2020年04月02日

日本で初めて三蔵法師を演じた女優は誰だったのか

前述(「エノケンの孫悟空」その1)で触れたとおり、「8時だョ!全員集合」のプロデューサーとして名を残す居作昌果は著書「8時だョ!全員集合伝説」の中で「エノケンの孫悟空で三蔵法師を演じたのは松竹少女歌劇団の長谷川待子」と誤った記述をしていた(※長谷川が演じたのは観音様であり三蔵法師を演じたのは花柳寛(後の二代目花柳壽應))。とはいえ松竹歌劇団への言及は先人による重大な示唆であった。歌劇団で西遊記を演じた事があるならば、団員は全て女性なので三蔵も女性が演じていたはずだ。

「レビューと共に半世紀 松竹歌劇団50年のあゆみ」によれば昭和31年1月公演の「第6回 春のおどり」では申年にちなんで「西遊記」が演じられたという。だがこの書籍には勝浦千浪が孫悟空を演じている写真や演目の概要しか記されておらず、それ以外のキャストや役名、特に三蔵法師が登場したのかどうかがわからなかった。京劇の西遊記を見に行くのがほぼ孫悟空の早変わりを見るのが目的も同然であるように、これが申年の主役である孫悟空の活躍を見せて楽しませるために組まれた演目だったとしたら、最初から三蔵法師の登場しない翻案という可能性もないとはいえない。配役を知るためにはパンフレットを見るのが早道だったが長年入手できる機会に恵まれず、松竹作品の膨大な資料を蔵する大谷図書館への訪問もまた開館日がシビアでタイミングが合わず、懸案事項を棚上げしたまま何年もの月日が流れてしまった。

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本日ようやく「第6回 春のおどり」のパンフレットを入手できたため確認してみたところ、確かに三蔵法師役が存在していたのでここに紹介する。
「レビューとともに半世紀」では「第六景 桃李」というキャプションの付いた孫悟空の立ち回り写真しか載っていなかったが、実際には「第四景 牡丹」のCパートから始まり、西遊記の「西梁女人国」エピソードを(東宝映画「白夫人の妖恋」の原作者としても知られる)林房雄が脚色した「第五景 芙蓉」「第六景 桃李」と2幕にわたって続く、唄と踊りとお芝居をたっぷり見せるバラエティだとわかった。
孫悟空を演じるのはOSKから特別参加の二枚目スター勝浦千浪。沙悟浄役は一條敬子(SDK幹部)、猪八戒役は麻耶みずほと五月千晴の交替制(いずれも準幹部)。そして三蔵法師を演じたのは……これもSDK幹部の八坂圭子と江川瀧子の交替制であった。

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パンフレットにはお芝居のセリフを英訳したページが設けられており、外国人観客でもストーリーを概ね理解できるよう配慮されている。ここに三蔵法師役として紹介されているのは八坂圭子の名前だけで、おそらく日程の途中から八坂とバトンタッチして登壇すると思われる江川瀧子の記載はなかった。

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朝日新聞縮刷版の演劇欄で当時の寸評を見たところ「全編がカブキ調」「バラエティーショー形式」「もう少しコミカルな面がほしい」などと評されている。公演期間は1月20日から2月29日まで。
公演期間中の1956年2月5日にはNHKラジオ第1放送の15:05~16:00枠でも中継されている。朝日新聞縮刷版のラテ欄では「劇場中継(浅草國際劇場)「春のおどり」川路竜子 勝浦千浪、小月冴子他」と記載されているが、この時間帯に西遊記の部分が含まれていたかどうかまではわからなかった。

というわけで現時点で挙証資料を出せる範囲においては、日本で最初に三蔵法師を演じた女優は「八坂圭子・江川瀧子」の二人であるようだ。
ただし、もしかしたらこれ以前にも――たとえば子供向けのラジオドラマで女性声優が三蔵法師を演じた可能性は、なきにしもあらずである。

追記:三蔵法師を演じられた二代目花柳壽應が昨年2020年9月26日に鬼籍に入られたことを今知った。謹んでお悔やみ申し上げる。

posted by 猫山れーめ at 17:12| Comment(0) | エノケンの孫悟空(TV版) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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