2021年03月02日

TV エノケンの孫悟空 全話レビュー/第六回

放送日:1957.2.10(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ局
演出:鈴木利泰/フロアマネージャー:吉沢比呂志・政田一喜/テクニカルディレクター:吉本琢也/CCU:成田哲雄/カメラ1:坂本晃、カメラ2:木村忠雄、カメラ3:武谷雅博/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利/照明:吉井澄雄/テレシネ技術:櫻井芳裕/美術:出口雄章/美術進行:芦田光長、清水専三、長島省吾、高野將夫、山田守/小道具:高橋俊一/化粧:小松英子/かつら:細野かつら店/衣裳:山我幸江
出演:榎本健一(孫悟空)、黒木憲三(竜王)、野々浩介(くらげ)、旭輝子(歌姫)、中原早苗(娘(おとと))、東山照子(その母)、大伴純(かながしら)、三越富夫(安甲)(※浦島役として一旦「久野四郎」を記入したのち上から鉛筆で塗り潰して消した跡がある)

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水中にある竜王の御殿へやってきた悟空、たまたま通りかかった太公郎に「あの立派な建物に竜王はいるんですか」と尋ねたところ「竜王? さァ知らないねえ……竜宮城にはキレイな乙姫様なら居るけど」という返事。自分を招待してくれたのはたしか竜王のはず……と訝しみながら、ふと太公郎が持っているものを見ると玉手箱である。太公郎は亀を助けた礼に竜宮城でもてなされ、お土産に玉手箱までくれたというのだ。

羨ましくなった悟空は自分ももてなされようと急いで竜宮へ向かおうとするが、そのときどこからか女の悲鳴が聞こえてきた。驚いてあたりを見回すと、巨大な貝に美しい乙女が足を挟まれている。駆けつけて貝を開こうとする悟空だが貝はびくともしない。「ウーム、こうなったら妖術を使って……いや待てよ、それよりいいことがある」と悟空は懐から不二家ゴールドチョコレートを取り出し、貝の前に差し出してみた。と、貝の中から手がニューッと伸びてくる。貝が不二家ゴールドチョコレートを欲しがるので、二度といたずらをしないよう言い含めてチョコと交換におととの乙女の足を離させる悟空。おととは礼を言って別れようとしたが、貝に挟まれた足に力が入らず歩けない。見かねた悟空はおととを支えて彼女の家まで送っていくことになった。

おととの家で母親からゆっくりしていくよう引きとめられた悟空は、これから竜王の御殿へ行かなければならないのでと言って固辞したところ、おととが大いに驚き、悟空の名を聞いてさらに驚く。なぜ自分の名前を知っているのかと尋ねても、うなだれて答えないおとと。
――おととは竜王の御殿でのことを回想していた。

竜王を中心に、家老のくらげ、側近の安甲とかながしらの4人が密談をしている。牛魔王より強い乱暴者の孫悟空をこのままのさばらせておくわけにはいかない、おびき寄せて殺してしまおう、かながしらが一太刀で斬り殺してご覧にいれます、仕損じた場合に備えて雷魚のもつ祖先伝来の毒薬で盛り殺してみせましょう……
竜宮の侍女であるおととは、たまたま通りかかって4人の密談を聞いてしまったのだ。
竜王「孫悟空が参ったら大宴会を催し、悟空めに散々酒を呑ませ、その酒の中に毒薬を入れるのじゃ。そして酔いつぶれた時を見計らって、かながしら、そなたが斬るのじゃ。相わかったな」――

落ちつかないおととに気を遣いつつも、竜王が待っているからと悟空は出かけようとする。おととは重い口の下で「……どうか竜王様の御殿へ行くのはおやめになってください……わけは申し上げられませんが……」と引き留めるが「折角招待されたのを、そうもいってられないよ。じゃ、あばよ」と悟空は行ってしまった。おととがオロオロとして「どうしよう、命の恩人の悟空様が竜王様に殺されるというのに……」と言うのを聞いて驚く母親。

竜宮に着いた悟空は期待通りの大歓待を受けていた。庭先から見える御殿の立派な造りに感心しきりの悟空は、ふと巨大な柱が建っているのに気付く。「あれッ、ありゃ何だい、この柱は?」家老のくらげが答える。「これは如意棒という柱でございます。何しろ重さ百万斤という目方のある、海底を計る物差しでございます」「海の深さを計る物差しねえ……あんな重たい柱を誰が持ち運びをするんだい」「いえ、この如意棒と申すのは、縮めれば耳の中でも入るという、竜宮の宝でございます」

御殿へ入ると竜王自ら悟空を出迎えての大宴会が始まった。竜王は歌姫に命じて一曲歌って聴かせ、その歌にあわせて侍女たちが舞い踊る。手を打って大喜びの悟空。竜王がくらげに目配せ――くらげが歌姫に目配せ――歌姫がうなずいて微笑むと、悟空の傍らにすり寄っていく。くらげ、歌姫に毒杯を飲ませろというマイム。歌姫、うなずいて徳利を取ろうとするが……同じ形の徳利が2つあるではないか。「あら!どっちの徳利だったかしら」「え、何かおっしゃいました?」「いえなに……確かこちら……」と誤魔化す歌姫、ドキッとしている竜王とくらげ。悟空は気付かないまま、毒薬の入ったほうの徳利を取り上げて「なぁに、徳利などどっちだって同じですよ。まァ一杯いきましょう」と歌姫に勧める。「どうぞ」「いえ私はお酒はダメなんです」「じゃ一杯だけでも……」「いえその一杯がいけないので……口をつけたトタン、ころっと……」「そんなに弱いんですか」「ですから、どうぞ、お客さまから一杯……」「では、遠慮なくいただきます」おとと、ハラハラしている。悟空が酒を飲んだのを見て思わず声が漏れる歌姫。「うまくいった! ……海のお酒はおいしいという評判ですが」悟空が「ウーム……」と唸るのでハッとする一同だが……「ウマイ!」という返事に一同落胆。

歌姫「するとやっぱりこっちだったのかしら……でも確かに……それともやはりこっちだったかしら」悟空「何をさっきから独りでブツブツ言ってるんだ?」くらげ「姫! もっとお勧めしなさい」竜王「くらげ、そちもお相手いたせ」「は、はい……」くらげは悟空の横に行って「あんた達は向こうへ行きなさい!」とおととを押しのけ「えへへ、どうも不調法者ばかりで申し訳ございません。さあ、どうぞどうぞ」「そうガブガブ呑めんよ」悟空が嫌々ながら盃を受けて飲もうとしたとき、はらはらと見ていたおととが咄嗟に「あらッ!」と声を上げた。驚いて呑むのを止める悟空。おととはくらげから嗜められて「あんまり良いお月でしたので……」と誤魔化すが「海の底から月が見えるわけがないじゃないか」とまた叱られる。そこでまたくらげに酒を勧められ、今度は止める間もなく呑む悟空。「ウーイ、なるほど、さすがは竜宮だ! いい酒だ! もっとじゃんじゃん持ってこい」くらげが勧める酒をぐいぐいと呑み干す悟空。くらげは首をひねって「ちっとも利いてこないじゃないか」とボヤくと、悟空は「いや利いたぞ、利いたぞ! すっかりいい気持ちになった」と言ってその場にいびきをかいて眠り始めた。「……おかしいな、やっぱり徳利を間違えたのかしら。この毒薬の酒は確か一舐めしただけでその場にのびてしまうはずなのに……」とくらげは徳利の酒を指につけて舐めてみたところ、突然のショックでその場に倒れてしまう。やっぱり毒薬入りの徳利で合っていた、と大騒ぎの一同。それを竜王が制すると、かながしらに手筈通り悟空を斬るよう命じた。かながしらが刀を振り上げた瞬間、おととがキャーッと悲鳴をあげる。その途端、悟空がガバッとはね起きた。「ウム、何をする」「ぬかるな、それッ!」「さては俺を謀ったな!」たちまち始まる悟空と竜王の手下たちとの大立ち回り。悟空は庭先へ飛び降り如意棒の大柱の周囲をぐるぐる回りながらとうとう手下を全て叩き伏せてしまう。

「竜王、覚悟!」「申し訳ございません。さすがは悟空様だ! 噂に違わず、いや噂より数倍お強い……その代わり当竜宮のものでお気に召した物がありましたら、何なりとお持ちくださいまし」「ほう、そうかい。何でも好きなものをくれるっていうのかい。じゃあ竜宮の宝という如意棒をもらって行こうか」「えッ! あの如意棒!?」「さっき聞けば、あれは伸び縮みするという事だが、あれを縮める方法を教えてくれよ」「それが……それが……」「おう! やだって言うのか? あれはくれねえって言うのか」「いえいえ、とんでもない。では縮める方法をお教えしましょう」竜王が悟空に耳打ちし、それを聞いた悟空が「ヤッ!」と試すと如意棒が三寸ばかりに小さくなった。さらに如意棒を伸ばす方法を聞きだして試すと、如意棒は振り回し易い大きさになった。「これならちょうどいい。じゃ、もらっていくぜ。これさえ手に入れれば鬼に金棒……じゃなかった猿に如意棒ッてなものさ。もう怖い者なんかあるもんか!」そしておととを呼び寄せ「おととさん、帰ろうか。俺ら、おととさんの家まで送っていくよ。こんな竜王の御殿なんて気持ちの悪い奴のいるところにいつまでも勤めていないで、家に帰ってお母さんと二人で楽しく暮らしなよ……さあ、行こう」一同はボンヤリと気が抜けたようになっていて、悟空がおととの手を引いて連れて行くのを黙って見送るだけだった。
竜王の御殿から遠く離れたところまで来ると、おととは悟空に尋ねた。「このまま、陸にお帰りになるのですか」「ああそうだよ、俺ら水簾洞へ帰るんだ!」悲しみを堪えて別れの挨拶を告げ、悟空から走り去るおとと。悟空はおととの去った方へ手を振りながら、おとととの切ない恋の別れの唄を歌うのだった。

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【解説】
命を狙われたからとはいえ、如意棒を分捕る際の悟空の口調はほぼほぼやくざだ。最後に竜宮からおととを連れ出した事も場当たり的で手前勝手、おととは別に竜王たちから裏切り者と目されたわけでもないのにわざわざ目立つように連れ出されたあと、竜王たちから保護するわけでもなくリリースしてしまう。悟空が去ったあとのおととの立場が気の毒でならない。

太公郎は台本では「浦島太郎」と印刷されており、上から鉛筆で「太公郎」に訂正されている。歌姫は台本中では全て「姫」としか書かれておらず、悟空にすり寄るシーンでは「悩殺型の姫」とも表現されており、竜王の娘にしては俗っぽいなと思っていたら香盤表に「歌姫」と書かれてあった次第。
今回のミュージカルノルマは3ヵ所。冒頭の水中シーンで悟空が軽快に歌う唄、大宴会で歌姫が歌う唄、ラストで悟空がおとととの別れを惜しむ唄。歌姫の唄のみ歌詞の書き込みがないが、歌姫役の旭輝子の持ち歌か何かを使ったのだろうか。ここで触れる事でもないが俳優の神田正輝は旭輝子の実の息子にあたる。
スポンサーノルマは貝(子供の声が指定されている。実は貝は子供なので不二家のチョコが大好き、という事らしい)にゴールドチョコレートを与えるシーン。

特撮は水中シーンの背景にスクリーンプロセスを使用。遠景で見える竜宮の建物にはミニチュアを用いた。水中行や太公郎とのやりとり、貝に足を挟まれているおととのシーンでは「マスク」という指定がみられる。画面に波ガラスのようなフィルターをかけて水中撮影のような効果を出すための指示か。庭先で巨大如意棒の柱を見上げるシーンでは、カメラ割りのメモから察するに柱の根元部分のセットの前で悟空とくらげが見上げながらセリフのやりとりをしたようだが、台本ではそれに加えて「天をつく如意棒(ホリゾント使用)」というカットが入るはずだった。これは鉛筆で×印をつけてキャンセルされており、どうも特殊効果シーンを極力減らそうという意図が感じられてならない。
ラストの大立ち回りで柱の周囲を竜王の手下と悟空が周るシーンではスローモーションにして背中合わせにぶつかったタイミングで元の速度に戻るという指示がされているが、当時の機材的にはスローモーションは使えない。俳優がわざとゆっくり動く人力スローモーションによって、狭いセットで走り回っている様子を表現しようとしているのである。

台本のスケジュール表によると、放送日の前日に「音楽先取(ラジオ九州)」という鉛筆でのメモ書きがある。当時「エノケンの孫悟空」をネットしていたのはCBCテレビ(同時ネット)と大阪テレビ(キネコ送り)だけで、ラジオ九州(現:RKB毎日放送)はまだテレビ放送を開始していない。現時点で何を意味しているのかは不明。
posted by 猫山れーめ at 00:38| Comment(0) | エノケンの孫悟空(TV版) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月10日

TV エノケンの孫悟空 全話レビュー/第五回

放送日:1957.2.3(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ局
演出:鈴木利泰/フロアマネージャー:吉沢比呂志・政田一喜/テクニカルディレクター:吉本琢也/CCU:成田哲雄/カメラ1:坂本晃、カメラ2:木村忠雄、カメラ3:武谷雅博/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利/照明:吉井澄雄/テレシネ技術:桜井芳裕/美術:出口雄章/美術進行:芦田光長、清水専三、田島、高木、矢野/化粧:小松英子/かつら:細野かつら店/衣裳:山我幸江
出演:榎本健一(孫悟空)、須藤健(牛魔王)、谷村昌彦・栗野操・石井沿彦(牛魔王の児分(1)~(3))、三越富夫(安甲)、岸本清(猿六爺)、横田年正・雲野朗・谷昭・坂井隆・小林幸・中右昌夫・辻仁一・村田茂男・中沢永一郎(山猿(1)~(9))、岡安博・泉正・石倉玲子(小猿(1)~(3))、安田洋子・山田薫(女(1)~(2))

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妖術を身に付ける念願が叶い、觔斗雲に乗ってふるさと花果山へ急ぎ帰ってきた孫悟空。水簾洞の入口から手下たちに呼びかけるが、誰も出迎えに出てこない。不審に思いつつ中へ入っていくと洞窟の奥では山猿たちが隅の方で震えていた。
「あ、あなたはいったいどなた様ですか」「どなた様ッて、俺は花果山水簾洞の主、猿彦大王、孫悟空様だ」「猿彦大王、孫悟空様……? するってぇと、昔々西牛賀洲へ妖術を習いに行かれたという大王様ですか」「いかにも、その猿彦大王じゃ」
驚いた山猿が孫悟空の帰還を大声で知らせると、屏風の裏から杖にすがった猿六じいさんが出てきた。
「えっ、そりゃ本当か? おう、大王様だ! 大王様、お懐かしゅうございます。猿六でございます」「猿六?」「はい。大王様はお忘れになったかも存じませぬが、西牛賀洲に行かれた時、私はほんの子供でした」「うーむ、そうかい……すると随分永い間、ここを留守にしてたってわけだなぁ」「はい。……しかし大王様はちっともおかわりになりませんねぇ」「そんな事より、他の山猿たちはどうしたんだ?」「されば……牛魔王という妖怪のために、次々とわが同胞は捕えられていってしまったのです」
自分が不在の間の一大事件を知った悟空は牛魔王のもとから仲間の猿たちを必ず救いだしてきてやると猿六たちに約束する。

そのころ牛魔王は側女に酌をさせつつ、子分に命じて山猿たちを奴隷のように働かせていた。側女もまた捕らわれてきた女たちで、家へ帰りたいと泣くが牛魔王は聞き入れない。
その牛魔王のすみかへとやってきた悟空。門前には鉄の扉が降りている。その扉に悟空が手を掛けたとたん、飾りだと思っていた牛の顔の目が光り、「モーウ、モーウ……」と警報を発し始めた。悟空の手は扉に吸い付いたように離れない。
「アッ! こいつはいけね! こんな仕掛けがあったのか!よーし、そんならこっちも」
思わぬトラップに引っかかった悟空はとっさに妖術を使って姿を消した。やがて牛魔王の子分が警報を聞いて門から出てきたが、姿を消している悟空には気付かない。誤報と思い込んだ手下が警報を解除したのを幸い、この隙に門の中へ侵入した悟空は、子分が牛魔王のもとへと報告に戻るのに付いていき、まんまと牛魔王が居座る本拠地の最深部に辿りついた。
「ややっ貴様は何者だ」「俺は花果山水簾洞の主、孫悟空様だ」「それがこの牛魔王様に何の用があって来たのだ」「子分を返してもらいに来たのだ」「子分を返してもらいたいって……生意気な山猿め。それっこいつもやっちまえ」
牛魔王に命じられた手下その一が悟空に向かっていくが、悟空が妖術を使ってフッと吹くとたちまち固まってしまう。別の手下その二が向かっていくと、また固められてしまう。たちまち3人の手下が固まってしまった。
「ウン、ちょこざいなり孫悟空、かくなる上は余が成敗してくれん」
牛魔王の振り下ろす薙刀をひらりとかわす悟空。追いかける牛魔王、逃げる悟空。
悟空は逃げるうちに山猿たちの閉じ込められている牢へと辿りついた。猿彦大王がみずから助けに来たと知って歓喜に沸く山猿たち。解放した山猿が追加の戦力となり、ついに牛魔王一味は降参。悟空は自分の子分の山猿たちを連れて帰ることを牛魔王に認めさせ、ついでに牛魔王の持つ武器を全て渡すことにも渋々同意させた。あまつさえ毎年かならず貢物を持ってくることまで約束させると、とどめに先程まで山猿たちが入れられていた牢へ牛魔王一味を押しこめて鍵をかけて出て行ってしまう。

牛魔王に捕らわれていた女たちが解放されたのを見届けると、悟空は子分たちに「雲に乗せて連れて帰ってやろう」と話す。雲に乗れると聞いて大喜びの子分たちだったが、悟空から言われるがまま隅に集まると、悟空の妖術で全員チョコレートに変えられてしまった。小さなチョコレートになった山猿たちを拾い集めてふところに仕舞う悟空。
「親分、わたしたちをこんなに小さくして、どうするんですか」「心配するな。不二家の動物チョコレートにして連れて帰るんだ。見ろ、とってもかわいいだろう」
そう言うと觔斗雲に乗りこみ、牛魔王の住処を後にして去っていく悟空。

牢の中に残された牛魔王と手下たちは、何とか悟空に対して仕返しできないものかと思案していた。ちょうどそこへ竜王一族の安甲が牛魔王を訪ねてくる。安甲に助けられて牢の外へ出た牛魔王たちは、これまでの経緯を安甲に話し、何かうまい悟空への仕返しはないかと相談する。それを聞いた安甲は「お任せください」と小声で牛魔王に耳打ち。どうやら何か妙案が思いついたようだ。

水簾洞に着いた悟空は、出迎える山猿たちの前でチョコレートにしていた子分たちを元の姿に戻した。別れ別れになっていた家族が感動の再会を果たし、喜びと悟空への感謝を口にしながら洞窟の奥へと戻っていく。――気がつくと、水簾洞の入口には悟空一人しか残っていなかった。
「あー、親子、兄弟って良いもんだなぁ……俺にゃどうして親もなけりゃ兄弟もねえんだろう」
ここで第一回でも歌った“天涯孤独を憂う唄”を歌う悟空(※画面に「不二家フランスキャラメル」のテロップ入る)。

その夜のことである。槍を携えた子分の山猿が水簾洞の入口で番をしていると、誰かが近づいてきた。さきほど牛魔王と密談をしていた竜王族の安甲である。
「孫悟空様はおいででございましょうか」「お前は何者だ!」「私は東海の竜王のところから参りました。どうぞこの手紙を孫悟空様にお渡し願いとうございます」
番兵が預かってきた手紙に悟空が目を通したところ、これは竜王からの招待状であった。悟空から面会を許されて入ってきた安甲、おべんちゃらを言って悟空の機嫌をとる。
「これはこれは、うるわしきご尊顔を拝し、きょうえつ至極に存じます」「竜王のお使者、遠路ご苦労であったのう」「ところで如何でございましょう。孫悟空様には竜宮においで願えましょうか」「うん、勿論お伺いする」「ははぁ、有難うございます。何しろ近頃、花果山水簾洞の孫悟空様といえば知らない者は知らないが知ってる者は誰でも知っている、甘いもカライもスッパイもなんでもかんでもかみわけた天下無敵の大王様、いまどき孫悟空様のお名前を知らない者は馬鹿かアホーはテーノーぐらいなもので……」「フフフフフ、それほどでもないがね」「いえ、孫悟空様においでいただければ、主人、竜王はどんなに喜ぶことでしょう……私も使者として、はるばる参った甲斐があるというものでございます」「ではそなた、ひとまず先に帰り、竜王どのによろしくお伝え下さい」「ハァ! ではお待ちいたしております」「ご苦労であった」
去り際、うまくいったとばかりにペロリと舌をだす安甲。

安甲が帰ってしまうと、傍で控えていた子分の山猿が悟空に上申した。
「あのー、大王様、竜王のところへ行かれるといっても、竜宮は海の中にあるんですよ。海の中にはいろいろ恐ろしい者がおりますからおやめになった方が良かろうかと存じますが」「つまらぬ心配するな、俺は妖術が使えるんじゃ。どんな化け物が出ようと、へっちゃらだ。では行ってまいるぞ」
自分を誇るいさましい唄を歌いながら水中を進んでいく悟空。やがて遠景に竜宮が見えてくる――

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【解説】
牛魔王は山猿たちを奴隷のように働かせているが、何の作業をさせられているかの描写はない。台本上にメモされた2カメ・3カメの確認図では山猿たちは「※」形の図で表現されており、これが“十字に組んだ棒に4人の山猿を配置させること”を意味しているのであれば、いまや「奴隷が回す謎の棒」としてネタにされたりネット百科事典にまとめられたりしているお馴染みのアレだったのかもしれない。

Goku03.jpg

前半では牛魔王の悪辣さが目立つものの、牛魔王が降参してからは悟空の尊大ぶりが鼻につくせいか、どちらが善玉でどっちが悪玉がわからなくなる。もっとも三蔵法師と出会うよりも前の話なので悟空らしいといえばそうなのではあるが。
またこのドラマの作者は隙あらば悟空に孤独であることへのコンプレックスを漏らさせようとするようだ。天外孤独の唄を披露するのはエピソード第一回(放送第二回)以来。「天涯孤独の唄」……というのは別にそういう題名なのではなく筆者が他の劇中歌と区別する便宜上そう表現しているだけで、台本ではどの劇中歌にも題名は記されておらず「悟空の唄」となっている。

今回使われたトリック撮影――便宜上「特撮」と呼んでよいと思うが、現存する台本上に指定が見られるものは次の通り。
・テロップカードによるものが「觔斗雲で飛ぶ石猿」「觔斗雲で飛ぶ猿彦王」(※名称は台本の指定のまま。以前のエピソードで使用したテロップカード2枚の再使用ということか)。
・フリップカードを写すものが「夜空梢ごし」、これは特撮というより時間経過をあらわすコマのようなもの。
・ミニチュアを使用するものが「花果山遠景」「水簾洞洞窟」「水中の竜宮遠景」。
・冒頭の觔斗雲で飛行中の背景と、ラストの水中シーンの背景はスクリーンプロセス。
・悟空が姿を消すシーンと、悟空の妖術で手下が次々と固まるシーンではスライド写真を使用。
・姿を消して門から入っていく悟空は黒幕前で演技する悟空(3カメ)と門を開ける手下(2カメ)の映像をダブらせた。
悟空が子分たちを不二家動物チョコレートに変えるシーンは特撮ではなくカメラワークによるもの。

余談だが、昭和15年の東宝映画版「孫悟空」と昭和32年のTBS版「エノケンの孫悟空」の中間に位置する昭和22年の東宝演劇版「孫悟空」での悟空は如何な性格立てだったものかとパンフレット(1947年11月5日発行)を取り寄せて梗概を読んでみたところ――どうもお話が変である。詳しくは菊田一夫による脚本を確かめてみないとわからないが、ストーリーは悟空が天界で大あばれして釈迦に閉じ込められるまでの物語で、天竺へお経を取りに行くくだりは含まれない。その中に天蓬と嫦娥とその他諸々を巡る恋愛話が絡んでくる。悟空は天界で爪弾きにされるうちに自暴自棄になって天界の桃の肥料を食べて妊娠、自分と瓜二つの赤ちゃんを出産して驚きのあまり卒倒しているところを逮捕されるとか書いてある。――ちょっと理解がついていかない。少なくとも三蔵・八戒・悟浄は登場はするものの特別出演みたいなものでストーリーにはあまり絡んでこないようであった。
なお演劇の正式タイトルは昭和15年版「孫悟空」と同様に冠の付かない「孫悟空」だが、ゲスト出演の寺島玉章・茶目の紹介文では昭和15年版「孫悟空」のことを括弧書きワンワードで「エノケンの孫悟空」と書いている。
posted by 猫山れーめ at 21:44| Comment(0) | エノケンの孫悟空(TV版) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月13日

TV エノケンの孫悟空 全話レビュー/第四回

放送日:1957.1.27(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ局
演出:鈴木利泰/フロアマネージャー:吉沢比呂志・政田一喜/テクニカルディレクター:吉本琢也/CCU:成田哲雄/カメラ1:坂本晃、カメラ2:木村忠雄、カメラ3:武谷雅博/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利/照明:吉井澄雄/テレシネ技術:桜井芳裕/美術:出口雄章/美術進行:芦田光長、清水専三、長島省吾、高野将夫、山田守/小道具:高橋俊一/化粧:小松英子/かつら:細野/衣裳:山我幸江
出演:榎本健一(孫悟空)、中村是好(仙人)、武智豊子(婆や)、音羽美子(玉英)、武藤英司(椀丹)

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前回のつづき。悟空が薪割りの手を休めて「いつになったら妖術を教えてもらえるんだろう」とボンヤリしているところへ仙人が「これ猿彦、ボツボツ妖術をおしえてやろう」とやってきた。「ではまず、わしを打ってまいれ」「お師匠様をなぐっていいんですか」「かまわん、思いっきり殴ってこい」悟空がこれで殴ってやろうと薪を手に取ると、仙人の姿がスッと消えた。慌てる悟空のそばで仙人の声が聞こえてくる。「わしがここにいるのがわからんのか」「いいえ、わかります」「わかったら打ってこい」悟空は声が聞こえるあたりへ薪を打ち下ろすが、何度やっても空を切るばかり。そのうちに悟空は声の反対方向に仙人がいるらしいことに気付き、声がする方と逆の向きを薪で打ったところ、見事に仙人の頭へ当たった。仙人は悟空の手腕を誉め、妖術修業は終わったから山西洞を卒業するがいいと伝える。悟空はまだ何も教えてもらっていないと慌てるが、姿を消したり空を飛んだりする術は卒業証書に書いてあると言われて胸をなでおろした。

翌朝、仙人の居間で卒業式が行われた。仙人がうやうやしく証書を読み上げ始めると、どこからか蛍の光が聞こえてくる。「卒業証書。右の者はよく薪割りをし、水をくみ、お風呂を沸かした。以下長いから省略」「なんです、それは。随分へんな卒業証書だなぁ」「いらないのか」「いえ、いります」「では、これを授ける」受け取った卒業証書を早速広げて読んでみると、聞き覚えのない名前が書かれている。「孫悟空ッてなんだろう」「馬鹿者、それはお前に授けた名前じゃ。こんにち只今より、そなたは孫悟空と名乗れ」「孫悟空ねぇ……」「良い名前であろうが」「はい、結構な名前ですが、それよりねェお師匠様、妖術の方はちっとも書いてありませんねぇ」「あわて者、よく最後まで見ろ」巻き物を広げていくと確かになにやら書いてある。「なるほど……書いてある書いてある。まず最初、髪の毛をこう抜いて……」「アイタ、イタタ」「あっこれは失礼……つい夢中になってたもんで」「何てそそっかしい奴だ。自分の髪の毛を抜くんじゃ。よりによってわしの大切な髪の毛を抜くとは」「だってお師匠様はおいらより三本余計に毛があるんだからケチケチすることは無いじゃありませんか」「それは若い時の事でこう年をとると頭の毛は数えるくらいしかありません。もたいないことをする奴じゃ」仙人に呪文のコツを教わりながら髪の毛を抜いて吹くと、悟空の姿がパッと消え、また毛を抜いて吹くと元の姿に戻った。「なんだ、わりと簡単じゃねえか」仙人は悟空が術をうまく使えるようになったのを見届けると水簾洞へ帰るよう促した。が、行きかけた悟空を呼び止めると「そなた玉英が好きらしいが、お前はいかに妖術が使えようと所詮石猿じゃ。玉英は人間。猿と人間がいっしょになって、幸せになるものではない。かような事を言うのはつらいのだが、そちの行く末を案じればこそいうのじゃ」と玉英への恋を諦めるよう釘を刺した。

所変わって雑木林。玉英が美しい唄を歌っていると竜鳳がやってきた。竜鳳は玉英の父・椀丹から、玉英は猿の化け物に心を惹かれていると聞かされ、心配になってやって来たのだ。玉英はそれを否定しないばかりか、自分がもし竜鳳と結婚したら竜鳳はきっと盗賊の“鬼の大三元”に殺されてしまう、そんなことになるくらいなら猿彦と駆け落ちしてこの島を出たいと思っているのだと竜鳳に打ち明けた。

ちょうどその頃、山賊のすみかでは大三元が使いから戻ってきた子分の報告を聞いていた。「親分、今宵玉英をいただきに参上するという手紙、確かに手渡して参りました」「御苦労。して玉英に確かに渡してきたんだな」「それが、父親の椀丹に渡しました」「あれ、どうして玉英に渡さなかったの?」「あいにくと玉英がいないので……」「いないって、どこへ行ったんだ」「それが親分、あの竜鳳という男と」「どこへ行ったというのだ!」「さぁそこまでは……でもさしずめ今頃は手に手を取りあって『あなた』『なんだい』『あら恥ずかしいわ』」「まぁそう言うなよ……ってバカヤロ!不潔なことをするな!畜生!竜鳳のヤツうまいことやりやがって……ようし!野郎ども!こうなったら竜鳳の手からすぐに玉英を奪ってくるんだ!」

雑木林から戻ってきた玉英と竜鳳、そこへ大三元とその子分たちが立ちはだかる。「竜鳳!気の毒だが玉英は貰ったぞ!命が惜しけりゃ逃げるのは今のうちだぞ!」「なに!貴様のような盗賊に玉英を渡してなるものか!」「フフ……言ったな竜鳳。おう野郎ども、たたんじめぇ」真っ青になって悲鳴を上げる玉英。「誰か助けて!助けて!」

その悲鳴は、觔斗雲に乗って水簾洞へ帰る途中だった悟空の耳にも入った。あれは玉英さんの声だったような……と気がかりになって地上に降りて見ると、竜鳳がひとり嘆き悲しんでいる。事情を聴くと「私の恋人、玉英さんがさらわれたんです」というではないか。「なに、お前は何て意気地のねぇ男なんだ!てめぇの恋人がさらわれておきながら、取り返しにも行かねぇで、メソメソしてる奴があるかい!」「それが……何しろ相手は鬼の大三元という大泥棒なんで」竜鳳から玉英を助け出してほしいと懇願された悟空は単身、山賊のすみかへ乗り込んで行った。
「やい大三元、俺は孫悟空様という者だが、今さらってきた女を返してもらいに来た。素直に出せば許してやるが、さもなければ痛い目にあうぞ」「何をほざくか、片腹痛い。おい野郎ども、こいつもたたんじめぇ」たちまち始まる悟空と山賊たちの大立ち回り。

竜鳳が玉英の身を案じていると、椀丹が玉英を探す声が聞こえてきた。「おう竜鳳さん、玉英を知りませんか」「それがその……大三元のために」「えっ、もう連れて行かれてしまったのか……ああ竜鳳さん、貴方はなぜ玉英を守って下さらなかったのじゃ」「しかし今、どなたかは知らないが、助けに行って下さいました」「えっ、玉英を助けに!?」

山賊のすみかでは子分たちが全員のされてしまい、残った大三元だけが悟空と睨みあっていたが、大三元もやがて悟空の妖術のためにヘナヘナと座り込んでしまった。もう二度と悪行を働かないと誓わされ、玉英をここへ連れてくるよう命じられて大三元が出ていくと、悟空は「そうだ、おいらが玉英さんを助けるよりも、竜鳳に助けられたほうがいいだろう」と考えて竜鳳の姿に化けた。やがて玉英が大三元に連れられてやってくると、そこにいる竜鳳の姿を見て驚く。「ありがとう竜鳳さん、貴方ってかた、こんなに強い方とは思っていませんでしたわ」大三元もそこにいるのが孫悟空でなく竜鳳なので驚く。「あれ!てめえは竜鳳……あの野郎、いつの間に強くなりやがったんだろう」

やがて椀丹と竜鳳のもとへ玉英が帰ってきた。「玉英!よく無事に帰ってきたのう」「竜鳳さんどこへ行ったのかしら……まぁ、こっちにも竜鳳さん。おかしいわネ」「良かったですね、助かって」「まぁ、貴方が助けて下さったのじゃありませんか」「私は知りませんよ」「何がなんだかサッパリわからないが、まぁとにかく、玉英が無事に帰って来てこんなめでたい事はない。さあ、家に入んなさい、入んなさい」
三人が家の中へ入っていったのを見届けて物陰から姿をあらわす悟空。「玉英さんも竜鳳さんもこれで幸せに暮らせようっていうものだ。これでいいんだ」そのとき仙人の声が聞こえてきた。「これ悟空、早く水簾洞へ帰れ。おまえの子分の山猿たちはひどい目に遭っているぞ」「そりゃ本当ですか!じゃ、私はすぐ帰ります。お師匠様もお達者で」「ウン、お前もな。さらばじゃ……」遠ざかっていく仙人の声。「早く帰ろう。玉英さん、お達者で。さようなら」悟空がその場を後にするのと入れ替わりに、竜鳳から事の真相を聞いた玉英たち三人が庭に出てきた。「それでは、さっき私を助けて下さったのは猿彦さんだったのね」「ええ」「そういうわけだったのか」「あっ、猿彦さんが雲に乗って飛んで行く」「あっ本当だ」「猿彦さん、ありがとう」「さようなら、さようなら」空を見上げて手を振りながら、口々に別れを告げる玉英たち。悟空も觔斗雲の上から後ろを振り返って別れを告げながら、一目散に水簾洞を目指して飛んで行くのだった。

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【解説】
冒頭で姿を消して見せる仙人、妖術のテストで消えたり出現したりする悟空、竜鳳に化ける悟空はスライド写真を用いたワイプ撮影。薪で叩かれた仙人の出現シーンは2カメ1カメの切り替えでトリックは用いていない。
卒業式の朝の山西洞はミニチュア、ラストシーンで空を飛ぶ觔斗雲に乗った悟空はテロップ合成(背景の雲と悟空をお互い逆方向に移動)。その前の振り返り悟空はスクリーンプロセス。
大三元が悟空に妖術でヘナヘナにされるという描写があるがトリックの指示はない。そういう見たての演技で済ませたと思われる。
もはやミュージカルのていにもなっていない、唄のシーンは玉英登場シーンのみ歌詞あり。ここで「不二家のフランスキャラメル」のテロップがかぶる。

悟空が大三元を懲らしめてから後のシーンはどうやら脚本を現場で大きく改稿したらしい。紙を貼って上から万年筆で書き改めているため印刷当初の脚本はほとんど判読できないが、悟空は竜鳳の姿に変身したりはせず、悟空として玉英を助けたうえで仙人のいいつけ通り身を引き、人間である竜鳳に託して水簾洞へ去っていく展開だったようだ。今回のエピソードも「西遊記」には無いオリジナルだが、自らの恋を諦めライバルになり替わってヒロインに結び付けようという改変は戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」でもよく知られる展開。1951年にはアメリカでの映画化作品が日本公開されているし影響を受けて取り入れたのかもしれない(そういえば手塚治虫も1953年に「快傑シラノ」を連載している)。修行のため恋路を捨てる――というと結城孫三郎一座が「玉藻前」の前にNHKテレビ実験放送で演じていた連続マリオネット劇「猿飛佐助」の第一話(1952年3月23日15:30-16:00放送)がだいたいそんな感じの締めだったのを思い出したので、立川文庫あたりの「猿飛佐助」をサルつながりで西遊記に持ってきたのかなと思ったのだが、調べてみても立川文庫版にそういう展開は見当たらなかったのであった。これが話に聞くシンクロニティというやつか、いや違う。

なお、この第四回でのリハーサルの様子が集英社の芸能雑誌「明星」昭和32年4月号のp.58に掲載されており、孫悟空のメーキャップや衣裳、仙人から授かった免許皆伝の巻き物に書かれた“孫悟空”の命名シーン、そのあと玉英を慕う悟空に仙人が釘をさすシーンの様子が確認できる。

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2020年04月03日

TV エノケンの孫悟空 全話レビュー/第三回

放送日:1957.1.20(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ企画第二部
演出:鈴木利泰/フロアマネージャー:吉沢比呂志・政田一喜/テクニカルディレクター:吉本琢也/CCU:成田哲雄/カメラ1:坂本晃、カメラ2:木村忠雄、カメラ3:武谷雅博/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利/照明:吉井澄雄/テレシネ技術:桜井芳裕/美術:出口雄章/美術進行:芦田光長/小道具:高橋俊一/化粧:小松英子/かつら:細野/衣裳:山我幸江
出演:榎本健一(孫悟空)、中村是好(仙人)、武智豊子(婆や)、音羽美子(玉英)、武藤英司(椀丹)

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前回のつづき。仙人の庭で薪を割りながら「お師匠様の留守中に内緒で引き出しの巻き物を読んじまったほうが早いかもしれない……玉英はいまごろどうしているんだろうなぁ」と妄想を膨らませ、妄想の中の玉英とデュエットする悟空。思わず玉英の妄想に抱きつくが、それは玉英ではなく仙人である。「何をするんじゃ、この馬鹿もの!」「あら、お師匠だ」「しょうのないやつじゃ。これ、婆や、婆や。猿彦に薪の割り方でも教えてやれ」仙人が行ってしまうと、婆やは悟空が手に薪割りを持っているのを見て「なんだい、お前さん。たかが薪を割るのにまだ薪割りなんか使ってるのかい」と呆れる。「だって、薪を割るのに薪割りを使って何が悪いんだい! 薪を割らずにトウフを切る時に使えっていうのかい」「何をいってるんだい、だからお前さんは三本足りないんだよ」婆やは「悔しかったらやってごらん、」いって気合い一閃、空手チョップで次々と薪を割ってみせる。驚いて目を見張る悟空、婆やに煽られて自分も空手チョップで薪を割ろうとするが一つも割れない。婆やにまで「修行が足りない」と言われてふてくされる悟空。

そのとき仙人が婆やを呼び、酒が切れそうなので町まで買いに行ってくれないかと頼んだ。婆やが屋敷を出ていくと仙人は悟空に風呂が沸いたか尋ね、丁度良い湯加減だとに聞くと入浴に向かった。これは絶好の機会だと考えた悟空はこっそり仙人の部屋へ忍び込み、引き出しにしまってある妖術の巻き物を盗み読みし始める。そこへひさご(ひょうたんで作った酒を入れる容器)を忘れた婆やが戻ってきた。悟空は慌てて巻き物を後ろ手に隠すと、婆やに親切ごかして「おいらが代わりに町まで酒を買いに行ってやるよ。そのかわりお風呂の方をたのむぜ」とお使いの交替を持ちかけて、まんまと館の外へ出て行ってしまった。

夕方になり再会を果たした玉英に悟空は得意満面で「やっと妖術を身につけることができた」と報告するのだが、姿を消す妖術を使うと上半身しか消えない。騒ぎを聞いて出てきた父の椀丹は、下半身だけのお化けを見て気絶してしまう。元に戻る方法がわからず途方に暮れる悟空。

酒を買いに行ったまま戻らない悟空の様子を魔法の鏡で探していてこの騒ぎを知った仙人は悟空と玉英の前に現われ、悟空を元の姿に戻してみせた。礼は言ったものの、玉英の前で格好をつけたいのか「おいらにゃ、いざという時はお師匠様がついてますからねぇ」と悪びれる様子のない悟空に、仙人は呆れて「何を申すか! わしが術を解いてやらなかったらお前は永久にあのままになってしまうところだ。さ、わしについて参れ!この馬鹿もの!」と叱責する。それでも悟空は「そう何も、ひとのいる前で馬鹿ばかって言わなくてもいいじゃありませんか、全くうるせえジジイだなぁ」と毒づき、玉英には「またあとで来るね」と玉英の手にキスをする。「修行中の身でありながら女性に心を奪われるとは何事じゃ」と見咎める仙人だったが、あらためて玉英を見ると仙人も「なるほど、なかなか……そなたは美しいのう……おうおう、ポチャポチャとした手じゃのう、ウッヘッヘッッ」と言い出し、逆に悟空から「女に心を奪われるとは何事です」と突っ込まれる始末。

悟空と仙人が行ってしまってから、気絶していた椀丹がようやく正気を取り戻した。「玉英、化け物はどうした」「行ってしまいました……」「そうかい、ああ良かった……だがお前、何だってあんな化け物と付き合いがあるんだい。もし、こんな事が竜鳳さんに聞かれたらどうする」どうやら玉英には竜鳳という家柄も資産もある婚約者がいるらしい。また玉英はそのことを受け入れられないでいるようだった。玉英がいたたまれずにその場を立ち去ると、入れ替わりに竜鳳が玉英を訪ねてやってきた。椀丹はお茶でも飲んで待つよう竜鳳を家の中に招き入れる。

そのころ雑木林では悟空が正座させられて仙人から詰問されていた。「お前は化けることを誰に習ったのじゃ」「誰にも習いません」「習わぬ者が半分だって姿を消すことができるか」仕方なく悟空は、師匠が妖術をちっとも教えてくれず薪割りばかりさせるので巻き物をちょっと拝見したので……と打ち明ける。それを聞いた仙人は、不承不承ながら、悟空に妖術を初歩から教えることにした。仙人はその場で瞬時に姿を消し、「ここじゃ、ここじゃ」と言っては右往左往する悟空の頭をポカポカと叩いてみせる。観念した悟空が「わかりました、わかりました」と見えない相手に向かってお辞儀をすると、悟空の真後ろに姿を現した仙人が「わしに尻を向けるとは何事じゃ」とまたポカリ。

庭先で玉英が木にもたれて口ずさんでいると竜鳳が現われた。「竜鳳さん……いついらしたの」「今しがた……お帰りをお待ちしてたんです」うなだれる玉英。「ぼくが来たのがいけなかったのですか」玉英は答えない。「なにかあったんですね、玉英……あなたにそんな哀しい顔をされると僕まで哀しくなる」「ごめんなさい」「僕は今日、あなたとお芝居を見て、食事をして……楽しい一刻をすごしたいと思ってやってきたんです……どうぞ機嫌を直してください」「竜鳳さん……お願い、今日はそっと私一人にしておいてちょうだい……」「玉英……では、せめて、これだけでも受けてくれ」竜鳳が差し出した指輪を見て驚く玉英。「まぁ、何ですの、それ……」「あなたは僕との約束を忘れてしまったのですか」うなだれたまま無言の玉英。

そしてまた幾日かたった。仙人の館の庭で相変わらず薪割りをさせられている悟空がやはり以前と同じように愚痴をこぼしていると、仙人がやってきた。「お前もだいぶ薪割りが上手くなったようじゃから、ボツボツ妖術を教えてやろう」思わず立ち上がる悟空。「今度こそ本当ですか? また頭を殴るんじゃないでしょうね」「大丈夫じゃ。だがその前に、今夜わしの部屋へ来て、わしに気づかれんように巻き物を取って手に入れたならば妖術を教えてやる。どうだ、その自信はあるか」「ええ、ありますとも」「では今夜だぞ」

三日月の下でどこからかフクロウの鳴く声が聞こえている。仙人の館の廊下を忍んであるく足音……悟空である。そっと居間の中を伺うと、仙人が巻き物の前で頑張っている。廊下を戻ってきた悟空が婆やに何かを耳打ちすると、うなずいた婆やは仙人の居間に入って言った。「お師匠様、いま玉英さんという方がみえて、猿彦に会わせてくれっていってますが、会わせてもいいでしょうか」「あ、ならぬならぬ。玉英ならわしが会う。どこへ来てるんじゃ」「おもてに待ってますが」仙人と婆やが居間から出ていくと、入れちがいに悟空が入ってくる。「フン、しめしめ、お師匠様もモーロクしてるから、すぐに引っかかっちまわぁ」悟空は婆やを不二家ゴールドチョコレートで買収していたのだ。騙されたことに気が付いた仙人が居間に戻ってくると悟空が巻き物を片手にドヤ顔をしている。「お師匠様、ありゃおいらの計略ですよ。巻き物はこの通り、頂戴いたしました」「ハッハッハ……そんな事であろうとチャンと替えておいた。猿彦、よく見てみろ。それは巻き物ではない」「えっ……あら、不二家のパイパイビスケットだ」「たべてみろ。なかなか美味いぞ」言われたとおり食べてみる悟空。「なるほど、なかなか美味しいですね」「そんな事では、まだダメ。妖術を教えてやるのは来週」「えー」仙人の言葉に不満を述べつつ、ずっとビスケットを食べている悟空であった。

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【解説】
前番組の「猿飛佐助旅日記」に戻してほしい。

1956年10月9日の「内外タイムス」に掲載された記事から察するに、どうやら「孫悟空」製作開始の裏側にはこんな経緯があったらしい。不二家提供のKRT日曜18時枠「猿飛佐助旅日記」はお子さま向け番組として始まったが、やがて大人の鑑賞にも耐えるストーリーへと変化していった。これがKRTの一部の人間には面白くない。またNTVはこれを子どもは退屈しているはずだと分析し、子供の視聴者を引き抜くべく「冒険王」連載中の人気時代劇「はやぶさ頭巾」をドラマ化して8月から「猿飛佐助旅日記」の真裏へとぶつけてきた。このままでは視聴者を他局に取られてしまうと危惧したKRTの一部の人間は、①不二家枠をゴールデンタイムへ移動させ、②「猿飛佐助旅日記」を終わらせて、③みんな大好きエノケンの十八番「孫悟空」を始める――という奇策に打って出た。ところがぶつけた方が割れるというのはよくある話でNTV「はやぶさ頭巾」は第10話をもって打ち切り。ライバルはいなくなったが動き出した列車は止まらず「猿飛佐助旅日記」は年内いっぱいで終了させられてしまう。「孫悟空」は見どころとなるはずのトリック撮影に失敗が相次いで不評を買い、1957年3月24日の「毎日新聞」によればスタッフが沼津市の日緬寺(※孫悟空を祀ってある)へ加護を頼む始末。3月20日には泣きっ面に蜂で東宝が「専属俳優は舞台公演中のテレビ出演を禁止する」という方針を打ち出し、主役エノケンの出演が危ぶまれる事態となった。これに対し当時のKRT大森編成部長は毎日新聞の取材に答えて番組の打ち切りも考えていると答えている。……それではいったい「猿飛佐助旅日記」はなんのために終わらせられたのか。
長々と脱線してしまったが、ストーリーがさっぱり進まないのでつい筆が滑ってしまった。いろいろな業界の思惑で始められたり終わらされたり引き伸ばさせられたりと翻弄される「作品」が気の毒でならない。

今回の特撮シーンについて判明している範囲で紹介する。悟空が半可通の妖術を使うシーンはワイプを使用した。クロマキーはまだ無い時代だ。
一方、雑木林で仙人が一瞬にして姿を消すシーンには「スライド」という指示がある。カメラ3台の構図を悟空・仙人・二人揃いにそれぞれ割り当て、仙人が消えるシーンのときだけはカメラがオフの間に中村是好が横へハケて仙人の写真を種板にしたスライド映写に切り替えておくという目の錯覚を期待したトリックを駆使したようである。スイッチングが煩雑で心配になるが、上手くいったかどうかは不明。
婆やを不二家ゴールドチョコレートで買収するくだりは青鉛筆で囲まれて鉛筆で薄く斜線が引かれている。指示内容は不明で、後述のパイパイビスケットと商品が被るのでカットされたのではとも考えられるが、話の流れから考えると、フィルムで別撮りしておいて回想シーンのように画面にダブらせるのに使った可能性もある。なお今回はミニチュア特撮はなし。

ミュージカルの本分である唄のシーンは悟空と玉英の妄想(オーバーラップで表現)がデュエットする恋の歌、玉英のソロ(不二家フランスキャラメルのテロップあり)の2か所で歌詞が確認できる。
生CMに相当すると考えられるシーンは、先述のゴールドチョコレート(金貨チョコのことではなく一口サイズのチョコをキャンディ包装したもの。「ゴールドミルクチョコレート」の名で近年まで販売されていたようだ)と、ラストシーンの巻き物あらためパイパイビスケット。これはトブラローネのような黄色い六角柱型の紙パッケージに入ったお菓子で巻き物に見えないこともないが、長さが5センチ足らずの小さなものだったらしい。このままでは巻き物に見間違えようもないので、劇中ではおそらく画面に映り易いよう拡大サイズにした小物を使ったのだろう。……スポンサーのお菓子を仙人が美味い美味いと太鼓判を押し、勧められた悟空も美味い美味いと言って食べながら第三話終了。なんだこれ。

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2020年04月02日

日本で初めて三蔵法師を演じた女優は誰だったのか

前述(「エノケンの孫悟空」その1)で触れたとおり、「8時だョ!全員集合」のプロデューサーとして名を残す居作昌果は著書「8時だョ!全員集合伝説」の中で「エノケンの孫悟空で三蔵法師を演じたのは松竹少女歌劇団の長谷川待子」と誤った記述をしていた(※長谷川が演じたのは観音様であり三蔵法師を演じたのは花柳寛(後の二代目花柳壽應))。とはいえ松竹歌劇団への言及は先人による重大な示唆であった。歌劇団で西遊記を演じた事があるならば、団員は全て女性なので三蔵も女性が演じていたはずだ。

「レビューと共に半世紀 松竹歌劇団50年のあゆみ」によれば昭和31年1月公演の「第6回 春のおどり」では申年にちなんで「西遊記」が演じられたという。だがこの書籍には勝浦千浪が孫悟空を演じている写真や演目の概要しか記されておらず、それ以外のキャストや役名、特に三蔵法師が登場したのかどうかがわからなかった。京劇の西遊記を見に行くのがほぼ孫悟空の早変わりを見るのが目的も同然であるように、これが申年の主役である孫悟空の活躍を見せて楽しませるために組まれた演目だったとしたら、最初から三蔵法師の登場しない翻案という可能性もないとはいえない。配役を知るためにはパンフレットを見るのが早道だったが長年入手できる機会に恵まれず、松竹作品の膨大な資料を蔵する大谷図書館への訪問もまた開館日がシビアでタイミングが合わず、懸案事項を棚上げしたまま何年もの月日が流れてしまった。

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本日ようやく「第6回 春のおどり」のパンフレットを入手できたため確認してみたところ、確かに三蔵法師役が存在していたのでここに紹介する。
「レビューとともに半世紀」では「第六景 桃李」というキャプションの付いた孫悟空の立ち回り写真しか載っていなかったが、実際には「第四景 牡丹」のCパートから始まり、西遊記の「西梁女人国」エピソードを(東宝映画「白夫人の妖恋」の原作者としても知られる)林房雄が脚色した「第五景 芙蓉」「第六景 桃李」と2幕にわたって続く、唄と踊りとお芝居をたっぷり見せるバラエティだとわかった。
孫悟空を演じるのはOSKから特別参加の二枚目スター勝浦千浪。沙悟浄役は一條敬子(SDK幹部)、猪八戒役は麻耶みずほと五月千晴の交替制(いずれも準幹部)。そして三蔵法師を演じたのは……これもSDK幹部の八坂圭子と江川瀧子の交替制であった。

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パンフレットにはお芝居のセリフを英訳したページが設けられており、外国人観客でもストーリーを概ね理解できるよう配慮されている。ここに三蔵法師役として紹介されているのは八坂圭子の名前だけで、おそらく日程の途中から八坂とバトンタッチして登壇すると思われる江川瀧子の記載はなかった。

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朝日新聞縮刷版の演劇欄で当時の寸評を見たところ「全編がカブキ調」「バラエティーショー形式」「もう少しコミカルな面がほしい」などと評されている。公演期間は1月20日から2月29日まで。
公演期間中の1956年2月5日にはNHKラジオ第1放送の15:05~16:00枠でも中継されている。朝日新聞縮刷版のラテ欄では「劇場中継(浅草國際劇場)「春のおどり」川路竜子 勝浦千浪、小月冴子他」と記載されているが、この時間帯に西遊記の部分が含まれていたかどうかまではわからなかった。

というわけで現時点で挙証資料を出せる範囲においては、日本で最初に三蔵法師を演じた女優は「八坂圭子・江川瀧子」の二人であるようだ。
ただし、もしかしたらこれ以前にも――たとえば子供向けのラジオドラマで女性声優が三蔵法師を演じた可能性は、なきにしもあらずである。

追記:三蔵法師を演じられた二代目花柳壽應が昨年2020年9月26日に鬼籍に入られたことを今知った。謹んでお悔やみ申し上げる。

posted by 猫山れーめ at 17:12| Comment(0) | エノケンの孫悟空(TV版) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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