2020年04月13日

TV エノケンの孫悟空 全話レビュー/第四回

放送日:1957.1.27(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ局
演出:鈴木利泰/フロアマネージャー:吉沢比呂志・政田一喜/テクニカルディレクター:吉本琢也/CCU:成田哲雄/カメラ1:坂本晃、カメラ2:木村忠雄、カメラ3:武谷雅博/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利/照明:吉井澄雄/テレシネ技術:桜井芳裕/美術:出口雄章/美術進行:芦田光長、清水専三、長島省吾、高野将夫、山田守/小道具:高橋俊一/化粧:小松英子/かつら:細野/衣裳:山我幸江
出演:榎本健一(孫悟空)、中村是好(仙人)、武智豊子(婆や)、音羽美子(玉英)、武藤英司(椀丹)

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前回のつづき。悟空が薪割りの手を休めて「いつになったら妖術を教えてもらえるんだろう」とボンヤリしているところへ仙人が「これ猿彦、ボツボツ妖術をおしえてやろう」とやってきた。「ではまず、わしを打ってまいれ」「お師匠様をなぐっていいんですか」「かまわん、思いっきり殴ってこい」悟空がこれで殴ってやろうと薪を手に取ると、仙人の姿がスッと消えた。慌てる悟空のそばで仙人の声が聞こえてくる。「わしがここにいるのがわからんのか」「いいえ、わかります」「わかったら打ってこい」悟空は声が聞こえるあたりへ薪を打ち下ろすが、何度やっても空を切るばかり。そのうちに悟空は声の反対方向に仙人がいるらしいことに気付き、声がする方と逆の向きを薪で打ったところ、見事に仙人の頭へ当たった。仙人は悟空の手腕を誉め、妖術修業は終わったから山西洞を卒業するがいいと伝える。悟空はまだ何も教えてもらっていないと慌てるが、姿を消したり空を飛んだりする術は卒業証書に書いてあると言われて胸をなでおろした。

翌朝、仙人の居間で卒業式が行われた。仙人がうやうやしく証書を読み上げ始めると、どこからか蛍の光が聞こえてくる。「卒業証書。右の者はよく薪割りをし、水をくみ、お風呂を沸かした。以下長いから省略」「なんです、それは。随分へんな卒業証書だなぁ」「いらないのか」「いえ、いります」「では、これを授ける」受け取った卒業証書を早速広げて読んでみると、聞き覚えのない名前が書かれている。「孫悟空ッてなんだろう」「馬鹿者、それはお前に授けた名前じゃ。こんにち只今より、そなたは孫悟空と名乗れ」「孫悟空ねぇ……」「良い名前であろうが」「はい、結構な名前ですが、それよりねェお師匠様、妖術の方はちっとも書いてありませんねぇ」「あわて者、よく最後まで見ろ」巻き物を広げていくと確かになにやら書いてある。「なるほど……書いてある書いてある。まず最初、髪の毛をこう抜いて……」「アイタ、イタタ」「あっこれは失礼……つい夢中になってたもんで」「何てそそっかしい奴だ。自分の髪の毛を抜くんじゃ。よりによってわしの大切な髪の毛を抜くとは」「だってお師匠様はおいらより三本余計に毛があるんだからケチケチすることは無いじゃありませんか」「それは若い時の事でこう年をとると頭の毛は数えるくらいしかありません。もたいないことをする奴じゃ」仙人に呪文のコツを教わりながら髪の毛を抜いて吹くと、悟空の姿がパッと消え、また毛を抜いて吹くと元の姿に戻った。「なんだ、わりと簡単じゃねえか」仙人は悟空が術をうまく使えるようになったのを見届けると水簾洞へ帰るよう促した。が、行きかけた悟空を呼び止めると「そなた玉英が好きらしいが、お前はいかに妖術が使えようと所詮石猿じゃ。玉英は人間。猿と人間がいっしょになって、幸せになるものではない。かような事を言うのはつらいのだが、そちの行く末を案じればこそいうのじゃ」と玉英への恋を諦めるよう釘を刺した。

所変わって雑木林。玉英が美しい唄を歌っていると竜鳳がやってきた。竜鳳は玉英の父・椀丹から、玉英は猿の化け物に心を惹かれていると聞かされ、心配になってやって来たのだ。玉英はそれを否定しないばかりか、自分がもし竜鳳と結婚したら竜鳳はきっと盗賊の“鬼の大三元”に殺されてしまう、そんなことになるくらいなら猿彦と駆け落ちしてこの島を出たいと思っているのだと竜鳳に打ち明けた。

ちょうどその頃、山賊のすみかでは大三元が使いから戻ってきた子分の報告を聞いていた。「親分、今宵玉英をいただきに参上するという手紙、確かに手渡して参りました」「御苦労。して玉英に確かに渡してきたんだな」「それが、父親の椀丹に渡しました」「あれ、どうして玉英に渡さなかったの?」「あいにくと玉英がいないので……」「いないって、どこへ行ったんだ」「それが親分、あの竜鳳という男と」「どこへ行ったというのだ!」「さぁそこまでは……でもさしずめ今頃は手に手を取りあって『あなた』『なんだい』『あら恥ずかしいわ』」「まぁそう言うなよ……ってバカヤロ!不潔なことをするな!畜生!竜鳳のヤツうまいことやりやがって……ようし!野郎ども!こうなったら竜鳳の手からすぐに玉英を奪ってくるんだ!」

雑木林から戻ってきた玉英と竜鳳、そこへ大三元とその子分たちが立ちはだかる。「竜鳳!気の毒だが玉英は貰ったぞ!命が惜しけりゃ逃げるのは今のうちだぞ!」「なに!貴様のような盗賊に玉英を渡してなるものか!」「フフ……言ったな竜鳳。おう野郎ども、たたんじめぇ」真っ青になって悲鳴を上げる玉英。「誰か助けて!助けて!」

その悲鳴は、觔斗雲に乗って水簾洞へ帰る途中だった悟空の耳にも入った。あれは玉英さんの声だったような……と気がかりになって地上に降りて見ると、竜鳳がひとり嘆き悲しんでいる。事情を聴くと「私の恋人、玉英さんがさらわれたんです」というではないか。「なに、お前は何て意気地のねぇ男なんだ!てめぇの恋人がさらわれておきながら、取り返しにも行かねぇで、メソメソしてる奴があるかい!」「それが……何しろ相手は鬼の大三元という大泥棒なんで」竜鳳から玉英を助け出してほしいと懇願された悟空は単身、山賊のすみかへ乗り込んで行った。
「やい大三元、俺は孫悟空様という者だが、今さらってきた女を返してもらいに来た。素直に出せば許してやるが、さもなければ痛い目にあうぞ」「何をほざくか、片腹痛い。おい野郎ども、こいつもたたんじめぇ」たちまち始まる悟空と山賊たちの大立ち回り。

竜鳳が玉英の身を案じていると、椀丹が玉英を探す声が聞こえてきた。「おう竜鳳さん、玉英を知りませんか」「それがその……大三元のために」「えっ、もう連れて行かれてしまったのか……ああ竜鳳さん、貴方はなぜ玉英を守って下さらなかったのじゃ」「しかし今、どなたかは知らないが、助けに行って下さいました」「えっ、玉英を助けに!?」

山賊のすみかでは子分たちが全員のされてしまい、残った大三元だけが悟空と睨みあっていたが、大三元もやがて悟空の妖術のためにヘナヘナと座り込んでしまった。もう二度と悪行を働かないと誓わされ、玉英をここへ連れてくるよう命じられて大三元が出ていくと、悟空は「そうだ、おいらが玉英さんを助けるよりも、竜鳳に助けられたほうがいいだろう」と考えて竜鳳の姿に化けた。やがて玉英が大三元に連れられてやってくると、そこにいる竜鳳の姿を見て驚く。「ありがとう竜鳳さん、貴方ってかた、こんなに強い方とは思っていませんでしたわ」大三元もそこにいるのが孫悟空でなく竜鳳なので驚く。「あれ!てめえは竜鳳……あの野郎、いつの間に強くなりやがったんだろう」

やがて椀丹と竜鳳のもとへ玉英が帰ってきた。「玉英!よく無事に帰ってきたのう」「竜鳳さんどこへ行ったのかしら……まぁ、こっちにも竜鳳さん。おかしいわネ」「良かったですね、助かって」「まぁ、貴方が助けて下さったのじゃありませんか」「私は知りませんよ」「何がなんだかサッパリわからないが、まぁとにかく、玉英が無事に帰って来てこんなめでたい事はない。さあ、家に入んなさい、入んなさい」
三人が家の中へ入っていったのを見届けて物陰から姿をあらわす悟空。「玉英さんも竜鳳さんもこれで幸せに暮らせようっていうものだ。これでいいんだ」そのとき仙人の声が聞こえてきた。「これ悟空、早く水簾洞へ帰れ。おまえの子分の山猿たちはひどい目に遭っているぞ」「そりゃ本当ですか!じゃ、私はすぐ帰ります。お師匠様もお達者で」「ウン、お前もな。さらばじゃ……」遠ざかっていく仙人の声。「早く帰ろう。玉英さん、お達者で。さようなら」悟空がその場を後にするのと入れ替わりに、竜鳳から事の真相を聞いた玉英たち三人が庭に出てきた。「それでは、さっき私を助けて下さったのは猿彦さんだったのね」「ええ」「そういうわけだったのか」「あっ、猿彦さんが雲に乗って飛んで行く」「あっ本当だ」「猿彦さん、ありがとう」「さようなら、さようなら」空を見上げて手を振りながら、口々に別れを告げる玉英たち。悟空も觔斗雲の上から後ろを振り返って別れを告げながら、一目散に水簾洞を目指して飛んで行くのだった。

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【解説】
冒頭で姿を消して見せる仙人、妖術のテストで消えたり出現したりする悟空、竜鳳に化ける悟空はスライド写真を用いたワイプ撮影。薪で叩かれた仙人の出現シーンは2カメ1カメの切り替えでトリックは用いていない。
卒業式の朝の山西洞はミニチュア、ラストシーンで空を飛ぶ觔斗雲に乗った悟空はテロップ合成(背景の雲と悟空をお互い逆方向に移動)。その前の振り返り悟空はスクリーンプロセス。
大三元が悟空に妖術でヘナヘナにされるという描写があるがトリックの指示はない。そういう見たての演技で済ませたと思われる。
もはやミュージカルのていにもなっていない、唄のシーンは玉英登場シーンのみ歌詞あり。ここで「不二家のフランスキャラメル」のテロップがかぶる。

悟空が大三元を懲らしめてから後のシーンはどうやら脚本を現場で大きく改稿したらしい。紙を貼って上から万年筆で書き改めているため印刷当初の脚本はほとんど判読できないが、悟空は竜鳳の姿に変身したりはせず、悟空として玉英を助けたうえで仙人のいいつけ通り身を引き、人間である竜鳳に託して水簾洞へ去っていく展開だったようだ。今回のエピソードも「西遊記」には無いオリジナルだが、自らの恋を諦めライバルになり替わってヒロインに結び付けようという改変は戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」でもよく知られる展開。1951年にはアメリカでの映画化作品が日本公開されているし影響を受けて取り入れたのかもしれない(そういえば手塚治虫も1953年に「快傑シラノ」を連載している)。修行のため恋路を捨てる――というと結城孫三郎一座が「玉藻前」の前にNHKテレビ実験放送で演じていた連続マリオネット劇「猿飛佐助」の第一話(1952年3月23日15:30-16:00放送)がだいたいそんな感じの締めだったのを思い出したので、立川文庫あたりの「猿飛佐助」をサルつながりで西遊記に持ってきたのかなと思ったのだが、調べてみても立川文庫版にそういう展開は見当たらなかったのであった。これが話に聞くシンクロニティというやつか、いや違う。

なお、この第四回でのリハーサルの様子が集英社の芸能雑誌「明星」昭和32年4月号のp.58に掲載されており、孫悟空のメーキャップや衣裳、仙人から授かった免許皆伝の巻き物に書かれた“孫悟空”の命名シーン、そのあと玉英を慕う悟空に仙人が釘をさすシーンの様子が確認できる。

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posted by 猫山れーめ at 19:41| Comment(0) | エノケンの孫悟空(TV版) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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