2020年06月10日

TV エノケンの孫悟空 全話レビュー/第五回

放送日:1957.2.3(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ局
演出:鈴木利泰/フロアマネージャー:吉沢比呂志・政田一喜/テクニカルディレクター:吉本琢也/CCU:成田哲雄/カメラ1:坂本晃、カメラ2:木村忠雄、カメラ3:武谷雅博/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利/照明:吉井澄雄/テレシネ技術:桜井芳裕/美術:出口雄章/美術進行:芦田光長、清水専三、田島、高木、矢野/化粧:小松英子/かつら:細野かつら店/衣裳:山我幸江
出演:榎本健一(孫悟空)、須藤健(牛魔王)、谷村昌彦・栗野操・石井沿彦(牛魔王の児分(1)~(3))、三越富夫(安甲)、岸本清(猿六爺)、横田年正・雲野朗・谷昭・坂井隆・小林幸・中右昌夫・辻仁一・村田茂男・中沢永一郎(山猿(1)~(9))、岡安博・泉正・石倉玲子(小猿(1)~(3))、安田洋子・山田薫(女(1)~(2))

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妖術を身に付ける念願が叶い、觔斗雲に乗ってふるさと花果山へ急ぎ帰ってきた孫悟空。水簾洞の入口から手下たちに呼びかけるが、誰も出迎えに出てこない。不審に思いつつ中へ入っていくと洞窟の奥では山猿たちが隅の方で震えていた。
「あ、あなたはいったいどなた様ですか」「どなた様ッて、俺は花果山水簾洞の主、猿彦大王、孫悟空様だ」「猿彦大王、孫悟空様……? するってぇと、昔々西牛賀洲へ妖術を習いに行かれたという大王様ですか」「いかにも、その猿彦大王じゃ」
驚いた山猿が孫悟空の帰還を大声で知らせると、屏風の裏から杖にすがった猿六じいさんが出てきた。
「えっ、そりゃ本当か? おう、大王様だ! 大王様、お懐かしゅうございます。猿六でございます」「猿六?」「はい。大王様はお忘れになったかも存じませぬが、西牛賀洲に行かれた時、私はほんの子供でした」「うーむ、そうかい……すると随分永い間、ここを留守にしてたってわけだなぁ」「はい。……しかし大王様はちっともおかわりになりませんねぇ」「そんな事より、他の山猿たちはどうしたんだ?」「されば……牛魔王という妖怪のために、次々とわが同胞は捕えられていってしまったのです」
自分が不在の間の一大事件を知った悟空は牛魔王のもとから仲間の猿たちを必ず救いだしてきてやると猿六たちに約束する。

そのころ牛魔王は側女に酌をさせつつ、子分に命じて山猿たちを奴隷のように働かせていた。側女もまた捕らわれてきた女たちで、家へ帰りたいと泣くが牛魔王は聞き入れない。
その牛魔王のすみかへとやってきた悟空。門前には鉄の扉が降りている。その扉に悟空が手を掛けたとたん、飾りだと思っていた牛の顔の目が光り、「モーウ、モーウ……」と警報を発し始めた。悟空の手は扉に吸い付いたように離れない。
「アッ! こいつはいけね! こんな仕掛けがあったのか!よーし、そんならこっちも」
思わぬトラップに引っかかった悟空はとっさに妖術を使って姿を消した。やがて牛魔王の子分が警報を聞いて門から出てきたが、姿を消している悟空には気付かない。誤報と思い込んだ手下が警報を解除したのを幸い、この隙に門の中へ侵入した悟空は、子分が牛魔王のもとへと報告に戻るのに付いていき、まんまと牛魔王が居座る本拠地の最深部に辿りついた。
「ややっ貴様は何者だ」「俺は花果山水簾洞の主、孫悟空様だ」「それがこの牛魔王様に何の用があって来たのだ」「子分を返してもらいに来たのだ」「子分を返してもらいたいって……生意気な山猿め。それっこいつもやっちまえ」
牛魔王に命じられた手下その一が悟空に向かっていくが、悟空が妖術を使ってフッと吹くとたちまち固まってしまう。別の手下その二が向かっていくと、また固められてしまう。たちまち3人の手下が固まってしまった。
「ウン、ちょこざいなり孫悟空、かくなる上は余が成敗してくれん」
牛魔王の振り下ろす薙刀をひらりとかわす悟空。追いかける牛魔王、逃げる悟空。
悟空は逃げるうちに山猿たちの閉じ込められている牢へと辿りついた。猿彦大王がみずから助けに来たと知って歓喜に沸く山猿たち。解放した山猿が追加の戦力となり、ついに牛魔王一味は降参。悟空は自分の子分の山猿たちを連れて帰ることを牛魔王に認めさせ、ついでに牛魔王の持つ武器を全て渡すことにも渋々同意させた。あまつさえ毎年かならず貢物を持ってくることまで約束させると、とどめに先程まで山猿たちが入れられていた牢へ牛魔王一味を押しこめて鍵をかけて出て行ってしまう。

牛魔王に捕らわれていた女たちが解放されたのを見届けると、悟空は子分たちに「雲に乗せて連れて帰ってやろう」と話す。雲に乗れると聞いて大喜びの子分たちだったが、悟空から言われるがまま隅に集まると、悟空の妖術で全員チョコレートに変えられてしまった。小さなチョコレートになった山猿たちを拾い集めてふところに仕舞う悟空。
「親分、わたしたちをこんなに小さくして、どうするんですか」「心配するな。不二家の動物チョコレートにして連れて帰るんだ。見ろ、とってもかわいいだろう」
そう言うと觔斗雲に乗りこみ、牛魔王の住処を後にして去っていく悟空。

牢の中に残された牛魔王と手下たちは、何とか悟空に対して仕返しできないものかと思案していた。ちょうどそこへ竜王一族の安甲が牛魔王を訪ねてくる。安甲に助けられて牢の外へ出た牛魔王たちは、これまでの経緯を安甲に話し、何かうまい悟空への仕返しはないかと相談する。それを聞いた安甲は「お任せください」と小声で牛魔王に耳打ち。どうやら何か妙案が思いついたようだ。

水簾洞に着いた悟空は、出迎える山猿たちの前でチョコレートにしていた子分たちを元の姿に戻した。別れ別れになっていた家族が感動の再会を果たし、喜びと悟空への感謝を口にしながら洞窟の奥へと戻っていく。――気がつくと、水簾洞の入口には悟空一人しか残っていなかった。
「あー、親子、兄弟って良いもんだなぁ……俺にゃどうして親もなけりゃ兄弟もねえんだろう」
ここで第一回でも歌った“天涯孤独を憂う唄”を歌う悟空(※画面に「不二家フランスキャラメル」のテロップ入る)。

その夜のことである。槍を携えた子分の山猿が水簾洞の入口で番をしていると、誰かが近づいてきた。さきほど牛魔王と密談をしていた竜王族の安甲である。
「孫悟空様はおいででございましょうか」「お前は何者だ!」「私は東海の竜王のところから参りました。どうぞこの手紙を孫悟空様にお渡し願いとうございます」
番兵が預かってきた手紙に悟空が目を通したところ、これは竜王からの招待状であった。悟空から面会を許されて入ってきた安甲、おべんちゃらを言って悟空の機嫌をとる。
「これはこれは、うるわしきご尊顔を拝し、きょうえつ至極に存じます」「竜王のお使者、遠路ご苦労であったのう」「ところで如何でございましょう。孫悟空様には竜宮においで願えましょうか」「うん、勿論お伺いする」「ははぁ、有難うございます。何しろ近頃、花果山水簾洞の孫悟空様といえば知らない者は知らないが知ってる者は誰でも知っている、甘いもカライもスッパイもなんでもかんでもかみわけた天下無敵の大王様、いまどき孫悟空様のお名前を知らない者は馬鹿かアホーはテーノーぐらいなもので……」「フフフフフ、それほどでもないがね」「いえ、孫悟空様においでいただければ、主人、竜王はどんなに喜ぶことでしょう……私も使者として、はるばる参った甲斐があるというものでございます」「ではそなた、ひとまず先に帰り、竜王どのによろしくお伝え下さい」「ハァ! ではお待ちいたしております」「ご苦労であった」
去り際、うまくいったとばかりにペロリと舌をだす安甲。

安甲が帰ってしまうと、傍で控えていた子分の山猿が悟空に上申した。
「あのー、大王様、竜王のところへ行かれるといっても、竜宮は海の中にあるんですよ。海の中にはいろいろ恐ろしい者がおりますからおやめになった方が良かろうかと存じますが」「つまらぬ心配するな、俺は妖術が使えるんじゃ。どんな化け物が出ようと、へっちゃらだ。では行ってまいるぞ」
自分を誇るいさましい唄を歌いながら水中を進んでいく悟空。やがて遠景に竜宮が見えてくる――

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【解説】
牛魔王は山猿たちを奴隷のように働かせているが、何の作業をさせられているかの描写はない。台本上にメモされた2カメ・3カメの確認図では山猿たちは「※」形の図で表現されており、これが“十字に組んだ棒に4人の山猿を配置させること”を意味しているのであれば、いまや「奴隷が回す謎の棒」としてネタにされたりネット百科事典にまとめられたりしているお馴染みのアレだったのかもしれない。

Goku03.jpg

前半では牛魔王の悪辣さが目立つものの、牛魔王が降参してからは悟空の尊大ぶりが鼻につくせいか、どちらが善玉でどっちが悪玉がわからなくなる。もっとも三蔵法師と出会うよりも前の話なので悟空らしいといえばそうなのではあるが。
またこのドラマの作者は隙あらば悟空に孤独であることへのコンプレックスを漏らさせようとするようだ。天外孤独の唄を披露するのはエピソード第一回(放送第二回)以来。「天涯孤独の唄」……というのは別にそういう題名なのではなく筆者が他の劇中歌と区別する便宜上そう表現しているだけで、台本ではどの劇中歌にも題名は記されておらず「悟空の唄」となっている。

今回使われたトリック撮影――便宜上「特撮」と呼んでよいと思うが、現存する台本上に指定が見られるものは次の通り。
・テロップカードによるものが「觔斗雲で飛ぶ石猿」「觔斗雲で飛ぶ猿彦王」(※名称は台本の指定のまま。以前のエピソードで使用したテロップカード2枚の再使用ということか)。
・フリップカードを写すものが「夜空梢ごし」、これは特撮というより時間経過をあらわすコマのようなもの。
・ミニチュアを使用するものが「花果山遠景」「水簾洞洞窟」「水中の竜宮遠景」。
・冒頭の觔斗雲で飛行中の背景と、ラストの水中シーンの背景はスクリーンプロセス。
・悟空が姿を消すシーンと、悟空の妖術で手下が次々と固まるシーンではスライド写真を使用。
・姿を消して門から入っていく悟空は黒幕前で演技する悟空(3カメ)と門を開ける手下(2カメ)の映像をダブらせた。
悟空が子分たちを不二家動物チョコレートに変えるシーンは特撮ではなくカメラワークによるもの。

余談だが、昭和15年の東宝映画版「孫悟空」と昭和32年のTBS版「エノケンの孫悟空」の中間に位置する昭和22年の東宝演劇版「孫悟空」での悟空は如何な性格立てだったものかとパンフレット(1947年11月5日発行)を取り寄せて梗概を読んでみたところ――どうもお話が変である。詳しくは菊田一夫による脚本を確かめてみないとわからないが、ストーリーは悟空が天界で大あばれして釈迦に閉じ込められるまでの物語で、天竺へお経を取りに行くくだりは含まれない。その中に天蓬と嫦娥とその他諸々を巡る恋愛話が絡んでくる。悟空は天界で爪弾きにされるうちに自暴自棄になって天界の桃の肥料を食べて妊娠、自分と瓜二つの赤ちゃんを出産して驚きのあまり卒倒しているところを逮捕されるとか書いてある。――ちょっと理解がついていかない。少なくとも三蔵・八戒・悟浄は登場はするものの特別出演みたいなものでストーリーにはあまり絡んでこないようであった。
なお演劇の正式タイトルは昭和15年版「孫悟空」と同様に冠の付かない「孫悟空」だが、ゲスト出演の寺島玉章・茶目の紹介文では昭和15年版「孫悟空」のことを括弧書きワンワードで「エノケンの孫悟空」と書いている。
posted by 猫山れーめ at 21:44| Comment(0) | エノケンの孫悟空(TV版) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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