、それよりあなたに話があると切りだす。周一たちは気を遣って水島となち子の二人だけを残してその場を離れるが、その隙をみてゴリラが忍び寄ってきた。水島はゴリラに気付かず立木のつもりでゴリラにもたれかかっている。
なち子は後を向いたまま水島に、特効薬の実験に失敗した小野寺所長(河野秋武)の実験を引き継ぎ、調合を変えて自ら実験台になるつもりだと打ち明ける。その前に水島から自分への感情を確かめておきたい……というなち子に、水島はお互いの気持ちが同じであると語った。なち子が喜んで水島の方を振り返ると、水島の真後ろにゴリラがいる! 仰天したなち子を見て水島もようやくゴリラの存在に気付いたが、逃げる暇もなくゴリラの一撃を喰らってその場に倒れてしまった。足がすくんで動けないなち子を尻目に、ゴリラは木の陰に隠していた浅香を抱え上げ、周一たちが去った向きとは逆の方向にノッシノッシと去って行った。
我に返ったなち子は悲鳴をあげて助けを呼び、倒れている水島にすがりついた。気が付いた水島はすぐさまゴリラを追いかけようとしたが、なち子から「あなたはもうゴリラから熱病をうつされてしまったのよ。症状は急激に来るわ。高熱・めまい・それから幻覚……」と聞かされるとショックで目を回し、再びひっくり返ってしまう。なち子はオロオロして立ったり座ったりと落ちつかない……ところが倒れた水島が目をキョロリと開いて「おい、変だよ。何でもないらしいよ」とその場で体操を始める。「変ね、どうしてあなただけ……あなたは特別なのかしら」「免疫かな……そんなら僕から血清をとるといいんだがね」「そうね、そして小野寺先生の薬の代わりに飲むといいんだわ、ウィスキーに混ぜて」「ウィスキー? 君、その薬はウィスキーに混ぜて飲むものなのか!」なち子の話を聞いてようやく、自分が小野寺所長の研究室でこっそり飲んだものはただのウィスキーではなく熱病の特効薬だったことを知る水島。「それじゃ、先生がお飲みになったのは……」「僕が新しく注いでおいたから、多分それを」「馬鹿……」だが、水島がピンピンしているということは特効薬の効果が証明されたということでもあるのだ。「すてきな馬鹿ね、あなたは」

宇宙空間に浮かぶ地球からぐんぐん遠ざかっていく円盤――その円盤内で機械を操作し続けているM。距離をおいて床にしゃがみMを睨みつけているカズ子。Mに何を尋ねても返事をしないのでカズ子は苛立っていた。「いいわ、兄さんが今に助けに来てくれるから。兄さんはそう言ってたもの。みんな力を合わせて助けに来てくれるわ」それを聞いたMがはじめて振り返って言う。「力を合わせて助けにくると?」Mがシャッター窓を開いてカズ子に見るよう促すと、窓からは遠ざかっていく地球が見えた。「君の体にショックを与えないよう速度を徐々に増した……今では光と同じ速さで地球から飛び去りつつある」戦慄するカズ子。「いやっいやっ、降ろしてっ……あたしをどこへ連れて行くの」「ガロア」いくらカズ子が泣き喚いて懇願してもMは顔色一つ変えない。「私は一旦ガロアへ帰らねばならぬ。大人しくしていれば害を加えはせぬ。おかげで君は珍しい旅行ができるというものだ。地球人の誰もまだしたことのない宇宙旅行を」絶望してガックリとその場にくずおれるカズ子。
やがて円盤は火星に近づいていく。機械を操作しながらMが放心してうずくまっているカズ子に言う。「しばらく火星の引力を利用して飛ぶ……見るがいい……地球人の誰一人、見たことのないものだ。君も二度とは見られぬ」Mの話を聞いているうちに好奇心が湧いてきたカズ子は、Mに対しては硬い表情を崩さないまま、シャッター窓を覗いてみた。火星の表面が急速に近づくのが見える。「火星の引力圏を抜ける。次は木星へ向かう……木星までは地球の時間であと約30分かかる」無数の星々の間を飛んで行く円盤の姿。
「あなた、なぜ一旦ガロアへ帰るの」「……」「また来るの、地球へ」「必ず来る」「そんならなぜ、一度ガロアへ戻るの」「私の大きな武器の一つが地球人に敗れた……あの便利な病気が」それを聞いて喜ぶカズ子にMが釘を刺す。「喜ぶのはまだ早い……私が一旦ガロアへ帰るのは新しい武器を積み込むためだ。そして再びやって来る……今度こそは失敗せぬ」

地上ではMが地球から一旦退去した事が知られないまま、「空の怪異対策委員会」で浅香がサーチライトを使った円盤探索を訴えていた。最初は笑って聞き流していた大鳥博士(清水一郎)も、全快した浅香と小野寺の両博士の決意表明を聞いて「まあやってみるのもいいでしょう。円盤が見つからなかったところで別にどうという事はないのですから」と鷹揚な態度を示した。「ただし、円盤が存在すると称して世人に衝動を与えた責任は、博士、この実験が失敗したら……」浅香「もちろん取ります」

その夜、水島記者から取材を求められて喫茶店に来た周一が、カズ子の行方について寺尾(相原巨典)と話をしていた。カズ子を人質に取って周一の口を塞いでいても、浅香博士が全快した今となっては円盤が目に見えない秘密は遅かれ早かれ明かされる。だからもうMにはカズ子を捕らえておく必要はない。とすると、帰してよこすか、あるいは――
そこへ水島が遅れてやって来た。早速、円盤が見えなくなる理論を尋ねる水島に周一は笑いながら事もなく話しはじめる。「つまり、保護色です」寺尾の胸のハンカチとマフラーが同色同柄なのを見て、それらを重ねてみせる周一。なるほどパッと見だと区別がつかない。「これと同じ理屈ですよ。円盤の表面が全てそのままテレビスクリーンだとすると……」周一はコーヒー皿を持ち上げながら説明していく。「上の風景がそっくり下の面に映る。昼なら雲と青空を、夜なら星空を……下から見て区別がつかないほど精巧に」寺尾が話に乗っかって言う。「じゃ、風船を上げればぶつかるから位置がわかる」周一は笑って頷き「そして夜ならば……」と言葉を継ぐと――「あっ、やった!」ふと窓の外を見た寺尾が素っ頓狂な声をあげ、水島たちも窓の外を見ると、夜の街に煌々とサーチライトの灯が伸びている。「サーチライトで照らせば、円盤に映っている星空の部分だけ特に光って見えるはずです」喫茶店の一隅から窓の外を見守る三人……そこにサーチライトに気付いた客が一人また一人と集まって窓の外の様子を眺めはじめるのだった。

------------------------------------------
【解説】
さて、前話から年末年始を挟んでおり視聴者にストーリーを思い出させるためか、少々長めの「これまでの粗筋」が番組冒頭に設けられている。――が、本作は基本的に生放送ドラマ。前話のフィルムを焼き増しして繋ぐという事など出来はしない。なんと“これまでの粗筋”も生放送での実演である。浅香博士のバストショットをテロップボードで映すカットが1つある以外は、2台のテレビカメラを切り換えながら、俳優が異なる背景のセットを行き来して浦野光のナレーションにあわせた演技をした。

裏山での水島となち子の会話では、二人が話している間中、ゴリラが水島を襲おうとしては知らず知らずにすり抜けられ、また水島も木の枝と思い込んでゴリラの腕に寄り掛かるといったコント仕立て(今でいうところの「志村ー、後ろー!」)になっているのが微笑ましい。
ゴリラは水島を殴ったあと浅香博士を抱えてどこかへ姿を消してしまったはずだが、ラスト近くの「空の怪異対策委員会」の席上では浅香博士は全快して熱弁を揮っている。山狩りで発見されたゴリラが浅香を置いて逃げ出したのかもしれないが、言及する描写がないので唐突さが拭えない。なおネタバレになるがゴリラは次回、Mによる支配力が失われており熱病で半死半生になっているところを発見される。

Mはガロアへ向かう際、火星へ接近することでその引力を利用して飛び(スイングバイ)、続いて木星に舵を向けている。ところが放送当時の火星の方向は木星と正反対の方向にあり、見たところスイングバイするメリットがあまりない位置関係のように見受けられる。
YuseijinM_02.jpg
(※国立天文台・4次元デジタル宇宙プロジェクトが公開しているマルチ天文ソフトウェア「Mitaka」で再現した放送当日の位置関係)
それでもMがあえて円盤を火星の傍まで接近させた理由は、接近中のMの言動から考えるとやはり観光目的でカズ子にサービスしたかったからという気がしてならない。

今回の特撮シーンはカット繋ぎ用の「宇宙空間に浮かぶ地球から円盤が遠ざかっていく様子」と「無数の星々の間を円盤が飛行する様子」がミニチュアを用いて16mmフィルムで撮影されており、生放送中にインサートされた。こういうカット繋ぎシーンの間に出演俳優が大慌てでセットを移動したり衣装を着替えたり、スタッフが背景セットを組み替えるのである。
また粗筋冒頭の星空、円盤のモニターに映し出される裏山にはスライドが用いられている。裏山のスライドはミニチュアを作って撮影したものを種板に使っており、台本では「この山の裾に夜の病院をも作れればなお結構。なくてもよし」という記述が見られる。

この「宇宙物語シリーズ」では本番終了後にデスク連が次回のためのブレーンストーミングを開き、この段階で「劇中でやりたいこと」と「それが技術的に実現できるか否か」の擦りあわせが行なわれたという。今日でいう美術監督の坂上建司、特技監督の岩田浩らが「こうすれば映像化できると思う」と判断したものが最終的に台本上に残った描写であるが、中には「ここまでやれればベターだけど、スケジュール厳しくて間に合わなさそうなら無くてもいいよ」と鷹揚に判断されたカットなどもあるだろう。上記の「山裾のミニチュアに夜の病院があると尚よし」もあらかじめ柔軟に対応できる範囲を示すことで多忙な現場に配慮した当時の知恵と工夫の痕跡なのかもしれない。
posted by 猫山れーめ at 00:45
"宇宙物語・遊星人M 全話レビュー/第4話「火星を越えて」"へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

最近のコメント