2020年04月03日

TV エノケンの孫悟空 全話レビュー/第三回

放送日:1957.1.20(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ企画第二部
演出:鈴木利泰/フロアマネージャー:吉沢比呂志・政田一喜/テクニカルディレクター:吉本琢也/CCU:成田哲雄/カメラ1:坂本晃、カメラ2:木村忠雄、カメラ3:武谷雅博/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利/照明:吉井澄雄/テレシネ技術:桜井芳裕/美術:出口雄章/美術進行:芦田光長/小道具:高橋俊一/化粧:小松英子/かつら:細野/衣裳:山我幸江
出演:榎本健一(孫悟空)、中村是好(仙人)、武智豊子(婆や)、音羽美子(玉英)、武藤英司(椀丹)

------------------------------------------
前回のつづき。仙人の庭で薪を割りながら「お師匠様の留守中に内緒で引き出しの巻き物を読んじまったほうが早いかもしれない……玉英はいまごろどうしているんだろうなぁ」と妄想を膨らませ、妄想の中の玉英とデュエットする悟空。思わず玉英の妄想に抱きつくが、それは玉英ではなく仙人である。「何をするんじゃ、この馬鹿もの!」「あら、お師匠だ」「しょうのないやつじゃ。これ、婆や、婆や。猿彦に薪の割り方でも教えてやれ」仙人が行ってしまうと、婆やは悟空が手に薪割りを持っているのを見て「なんだい、お前さん。たかが薪を割るのにまだ薪割りなんか使ってるのかい」と呆れる。「だって、薪を割るのに薪割りを使って何が悪いんだい! 薪を割らずにトウフを切る時に使えっていうのかい」「何をいってるんだい、だからお前さんは三本足りないんだよ」婆やは「悔しかったらやってごらん、」いって気合い一閃、空手チョップで次々と薪を割ってみせる。驚いて目を見張る悟空、婆やに煽られて自分も空手チョップで薪を割ろうとするが一つも割れない。婆やにまで「修行が足りない」と言われてふてくされる悟空。

そのとき仙人が婆やを呼び、酒が切れそうなので町まで買いに行ってくれないかと頼んだ。婆やが屋敷を出ていくと仙人は悟空に風呂が沸いたか尋ね、丁度良い湯加減だとに聞くと入浴に向かった。これは絶好の機会だと考えた悟空はこっそり仙人の部屋へ忍び込み、引き出しにしまってある妖術の巻き物を盗み読みし始める。そこへひさご(ひょうたんで作った酒を入れる容器)を忘れた婆やが戻ってきた。悟空は慌てて巻き物を後ろ手に隠すと、婆やに親切ごかして「おいらが代わりに町まで酒を買いに行ってやるよ。そのかわりお風呂の方をたのむぜ」とお使いの交替を持ちかけて、まんまと館の外へ出て行ってしまった。

夕方になり再会を果たした玉英に悟空は得意満面で「やっと妖術を身につけることができた」と報告するのだが、姿を消す妖術を使うと上半身しか消えない。騒ぎを聞いて出てきた父の椀丹は、下半身だけのお化けを見て気絶してしまう。元に戻る方法がわからず途方に暮れる悟空。

酒を買いに行ったまま戻らない悟空の様子を魔法の鏡で探していてこの騒ぎを知った仙人は悟空と玉英の前に現われ、悟空を元の姿に戻してみせた。礼は言ったものの、玉英の前で格好をつけたいのか「おいらにゃ、いざという時はお師匠様がついてますからねぇ」と悪びれる様子のない悟空に、仙人は呆れて「何を申すか! わしが術を解いてやらなかったらお前は永久にあのままになってしまうところだ。さ、わしについて参れ!この馬鹿もの!」と叱責する。それでも悟空は「そう何も、ひとのいる前で馬鹿ばかって言わなくてもいいじゃありませんか、全くうるせえジジイだなぁ」と毒づき、玉英には「またあとで来るね」と玉英の手にキスをする。「修行中の身でありながら女性に心を奪われるとは何事じゃ」と見咎める仙人だったが、あらためて玉英を見ると仙人も「なるほど、なかなか……そなたは美しいのう……おうおう、ポチャポチャとした手じゃのう、ウッヘッヘッッ」と言い出し、逆に悟空から「女に心を奪われるとは何事です」と突っ込まれる始末。

悟空と仙人が行ってしまってから、気絶していた椀丹がようやく正気を取り戻した。「玉英、化け物はどうした」「行ってしまいました……」「そうかい、ああ良かった……だがお前、何だってあんな化け物と付き合いがあるんだい。もし、こんな事が竜鳳さんに聞かれたらどうする」どうやら玉英には竜鳳という家柄も資産もある婚約者がいるらしい。また玉英はそのことを受け入れられないでいるようだった。玉英がいたたまれずにその場を立ち去ると、入れ替わりに竜鳳が玉英を訪ねてやってきた。椀丹はお茶でも飲んで待つよう竜鳳を家の中に招き入れる。

そのころ雑木林では悟空が正座させられて仙人から詰問されていた。「お前は化けることを誰に習ったのじゃ」「誰にも習いません」「習わぬ者が半分だって姿を消すことができるか」仕方なく悟空は、師匠が妖術をちっとも教えてくれず薪割りばかりさせるので巻き物をちょっと拝見したので……と打ち明ける。それを聞いた仙人は、不承不承ながら、悟空に妖術を初歩から教えることにした。仙人はその場で瞬時に姿を消し、「ここじゃ、ここじゃ」と言っては右往左往する悟空の頭をポカポカと叩いてみせる。観念した悟空が「わかりました、わかりました」と見えない相手に向かってお辞儀をすると、悟空の真後ろに姿を現した仙人が「わしに尻を向けるとは何事じゃ」とまたポカリ。

庭先で玉英が木にもたれて口ずさんでいると竜鳳が現われた。「竜鳳さん……いついらしたの」「今しがた……お帰りをお待ちしてたんです」うなだれる玉英。「ぼくが来たのがいけなかったのですか」玉英は答えない。「なにかあったんですね、玉英……あなたにそんな哀しい顔をされると僕まで哀しくなる」「ごめんなさい」「僕は今日、あなたとお芝居を見て、食事をして……楽しい一刻をすごしたいと思ってやってきたんです……どうぞ機嫌を直してください」「竜鳳さん……お願い、今日はそっと私一人にしておいてちょうだい……」「玉英……では、せめて、これだけでも受けてくれ」竜鳳が差し出した指輪を見て驚く玉英。「まぁ、何ですの、それ……」「あなたは僕との約束を忘れてしまったのですか」うなだれたまま無言の玉英。

そしてまた幾日かたった。仙人の館の庭で相変わらず薪割りをさせられている悟空がやはり以前と同じように愚痴をこぼしていると、仙人がやってきた。「お前もだいぶ薪割りが上手くなったようじゃから、ボツボツ妖術を教えてやろう」思わず立ち上がる悟空。「今度こそ本当ですか? また頭を殴るんじゃないでしょうね」「大丈夫じゃ。だがその前に、今夜わしの部屋へ来て、わしに気づかれんように巻き物を取って手に入れたならば妖術を教えてやる。どうだ、その自信はあるか」「ええ、ありますとも」「では今夜だぞ」

三日月の下でどこからかフクロウの鳴く声が聞こえている。仙人の館の廊下を忍んであるく足音……悟空である。そっと居間の中を伺うと、仙人が巻き物の前で頑張っている。廊下を戻ってきた悟空が婆やに何かを耳打ちすると、うなずいた婆やは仙人の居間に入って言った。「お師匠様、いま玉英さんという方がみえて、猿彦に会わせてくれっていってますが、会わせてもいいでしょうか」「あ、ならぬならぬ。玉英ならわしが会う。どこへ来てるんじゃ」「おもてに待ってますが」仙人と婆やが居間から出ていくと、入れちがいに悟空が入ってくる。「フン、しめしめ、お師匠様もモーロクしてるから、すぐに引っかかっちまわぁ」悟空は婆やを不二家ゴールドチョコレートで買収していたのだ。騙されたことに気が付いた仙人が居間に戻ってくると悟空が巻き物を片手にドヤ顔をしている。「お師匠様、ありゃおいらの計略ですよ。巻き物はこの通り、頂戴いたしました」「ハッハッハ……そんな事であろうとチャンと替えておいた。猿彦、よく見てみろ。それは巻き物ではない」「えっ……あら、不二家のパイパイビスケットだ」「たべてみろ。なかなか美味いぞ」言われたとおり食べてみる悟空。「なるほど、なかなか美味しいですね」「そんな事では、まだダメ。妖術を教えてやるのは来週」「えー」仙人の言葉に不満を述べつつ、ずっとビスケットを食べている悟空であった。

------------------------------------------
【解説】
前番組の「猿飛佐助旅日記」に戻してほしい。

1956年10月9日の「内外タイムス」に掲載された記事から察するに、どうやら「孫悟空」製作開始の裏側にはこんな経緯があったらしい。不二家提供のKRT日曜18時枠「猿飛佐助旅日記」はお子さま向け番組として始まったが、やがて大人の鑑賞にも耐えるストーリーへと変化していった。これがKRTの一部の人間には面白くない。またNTVはこれを子どもは退屈しているはずだと分析し、子供の視聴者を引き抜くべく「冒険王」連載中の人気時代劇「はやぶさ頭巾」をドラマ化して8月から「猿飛佐助旅日記」の真裏へとぶつけてきた。このままでは視聴者を他局に取られてしまうと危惧したKRTの一部の人間は、①不二家枠をゴールデンタイムへ移動させ、②「猿飛佐助旅日記」を終わらせて、③みんな大好きエノケンの十八番「孫悟空」を始める――という奇策に打って出た。ところがぶつけた方が割れるというのはよくある話でNTV「はやぶさ頭巾」は第10話をもって打ち切り。ライバルはいなくなったが動き出した列車は止まらず「猿飛佐助旅日記」は年内いっぱいで終了させられてしまう。「孫悟空」は見どころとなるはずのトリック撮影に失敗が相次いで不評を買い、1957年3月24日の「毎日新聞」によればスタッフが沼津市の日緬寺(※孫悟空を祀ってある)へ加護を頼む始末。3月20日には泣きっ面に蜂で東宝が「専属俳優は舞台公演中のテレビ出演を禁止する」という方針を打ち出し、主役エノケンの出演が危ぶまれる事態となった。これに対し当時のKRT大森編成部長は毎日新聞の取材に答えて番組の打ち切りも考えていると答えている。……それではいったい「猿飛佐助旅日記」はなんのために終わらせられたのか。
長々と脱線してしまったが、ストーリーがさっぱり進まないのでつい筆が滑ってしまった。いろいろな業界の思惑で始められたり終わらされたり引き伸ばさせられたりと翻弄される「作品」が気の毒でならない。

今回の特撮シーンについて判明している範囲で紹介する。悟空が半可通の妖術を使うシーンはワイプを使用した。クロマキーはまだ無い時代だ。
一方、雑木林で仙人が一瞬にして姿を消すシーンには「スライド」という指示がある。カメラ3台の構図を悟空・仙人・二人揃いにそれぞれ割り当て、仙人が消えるシーンのときだけはカメラがオフの間に中村是好が横へハケて仙人の写真を種板にしたスライド映写に切り替えておくという目の錯覚を期待したトリックを駆使したようである。スイッチングが煩雑で心配になるが、上手くいったかどうかは不明。
婆やを不二家ゴールドチョコレートで買収するくだりは青鉛筆で囲まれて鉛筆で薄く斜線が引かれている。指示内容は不明で、後述のパイパイビスケットと商品が被るのでカットされたのではとも考えられるが、話の流れから考えると、フィルムで別撮りしておいて回想シーンのように画面にダブらせるのに使った可能性もある。なお今回はミニチュア特撮はなし。

ミュージカルの本分である唄のシーンは悟空と玉英の妄想(オーバーラップで表現)がデュエットする恋の歌、玉英のソロ(不二家フランスキャラメルのテロップあり)の2か所で歌詞が確認できる。
生CMに相当すると考えられるシーンは、先述のゴールドチョコレート(金貨チョコのことではなく一口サイズのチョコをキャンディ包装したもの。「ゴールドミルクチョコレート」の名で近年まで販売されていたようだ)と、ラストシーンの巻き物あらためパイパイビスケット。これはトブラローネのような黄色い六角柱型の紙パッケージに入ったお菓子で巻き物に見えないこともないが、長さが5センチ足らずの小さなものだったらしい。このままでは巻き物に見間違えようもないので、劇中ではおそらく画面に映り易いよう拡大サイズにした小物を使ったのだろう。……スポンサーのお菓子を仙人が美味い美味いと太鼓判を押し、勧められた悟空も美味い美味いと言って食べながら第三話終了。なんだこれ。

Goku02.jpg
posted by 猫山れーめ at 19:03| Comment(0) | エノケンの孫悟空(TV版) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください
最近のコメント