2020年06月10日

TVミユジカル・ショー エノケンの孫悟空(その6)第五回

放送日:1957.2.3(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ局
演出:鈴木利泰/フロアマネージャー:吉沢比呂志・政田一喜/テクニカルディレクター:吉本琢也/CCU:成田哲雄/カメラ1:坂本晃、カメラ2:木村忠雄、カメラ3:武谷雅博/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利/照明:吉井澄雄/テレシネ技術:桜井芳裕/美術:出口雄章/美術進行:芦田光長、清水専三、田島、高木、矢野/化粧:小松英子/かつら:細野かつら店/衣裳:山我幸江
出演:榎本健一(孫悟空)、須藤健(牛魔王)、谷村昌彦・栗野操・石井沿彦(牛魔王の児分(1)~(3))、三越富夫(安甲)、岸本清(猿六爺)、横田年正・雲野朗・谷昭・坂井隆・小林幸・中右昌夫・辻仁一・村田茂男・中沢永一郎(山猿(1)~(9))、岡安博・泉正・石倉玲子(小猿(1)~(3))、安田洋子・山田薫(女(1)~(2))

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妖術を身に付ける念願が叶い、觔斗雲に乗ってふるさと花果山へ急ぎ帰ってきた孫悟空。水簾洞の入口から手下たちに呼びかけるが、誰も出迎えに出てこない。不審に思いつつ中へ入っていくと洞窟の奥では山猿たちが隅の方で震えていた。
「あ、あなたはいったいどなた様ですか」「どなた様ッて、俺は花果山水簾洞の主、猿彦大王、孫悟空様だ」「猿彦大王、孫悟空様……? するってぇと、昔々西牛賀洲へ妖術を習いに行かれたという大王様ですか」「いかにも、その猿彦大王じゃ」
驚いた山猿が孫悟空の帰還を大声で知らせると、屏風の裏から杖にすがった猿六じいさんが出てきた。
「えっ、そりゃ本当か? おう、大王様だ! 大王様、お懐かしゅうございます。猿六でございます」「猿六?」「はい。大王様はお忘れになったかも存じませぬが、西牛賀洲に行かれた時、私はほんの子供でした」「うーむ、そうかい……すると随分永い間、ここを留守にしてたってわけだなぁ」「はい。……しかし大王様はちっともおかわりになりませんねぇ」「そんな事より、他の山猿たちはどうしたんだ?」「されば……牛魔王という妖怪のために、次々とわが同胞は捕えられていってしまったのです」
自分が不在の間の一大事件を知った悟空は牛魔王のもとから仲間の猿たちを必ず救いだしてきてやると猿六たちに約束する。

そのころ牛魔王は側女に酌をさせつつ、子分に命じて山猿たちを奴隷のように働かせていた。側女もまた捕らわれてきた女たちで、家へ帰りたいと泣くが牛魔王は聞き入れない。
その牛魔王のすみかへとやってきた悟空。門前には鉄の扉が降りている。その扉に悟空が手を掛けたとたん、飾りだと思っていた牛の顔の目が光り、「モーウ、モーウ……」と警報を発し始めた。悟空の手は扉に吸い付いたように離れない。
「アッ! こいつはいけね! こんな仕掛けがあったのか!よーし、そんならこっちも」
思わぬトラップに引っかかった悟空はとっさに妖術を使って姿を消した。やがて牛魔王の子分が警報を聞いて門から出てきたが、姿を消している悟空には気付かない。誤報と思い込んだ手下が警報を解除したのを幸い、この隙に門の中へ侵入した悟空は、子分が牛魔王のもとへと報告に戻るのに付いていき、まんまと牛魔王が居座る本拠地の最深部に辿りついた。
「ややっ貴様は何者だ」「俺は花果山水簾洞の主、孫悟空様だ」「それがこの牛魔王様に何の用があって来たのだ」「子分を返してもらいに来たのだ」「子分を返してもらいたいって……生意気な山猿め。それっこいつもやっちまえ」
牛魔王に命じられた手下その一が悟空に向かっていくが、悟空が妖術を使ってフッと吹くとたちまち固まってしまう。別の手下その二が向かっていくと、また固められてしまう。たちまち3人の手下が固まってしまった。
「ウン、ちょこざいなり孫悟空、かくなる上は余が成敗してくれん」
牛魔王の振り下ろす薙刀をひらりとかわす悟空。追いかける牛魔王、逃げる悟空。
悟空は逃げるうちに山猿たちの閉じ込められている牢へと辿りついた。猿彦大王がみずから助けに来たと知って歓喜に沸く山猿たち。解放した山猿が追加の戦力となり、ついに牛魔王一味は降参。悟空は自分の子分の山猿たちを連れて帰ることを牛魔王に認めさせ、ついでに牛魔王の持つ武器を全て渡すことにも渋々同意させた。あまつさえ毎年かならず貢物を持ってくることまで約束させると、とどめに先程まで山猿たちが入れられていた牢へ牛魔王一味を押しこめて鍵をかけて出て行ってしまう。

牛魔王に捕らわれていた女たちが解放されたのを見届けると、悟空は子分たちに「雲に乗せて連れて帰ってやろう」と話す。雲に乗れると聞いて大喜びの子分たちだったが、悟空から言われるがまま隅に集まると、悟空の妖術で全員チョコレートに変えられてしまった。小さなチョコレートになった山猿たちを拾い集めてふところに仕舞う悟空。
「親分、わたしたちをこんなに小さくして、どうするんですか」「心配するな。不二家の動物チョコレートにして連れて帰るんだ。見ろ、とってもかわいいだろう」
そう言うと觔斗雲に乗りこみ、牛魔王の住処を後にして去っていく悟空。

牢の中に残された牛魔王と手下たちは、何とか悟空に対して仕返しできないものかと思案していた。ちょうどそこへ竜王一族の安甲が牛魔王を訪ねてくる。安甲に助けられて牢の外へ出た牛魔王たちは、これまでの経緯を安甲に話し、何かうまい悟空への仕返しはないかと相談する。それを聞いた安甲は「お任せください」と小声で牛魔王に耳打ち。どうやら何か妙案が思いついたようだ。

水簾洞に着いた悟空は、出迎える山猿たちの前でチョコレートにしていた子分たちを元の姿に戻した。別れ別れになっていた家族が感動の再会を果たし、喜びと悟空への感謝を口にしながら洞窟の奥へと戻っていく。――気がつくと、水簾洞の入口には悟空一人しか残っていなかった。
「あー、親子、兄弟って良いもんだなぁ……俺にゃどうして親もなけりゃ兄弟もねえんだろう」
ここで第一回でも歌った“天涯孤独を憂う唄”を歌う悟空(※画面に「不二家フランスキャラメル」のテロップ入る)。

その夜のことである。槍を携えた子分の山猿が水簾洞の入口で番をしていると、誰かが近づいてきた。さきほど牛魔王と密談をしていた竜王族の安甲である。
「孫悟空様はおいででございましょうか」「お前は何者だ!」「私は東海の竜王のところから参りました。どうぞこの手紙を孫悟空様にお渡し願いとうございます」
番兵が預かってきた手紙に悟空が目を通したところ、これは竜王からの招待状であった。悟空から面会を許されて入ってきた安甲、おべんちゃらを言って悟空の機嫌をとる。
「これはこれは、うるわしきご尊顔を拝し、きょうえつ至極に存じます」「竜王のお使者、遠路ご苦労であったのう」「ところで如何でございましょう。孫悟空様には竜宮においで願えましょうか」「うん、勿論お伺いする」「ははぁ、有難うございます。何しろ近頃、花果山水簾洞の孫悟空様といえば知らない者は知らないが知ってる者は誰でも知っている、甘いもカライもスッパイもなんでもかんでもかみわけた天下無敵の大王様、いまどき孫悟空様のお名前を知らない者は馬鹿かアホーはテーノーぐらいなもので……」「フフフフフ、それほどでもないがね」「いえ、孫悟空様においでいただければ、主人、竜王はどんなに喜ぶことでしょう……私も使者として、はるばる参った甲斐があるというものでございます」「ではそなた、ひとまず先に帰り、竜王どのによろしくお伝え下さい」「ハァ! ではお待ちいたしております」「ご苦労であった」
去り際、うまくいったとばかりにペロリと舌をだす安甲。

安甲が帰ってしまうと、傍で控えていた子分の山猿が悟空に上申した。
「あのー、大王様、竜王のところへ行かれるといっても、竜宮は海の中にあるんですよ。海の中にはいろいろ恐ろしい者がおりますからおやめになった方が良かろうかと存じますが」「つまらぬ心配するな、俺は妖術が使えるんじゃ。どんな化け物が出ようと、へっちゃらだ。では行ってまいるぞ」
自分を誇るいさましい唄を歌いながら水中を進んでいく悟空。やがて遠景に竜宮が見えてくる――

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【解説】
牛魔王は山猿たちを奴隷のように働かせているが、何の作業をさせられているかの描写はない。台本上にメモされた2カメ・3カメの確認図では山猿たちは「※」形の図で表現されており、これが“十字に組んだ棒に4人の山猿を配置させること”を意味しているのであれば、いまや「奴隷が回す謎の棒」としてネタにされたりネット百科事典にまとめられたりしているお馴染みのアレだったのかもしれない。

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前半では牛魔王の悪辣さが目立つものの、牛魔王が降参してからは悟空の尊大ぶりが鼻につくせいか、どちらが善玉でどっちが悪玉がわからなくなる。もっとも三蔵法師と出会うよりも前の話なので悟空らしいといえばそうなのではあるが。
またこのドラマの作者は隙あらば悟空に孤独であることへのコンプレックスを漏らさせようとするようだ。天外孤独の唄を披露するのはエピソード第一回(放送第二回)以来。「天涯孤独の唄」……というのは別にそういう題名なのではなく筆者が他の劇中歌と区別する便宜上そう表現しているだけで、台本ではどの劇中歌にも題名は記されておらず「悟空の唄」となっている。

今回使われたトリック撮影――便宜上「特撮」と呼んでよいと思うが、現存する台本上に指定が見られるものは次の通り。
・テロップカードによるものが「觔斗雲で飛ぶ石猿」「觔斗雲で飛ぶ猿彦王」(※名称は台本の指定のまま。以前のエピソードで使用したテロップカード2枚の再使用ということか)。
・フリップカードを写すものが「夜空梢ごし」、これは特撮というより時間経過をあらわすコマのようなもの。
・ミニチュアを使用するものが「花果山遠景」「水簾洞洞窟」「水中の竜宮遠景」。
・冒頭の觔斗雲で飛行中の背景と、ラストの水中シーンの背景はスクリーンプロセス。
・悟空が姿を消すシーンと、悟空の妖術で手下が次々と固まるシーンではスライド写真を使用。
・姿を消して門から入っていく悟空は黒幕前で演技する悟空(3カメ)と門を開ける手下(2カメ)の映像をダブらせた。
悟空が子分たちを不二家動物チョコレートに変えるシーンは特撮ではなくカメラワークによるもの。

余談だが、昭和15年の東宝映画版「孫悟空」と昭和32年のTBS版「エノケンの孫悟空」の中間に位置する昭和22年の東宝演劇版「孫悟空」での悟空は如何な性格立てだったものかとパンフレット(1947年11月5日発行)を取り寄せて梗概を読んでみたところ――どうもお話が変である。詳しくは菊田一夫による脚本を確かめてみないとわからないが、ストーリーは悟空が天界で大あばれして釈迦に閉じ込められるまでの物語で、天竺へお経を取りに行くくだりは含まれない。その中に天蓬と嫦娥とその他諸々を巡る恋愛話が絡んでくる。悟空は天界で爪弾きにされるうちに自暴自棄になって天界の桃の肥料を食べて妊娠、自分と瓜二つの赤ちゃんを出産して驚きのあまり卒倒しているところを逮捕されるとか書いてある。――ちょっと理解がついていかない。少なくとも三蔵・八戒・悟浄は登場はするものの特別出演みたいなものでストーリーにはあまり絡んでこないようであった。
なお演劇の正式タイトルは昭和15年版「孫悟空」と同様に冠の付かない「孫悟空」だが、ゲスト出演の寺島玉章・茶目の紹介文では昭和15年版「孫悟空」のことを括弧書きワンワードで「エノケンの孫悟空」と書いている。


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2020年04月13日

TVミユジカル・ショー エノケンの孫悟空(その5)第四回

放送日:1957.1.27(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ局
演出:鈴木利泰/フロアマネージャー:吉沢比呂志・政田一喜/テクニカルディレクター:吉本琢也/CCU:成田哲雄/カメラ1:坂本晃、カメラ2:木村忠雄、カメラ3:武谷雅博/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利/照明:吉井澄雄/テレシネ技術:桜井芳裕/美術:出口雄章/美術進行:芦田光長、清水専三、長島省吾、高野将夫、山田守/小道具:高橋俊一/化粧:小松英子/かつら:細野/衣裳:山我幸江
出演:榎本健一(孫悟空)、中村是好(仙人)、武智豊子(婆や)、音羽美子(玉英)、武藤英司(椀丹)

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前回のつづき。悟空が薪割りの手を休めて「いつになったら妖術を教えてもらえるんだろう」とボンヤリしているところへ仙人が「これ猿彦、ボツボツ妖術をおしえてやろう」とやってきた。「ではまず、わしを打ってまいれ」「お師匠様をなぐっていいんですか」「かまわん、思いっきり殴ってこい」悟空がこれで殴ってやろうと薪を手に取ると、仙人の姿がスッと消えた。慌てる悟空のそばで仙人の声が聞こえてくる。「わしがここにいるのがわからんのか」「いいえ、わかります」「わかったら打ってこい」悟空は声が聞こえるあたりへ薪を打ち下ろすが、何度やっても空を切るばかり。そのうちに悟空は声の反対方向に仙人がいるらしいことに気付き、声がする方と逆の向きを薪で打ったところ、見事に仙人の頭へ当たった。仙人は悟空の手腕を誉め、妖術修業は終わったから山西洞を卒業するがいいと伝える。悟空はまだ何も教えてもらっていないと慌てるが、姿を消したり空を飛んだりする術は卒業証書に書いてあると言われて胸をなでおろした。

翌朝、仙人の居間で卒業式が行われた。仙人がうやうやしく証書を読み上げ始めると、どこからか蛍の光が聞こえてくる。「卒業証書。右の者はよく薪割りをし、水をくみ、お風呂を沸かした。以下長いから省略」「なんです、それは。随分へんな卒業証書だなぁ」「いらないのか」「いえ、いります」「では、これを授ける」受け取った卒業証書を早速広げて読んでみると、聞き覚えのない名前が書かれている。「孫悟空ッてなんだろう」「馬鹿者、それはお前に授けた名前じゃ。こんにち只今より、そなたは孫悟空と名乗れ」「孫悟空ねぇ……」「良い名前であろうが」「はい、結構な名前ですが、それよりねェお師匠様、妖術の方はちっとも書いてありませんねぇ」「あわて者、よく最後まで見ろ」巻き物を広げていくと確かになにやら書いてある。「なるほど……書いてある書いてある。まず最初、髪の毛をこう抜いて……」「アイタ、イタタ」「あっこれは失礼……つい夢中になってたもんで」「何てそそっかしい奴だ。自分の髪の毛を抜くんじゃ。よりによってわしの大切な髪の毛を抜くとは」「だってお師匠様はおいらより三本余計に毛があるんだからケチケチすることは無いじゃありませんか」「それは若い時の事でこう年をとると頭の毛は数えるくらいしかありません。もたいないことをする奴じゃ」仙人に呪文のコツを教わりながら髪の毛を抜いて吹くと、悟空の姿がパッと消え、また毛を抜いて吹くと元の姿に戻った。「なんだ、わりと簡単じゃねえか」仙人は悟空が術をうまく使えるようになったのを見届けると水簾洞へ帰るよう促した。が、行きかけた悟空を呼び止めると「そなた玉英が好きらしいが、お前はいかに妖術が使えようと所詮石猿じゃ。玉英は人間。猿と人間がいっしょになって、幸せになるものではない。かような事を言うのはつらいのだが、そちの行く末を案じればこそいうのじゃ」と玉英への恋を諦めるよう釘を刺した。

所変わって雑木林。玉英が美しい唄を歌っていると竜鳳がやってきた。竜鳳は玉英の父・椀丹から、玉英は猿の化け物に心を惹かれていると聞かされ、心配になってやって来たのだ。玉英はそれを否定しないばかりか、自分がもし竜鳳と結婚したら竜鳳はきっと盗賊の“鬼の大三元”に殺されてしまう、そんなことになるくらいなら猿彦と駆け落ちしてこの島を出たいと思っているのだと竜鳳に打ち明けた。

ちょうどその頃、山賊のすみかでは大三元が使いから戻ってきた子分の報告を聞いていた。「親分、今宵玉英をいただきに参上するという手紙、確かに手渡して参りました」「御苦労。して玉英に確かに渡してきたんだな」「それが、父親の椀丹に渡しました」「あれ、どうして玉英に渡さなかったの?」「あいにくと玉英がいないので……」「いないって、どこへ行ったんだ」「それが親分、あの竜鳳という男と」「どこへ行ったというのだ!」「さぁそこまでは……でもさしずめ今頃は手に手を取りあって『あなた』『なんだい』『あら恥ずかしいわ』」「まぁそう言うなよ……ってバカヤロ!不潔なことをするな!畜生!竜鳳のヤツうまいことやりやがって……ようし!野郎ども!こうなったら竜鳳の手からすぐに玉英を奪ってくるんだ!」

雑木林から戻ってきた玉英と竜鳳、そこへ大三元とその子分たちが立ちはだかる。「竜鳳!気の毒だが玉英は貰ったぞ!命が惜しけりゃ逃げるのは今のうちだぞ!」「なに!貴様のような盗賊に玉英を渡してなるものか!」「フフ……言ったな竜鳳。おう野郎ども、たたんじめぇ」真っ青になって悲鳴を上げる玉英。「誰か助けて!助けて!」

その悲鳴は、觔斗雲に乗って水簾洞へ帰る途中だった悟空の耳にも入った。あれは玉英さんの声だったような……と気がかりになって地上に降りて見ると、竜鳳がひとり嘆き悲しんでいる。事情を聴くと「私の恋人、玉英さんがさらわれたんです」というではないか。「なに、お前は何て意気地のねぇ男なんだ!てめぇの恋人がさらわれておきながら、取り返しにも行かねぇで、メソメソしてる奴があるかい!」「それが……何しろ相手は鬼の大三元という大泥棒なんで」竜鳳から玉英を助け出してほしいと懇願された悟空は単身、山賊のすみかへ乗り込んで行った。
「やい大三元、俺は孫悟空様という者だが、今さらってきた女を返してもらいに来た。素直に出せば許してやるが、さもなければ痛い目にあうぞ」「何をほざくか、片腹痛い。おい野郎ども、こいつもたたんじめぇ」たちまち始まる悟空と山賊たちの大立ち回り。

竜鳳が玉英の身を案じていると、椀丹が玉英を探す声が聞こえてきた。「おう竜鳳さん、玉英を知りませんか」「それがその……大三元のために」「えっ、もう連れて行かれてしまったのか……ああ竜鳳さん、貴方はなぜ玉英を守って下さらなかったのじゃ」「しかし今、どなたかは知らないが、助けに行って下さいました」「えっ、玉英を助けに!?」

山賊のすみかでは子分たちが全員のされてしまい、残った大三元だけが悟空と睨みあっていたが、大三元もやがて悟空の妖術のためにヘナヘナと座り込んでしまった。もう二度と悪行を働かないと誓わされ、玉英をここへ連れてくるよう命じられて大三元が出ていくと、悟空は「そうだ、おいらが玉英さんを助けるよりも、竜鳳に助けられたほうがいいだろう」と考えて竜鳳の姿に化けた。やがて玉英が大三元に連れられてやってくると、そこにいる竜鳳の姿を見て驚く。「ありがとう竜鳳さん、貴方ってかた、こんなに強い方とは思っていませんでしたわ」大三元もそこにいるのが孫悟空でなく竜鳳なので驚く。「あれ!てめえは竜鳳……あの野郎、いつの間に強くなりやがったんだろう」

やがて椀丹と竜鳳のもとへ玉英が帰ってきた。「玉英!よく無事に帰ってきたのう」「竜鳳さんどこへ行ったのかしら……まぁ、こっちにも竜鳳さん。おかしいわネ」「良かったですね、助かって」「まぁ、貴方が助けて下さったのじゃありませんか」「私は知りませんよ」「何がなんだかサッパリわからないが、まぁとにかく、玉英が無事に帰って来てこんなめでたい事はない。さあ、家に入んなさい、入んなさい」
三人が家の中へ入っていったのを見届けて物陰から姿をあらわす悟空。「玉英さんも竜鳳さんもこれで幸せに暮らせようっていうものだ。これでいいんだ」そのとき仙人の声が聞こえてきた。「これ悟空、早く水簾洞へ帰れ。おまえの子分の山猿たちはひどい目に遭っているぞ」「そりゃ本当ですか!じゃ、私はすぐ帰ります。お師匠様もお達者で」「ウン、お前もな。さらばじゃ……」遠ざかっていく仙人の声。「早く帰ろう。玉英さん、お達者で。さようなら」悟空がその場を後にするのと入れ替わりに、竜鳳から事の真相を聞いた玉英たち三人が庭に出てきた。「それでは、さっき私を助けて下さったのは猿彦さんだったのね」「ええ」「そういうわけだったのか」「あっ、猿彦さんが雲に乗って飛んで行く」「あっ本当だ」「猿彦さん、ありがとう」「さようなら、さようなら」空を見上げて手を振りながら、口々に別れを告げる玉英たち。悟空も觔斗雲の上から後ろを振り返って別れを告げながら、一目散に水簾洞を目指して飛んで行くのだった。

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【解説】
冒頭で姿を消して見せる仙人、妖術のテストで消えたり出現したりする悟空、竜鳳に化ける悟空はスライド写真を用いたワイプ撮影。薪で叩かれた仙人の出現シーンは2カメ1カメの切り替えでトリックは用いていない。
卒業式の朝の山西洞はミニチュア、ラストシーンで空を飛ぶ觔斗雲に乗った悟空はテロップ合成(背景の雲と悟空をお互い逆方向に移動)。その前の振り返り悟空はスクリーンプロセス。
大三元が悟空に妖術でヘナヘナにされるという描写があるがトリックの指示はない。そういう見たての演技で済ませたと思われる。
もはやミュージカルのていにもなっていない、唄のシーンは玉英登場シーンのみ歌詞あり。ここで「不二家のフランスキャラメル」のテロップがかぶる。

悟空が大三元を懲らしめてから後のシーンはどうやら脚本を現場で大きく改稿したらしい。紙を貼って上から万年筆で書き改めているため印刷当初の脚本はほとんど判読できないが、悟空は竜鳳の姿に変身したりはせず、悟空として玉英を助けたうえで仙人のいいつけ通り身を引き、人間である竜鳳に託して水簾洞へ去っていく展開だったようだ。今回のエピソードも「西遊記」には無いオリジナルだが、自らの恋を諦めライバルになり替わってヒロインに結び付けようという改変は戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」でもよく知られる展開。1951年にはアメリカでの映画化作品が日本公開されているし影響を受けて取り入れたのかもしれない(そういえば手塚治虫も1953年に「快傑シラノ」を連載している)。修行のため恋路を捨てる――というと結城孫三郎一座が「玉藻前」の前にNHKテレビ実験放送で演じていた連続マリオネット劇「猿飛佐助」の第一話(1952年3月23日15:30-16:00放送)がだいたいそんな感じの締めだったのを思い出したので、立川文庫あたりの「猿飛佐助」をサルつながりで西遊記に持ってきたのかなと思ったのだが、調べてみても立川文庫版にそういう展開は見当たらなかったのであった。これが話に聞くシンクロニティというやつか、いや違う。

なお、この第四回でのリハーサルの様子が集英社の芸能雑誌「明星」昭和32年4月号のp.58に掲載されており、孫悟空のメーキャップや衣裳、仙人から授かった免許皆伝の巻き物に書かれた“孫悟空”の命名シーン、そのあと玉英を慕う悟空に仙人が釘をさすシーンの様子が確認できる。

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2020年04月09日

「PZFジェット機」は本当に誤植だったのか

2006年12月29日(コミケ71の1日目)合わせで「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃 作品解題」を発行した際、可能な限り原本の表記を忠実に再現するという方針をとったので、明らかな誤植であってもそのままテキストに起こした。
ふつう全集などの巻末で複数の作品を個別に解説していく「作品解題」を誌名にしたのは、今にして思えばくだらない考えすぎが発端だったと記憶している。
はじめて自分の著作物でない作品を復刻するのにあたり――実は私が人生で初めて編集したオフセット同人誌は1988年8月1日発行「寺島令子初期作品集」という漫画家先生の学生時代の作品の復刻集ではあるのだが――これを建前上「映画研究書」として作り、脚本を参考資料として採録する形をとったほうが、何かあったときに関沢新一サイドに迷惑をかけずにすむのではないか、とその時は思ったのだ。当時の窓口であった日本シナリオ作家協会に問い合わせて、脚本を採録するのに映画製作会社から許可を得る必要はないと確認ずみではあったが、晩年の関沢氏がこの話題から避けていた様子を他の作家の著作から2例見かけていたこともあって、思わぬ方面から揚げ足を取られることが無いよう著作権法やら判例やらを調べまくって自己防衛に努めていたのである。

私自身は「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」を見たことが一度もない。中学生のころガンプラに惹かれて手に取った1981年夏の朝日ソノラマ「宇宙船」vol.7をリアルタイムで読んでいながら、そこに大きく掲載されている怪ロボット・ダレスのスチル写真は「古典SF洋画のロボットだな」と思い込んでスッ飛ばしていたくらいだった。
その後、大学生となって図書室の書庫に入ったとき「朝日新聞縮刷版」の存在を知ると、失われたはずの過去のテレビ番組がそこに息づいているのを見てすっかりイカレてしまい、毎日のように書庫へ入り浸るようになり、やがて色々なドラマのサブタイトルリストを作り始めた。毎週○曜日の○面に該当するページを一発でめくっているうちに、今でも7日おきの日付をスムーズに頭で思い浮かべていけるようになった。そうしているうちに縮刷版の昭和31年11月号の中で見たことのない特撮映画の広告が目に入った。「M87星雲が地球を総攻撃!」とか書いてある。「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」という身も蓋もないタイトルになぜか強く興味を惹かれた。

――どうも「記憶をたどりながら書く」と話が脱線していけない。要は、その後「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」は脚本を読んだ限りでは面白そうなのになんだか不当に評価を貶められているのはなぜだろうと感じ、文献を調べていくうちに、どうやら今では映画を実際に見て評価できないらしい、それで公開当時のキネ旬の映画評でケチョンケチョンに叩かれてるからみんな右へ倣えしているようだ(評価の内容が似通っていて、なかには孫引き・曾孫引きらしきものまである)、でもキネ旬のバックナンバー辿ったらこの戸田隆雄ってひと戦前から辛口批評ばっかりしてるじゃないか、大伴昌司も1969年の「世界SF映画大鑑」でケチョンケチョンだけどどうやらテレビで見ての感想らしいし、成熟した60年代SF映画と比べて語るなんてフェアじゃない、こういう流行・トピックスに便乗した映画=いわば「トピック・ムービー」は時代を問わない永遠の視点から値踏みするのではなく、1956年当時の大衆ニーズという視点から価値を見直さなきゃいけないんじゃないだろうか?……そういう動機から始まって、脚本を復刻して多くの人が手軽に読めるようになれば、再評価につながるんじゃないかと思ったのである。

「日本初期SF映像顕彰会」という名称も、個人で当時の関係者等に手紙を出しても相手にされないと思って考えた架空の団体名だった。レス画像じゃないけど「俺、総勢一名参陣」だった。主演の高嶋忠夫を含め、所属事務所がわかる関係者には可能な限り手紙を出したが、返事は1通もこなかった。「作品解題」は200部印刷したが、コミケ71で売れたのは80冊だった。これでもよく売れた(=大切なお金を払ってでも興味を持ってくれる人がいた)と思うが、当時は120冊を持ち帰ることになり呆然としたのを覚えている。その後、特撮関係の本で名前を見かけるライターの方々へ(無礼にも一方的に!)「読んでください」と郵便で送りつけたり、専門書店に委託させてもらったり、小規模なSF関連の集会で手売りしたりして、少しずつ在庫を減らしていった。とあるライターの方から「興味があるので通販方法を教えてください」と連絡があり、日本中誰もが知るビッグネームの方だったので舞い上がって「先に本を送るので届いたら代金をお願いします」と送ったら、贈呈されたと思われたのかお金を払ってくれなかったこともあった。完売するまでの期間はよく覚えていないが、コミケ74終了時の記録では在庫12冊、コミケ75では販売実績の記録がないので、複数のイベントに参加費と旅費を払い積極的に参加して何とか2年で片づけたようだ。

また脱線してしまった。「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃 作品解題」発行から11年が過ぎた2017年12月30日(コミケ93の2日目)、今度は主従を逆転させることなく「著:関沢新一」として正規の脚本集「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」を発行することにした。11年の間に関沢新一の著作権管理は日本シナリオ作家協会から個人弁護士事務所に移っていたが、幸いにも許諾を得ることができた。
私が2011年から始めた新書版での同人誌では、これまでのB5判同人誌が出典元の資料性を第一に考えて旧字旧かなはもちろん誤植も忠実に再現しており、それがかえって今の読者と古典作品との間に壁を作っているのではないかと反省した結果、誤植や旧字旧かなを私個人の責任で改めることにしたシリーズでもある。所有していた「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」の台本は誤植だらけだったので、これを改めることは脚本家の本意にも添うことだと思っており、迷いは無かったのだが、ある部分のセリフで私のタイピングの手はハタと止まってしまった。「PZFジェットって何だ……?」

PZF.jpg

決定稿の中で、東京のどまんなかに現われた円盤を牽制するために三機編隊のジェット機が飛んでくる。これをおそらく自衛隊員が「只今、PZFジェット三機、間もなく上空に現れます」と知らせてくるシーンである。
私はミリタリーに詳しくないので当時そういう略号の軍用機があったのかもしれないと考え「PZF」というジェット機を検索してみたがヒットしない。もちろん対戦車兵器パンツァーファウストでないのは明らかなので除く。酣燈社の1955年版「世界航空機年鑑」を取り寄せてみたところ、Pで始まるのは米海軍の哨戒機だとわかったが、次のZを使う会社記号がない。仮にZが2の誤植で「P2F」だったら「グラマンが2番目に製造した哨戒機」という意味になるらしい。劇中ではこれがジェット機の3機編隊で、円盤をかすめて飛ぶという描写からちょっと違う気がする。レシプロ機のP-36 ホークは1954年には全機退役している。
このセリフは準備稿だと「只今、所沢の極東米空軍基地より連絡がありました、ジェット機三機円盤偵察のために出発、まもなく上空に現れるとの事です」となっている。もし「PZF」が「極東米空軍基地」の略称であれば辻褄が合うはずだ。検索したところ昭和31年当時の所沢にあったアメリカ極東空軍の略称はFEAF(Far East Air Force)だった。私はガックリした。やはりこれは肉筆で書かれた縦書きの「F86」が「PZF」に見えてそのまま活字を組んでしまったものなのか……。決定稿では三機のジェット機がどこの所属の機かについては触れられていない。F86-Fはこの頃には既に自衛隊に配備されている。当時のTBSの特撮SFテレビドラマ「遊星人M」の第10話でも「現にアメリカでは最新鋭・高性能を誇るスターファイターというジェット戦闘機も、ミサイルすなわち誘導兵器のナイキ、ファルコン、スパローさえも円盤の前には何の効力も発し得なかったといわれています。ましてや我が自衛隊の保持するF86F戦闘機が要撃に向かったとて……」というセリフがある。当時の日本人にはそれなりに馴染みのある名称だったはずだ。

私は腹を括って、このセリフを「只今、F86ジェット三機、間もなく上空に現れます」に改め、印刷所に入稿した。

新書版を発行してしばらく経つと、将来『空飛ぶ円盤恐怖の襲撃』がブルーレイなり劇場公開なりで見られるようになったとき劇中で『ピー ゼット エフ ジェット』と発音されていたら……という想像が私を悩ませるようになった。さらにアメリカ版Wikipediaを調べたところ所沢にあったFEAFに属する一部門として太平洋空軍(Pacific Air Forces)があったということも知った。「PZF」は「PAF」の誤植なのか、それとも実在の軍隊の名称を避けてわざと「PZF」と書いたのだろうか。

私としては一語たりとも軽い気持ちで選んではいない。「幼女戦記」の一節ではないが、その時その時での最善を尽くしているつもりである。誤植と判断した時は、それなりにそう判断できる材料が少しだけ他を上回っていたのだ。JESFTV第2号で「大怪獣ゲボラは撮影されていないのでは」と問題提起した時も、撮影されていたという証言の存在を知らなかったのだ。ただ、私が事実誤認をしたおかげで貴重な証言を教えてもらえることができたのは怪我の功名であったかもしれない(ここで照れ隠しに「怪我の功名ですよと牧に言っていた」などと書くとフザケテイルと叱られるのだろう。つらいつらい)。

この今でも私を煩悶させ続けている爆弾を孕んだ新書版脚本集「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」は、残酷なことに、まだ70冊ほど在庫が残っているのである。
地方の専門書店で委託をお受けいただける方がいらっしゃればぜひともご連絡を乞う次第。戦後初の子供向けSFラジオドラマ「円い影」の在庫も同じくらいあります。
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2020年04月03日

TVミユジカル・ショー エノケンの孫悟空(その4)第三回

放送日:1957.1.20(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ企画第二部
演出:鈴木利泰/フロアマネージャー:吉沢比呂志・政田一喜/テクニカルディレクター:吉本琢也/CCU:成田哲雄/カメラ1:坂本晃、カメラ2:木村忠雄、カメラ3:武谷雅博/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利/照明:吉井澄雄/テレシネ技術:桜井芳裕/美術:出口雄章/美術進行:芦田光長/小道具:高橋俊一/化粧:小松英子/かつら:細野/衣裳:山我幸江
出演:榎本健一(孫悟空)、中村是好(仙人)、武智豊子(婆や)、音羽美子(玉英)、武藤英司(椀丹)

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前回のつづき。仙人の庭で薪を割りながら「お師匠様の留守中に内緒で引き出しの巻き物を読んじまったほうが早いかもしれない……玉英はいまごろどうしているんだろうなぁ」と妄想を膨らませ、妄想の中の玉英とデュエットする悟空。思わず玉英の妄想に抱きつくが、それは玉英ではなく仙人である。「何をするんじゃ、この馬鹿もの!」「あら、お師匠だ」「しょうのないやつじゃ。これ、婆や、婆や。猿彦に薪の割り方でも教えてやれ」仙人が行ってしまうと、婆やは悟空が手に薪割りを持っているのを見て「なんだい、お前さん。たかが薪を割るのにまだ薪割りなんか使ってるのかい」と呆れる。「だって、薪を割るのに薪割りを使って何が悪いんだい! 薪を割らずにトウフを切る時に使えっていうのかい」「何をいってるんだい、だからお前さんは三本足りないんだよ」婆やは「悔しかったらやってごらん、」いって気合い一閃、空手チョップで次々と薪を割ってみせる。驚いて目を見張る悟空、婆やに煽られて自分も空手チョップで薪を割ろうとするが一つも割れない。婆やにまで「修行が足りない」と言われてふてくされる悟空。

そのとき仙人が婆やを呼び、酒が切れそうなので町まで買いに行ってくれないかと頼んだ。婆やが屋敷を出ていくと仙人は悟空に風呂が沸いたか尋ね、丁度良い湯加減だとに聞くと入浴に向かった。これは絶好の機会だと考えた悟空はこっそり仙人の部屋へ忍び込み、引き出しにしまってある妖術の巻き物を盗み読みし始める。そこへひさご(ひょうたんで作った酒を入れる容器)を忘れた婆やが戻ってきた。悟空は慌てて巻き物を後ろ手に隠すと、婆やに親切ごかして「おいらが代わりに町まで酒を買いに行ってやるよ。そのかわりお風呂の方をたのむぜ」とお使いの交替を持ちかけて、まんまと館の外へ出て行ってしまった。

夕方になり再会を果たした玉英に悟空は得意満面で「やっと妖術を身につけることができた」と報告するのだが、姿を消す妖術を使うと上半身しか消えない。騒ぎを聞いて出てきた父の椀丹は、下半身だけのお化けを見て気絶してしまう。元に戻る方法がわからず途方に暮れる悟空。

酒を買いに行ったまま戻らない悟空の様子を魔法の鏡で探していてこの騒ぎを知った仙人は悟空と玉英の前に現われ、悟空を元の姿に戻してみせた。礼は言ったものの、玉英の前で格好をつけたいのか「おいらにゃ、いざという時はお師匠様がついてますからねぇ」と悪びれる様子のない悟空に、仙人は呆れて「何を申すか! わしが術を解いてやらなかったらお前は永久にあのままになってしまうところだ。さ、わしについて参れ!この馬鹿もの!」と叱責する。それでも悟空は「そう何も、ひとのいる前で馬鹿ばかって言わなくてもいいじゃありませんか、全くうるせえジジイだなぁ」と毒づき、玉英には「またあとで来るね」と玉英の手にキスをする。「修行中の身でありながら女性に心を奪われるとは何事じゃ」と見咎める仙人だったが、あらためて玉英を見ると仙人も「なるほど、なかなか……そなたは美しいのう……おうおう、ポチャポチャとした手じゃのう、ウッヘッヘッッ」と言い出し、逆に悟空から「女に心を奪われるとは何事です」と突っ込まれる始末。

悟空と仙人が行ってしまってから、気絶していた椀丹がようやく正気を取り戻した。「玉英、化け物はどうした」「行ってしまいました……」「そうかい、ああ良かった……だがお前、何だってあんな化け物と付き合いがあるんだい。もし、こんな事が竜鳳さんに聞かれたらどうする」どうやら玉英には竜鳳という家柄も資産もある婚約者がいるらしい。また玉英はそのことを受け入れられないでいるようだった。玉英がいたたまれずにその場を立ち去ると、入れ替わりに竜鳳が玉英を訪ねてやってきた。椀丹はお茶でも飲んで待つよう竜鳳を家の中に招き入れる。

そのころ雑木林では悟空が正座させられて仙人から詰問されていた。「お前は化けることを誰に習ったのじゃ」「誰にも習いません」「習わぬ者が半分だって姿を消すことができるか」仕方なく悟空は、師匠が妖術をちっとも教えてくれず薪割りばかりさせるので巻き物をちょっと拝見したので……と打ち明ける。それを聞いた仙人は、不承不承ながら、悟空に妖術を初歩から教えることにした。仙人はその場で瞬時に姿を消し、「ここじゃ、ここじゃ」と言っては右往左往する悟空の頭をポカポカと叩いてみせる。観念した悟空が「わかりました、わかりました」と見えない相手に向かってお辞儀をすると、悟空の真後ろに姿を現した仙人が「わしに尻を向けるとは何事じゃ」とまたポカリ。

庭先で玉英が木にもたれて口ずさんでいると竜鳳が現われた。「竜鳳さん……いついらしたの」「今しがた……お帰りをお待ちしてたんです」うなだれる玉英。「ぼくが来たのがいけなかったのですか」玉英は答えない。「なにかあったんですね、玉英……あなたにそんな哀しい顔をされると僕まで哀しくなる」「ごめんなさい」「僕は今日、あなたとお芝居を見て、食事をして……楽しい一刻をすごしたいと思ってやってきたんです……どうぞ機嫌を直してください」「竜鳳さん……お願い、今日はそっと私一人にしておいてちょうだい……」「玉英……では、せめて、これだけでも受けてくれ」竜鳳が差し出した指輪を見て驚く玉英。「まぁ、何ですの、それ……」「あなたは僕との約束を忘れてしまったのですか」うなだれたまま無言の玉英。

そしてまた幾日かたった。仙人の館の庭で相変わらず薪割りをさせられている悟空がやはり以前と同じように愚痴をこぼしていると、仙人がやってきた。「お前もだいぶ薪割りが上手くなったようじゃから、ボツボツ妖術を教えてやろう」思わず立ち上がる悟空。「今度こそ本当ですか? また頭を殴るんじゃないでしょうね」「大丈夫じゃ。だがその前に、今夜わしの部屋へ来て、わしに気づかれんように巻き物を取って手に入れたならば妖術を教えてやる。どうだ、その自信はあるか」「ええ、ありますとも」「では今夜だぞ」

三日月の下でどこからかフクロウの鳴く声が聞こえている。仙人の館の廊下を忍んであるく足音……悟空である。そっと居間の中を伺うと、仙人が巻き物の前で頑張っている。廊下を戻ってきた悟空が婆やに何かを耳打ちすると、うなずいた婆やは仙人の居間に入って言った。「お師匠様、いま玉英さんという方がみえて、猿彦に会わせてくれっていってますが、会わせてもいいでしょうか」「あ、ならぬならぬ。玉英ならわしが会う。どこへ来てるんじゃ」「おもてに待ってますが」仙人と婆やが居間から出ていくと、入れちがいに悟空が入ってくる。「フン、しめしめ、お師匠様もモーロクしてるから、すぐに引っかかっちまわぁ」悟空は婆やを不二家ゴールドチョコレートで買収していたのだ。騙されたことに気が付いた仙人が居間に戻ってくると悟空が巻き物を片手にドヤ顔をしている。「お師匠様、ありゃおいらの計略ですよ。巻き物はこの通り、頂戴いたしました」「ハッハッハ……そんな事であろうとチャンと替えておいた。猿彦、よく見てみろ。それは巻き物ではない」「えっ……あら、不二家のパイパイビスケットだ」「たべてみろ。なかなか美味いぞ」言われたとおり食べてみる悟空。「なるほど、なかなか美味しいですね」「そんな事では、まだダメ。妖術を教えてやるのは来週」「えー」仙人の言葉に不満を述べつつ、ずっとビスケットを食べている悟空であった。

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【解説】
前番組の「猿飛佐助旅日記」に戻してほしい。

1956年10月9日の「内外タイムス」に掲載された記事から察するに、どうやら「孫悟空」製作開始の裏側にはこんな経緯があったらしい。不二家提供のKRT日曜18時枠「猿飛佐助旅日記」はお子さま向け番組として始まったが、やがて大人の鑑賞にも耐えるストーリーへと変化していった。これがKRTの一部の人間には面白くない。またNTVはこれを子どもは退屈しているはずだと分析し、子供の視聴者を引き抜くべく「冒険王」連載中の人気時代劇「はやぶさ頭巾」をドラマ化して8月から「猿飛佐助旅日記」の真裏へとぶつけてきた。このままでは視聴者を他局に取られてしまうと危惧したKRTの一部の人間は、①不二家枠をゴールデンタイムへ移動させ、②「猿飛佐助旅日記」を終わらせて、③みんな大好きエノケンの十八番「孫悟空」を始める――という奇策に打って出た。ところがぶつけた方が割れるというのはよくある話でNTV「はやぶさ頭巾」は第10話をもって打ち切り。ライバルはいなくなったが動き出した列車は止まらず「猿飛佐助旅日記」は年内いっぱいで終了させられてしまう。「孫悟空」は見どころとなるはずのトリック撮影に失敗が相次いで不評を買い、1957年3月24日の「毎日新聞」によればスタッフが沼津市の日緬寺(※孫悟空を祀ってある)へ加護を頼む始末。3月20日には泣きっ面に蜂で東宝が「専属俳優は舞台公演中のテレビ出演を禁止する」という方針を打ち出し、主役エノケンの出演が危ぶまれる事態となった。これに対し当時のKRT大森編成部長は毎日新聞の取材に答えて番組の打ち切りも考えていると答えている。……それではいったい「猿飛佐助旅日記」はなんのために終わらせられたのか。
長々と脱線してしまったが、ストーリーがさっぱり進まないのでつい筆が滑ってしまった。いろいろな業界の思惑で始められたり終わらされたり引き伸ばさせられたりと翻弄される「作品」が気の毒でならない。

今回の特撮シーンについて判明している範囲で紹介する。悟空が半可通の妖術を使うシーンはワイプを使用した。クロマキーはまだ無い時代だ。
一方、雑木林で仙人が一瞬にして姿を消すシーンには「スライド」という指示がある。カメラ3台の構図を悟空・仙人・二人揃いにそれぞれ割り当て、仙人が消えるシーンのときだけはカメラがオフの間に中村是好が横へハケて仙人の写真を種板にしたスライド映写に切り替えておくという目の錯覚を期待したトリックを駆使したようである。スイッチングが煩雑で心配になるが、上手くいったかどうかは不明。
婆やを不二家ゴールドチョコレートで買収するくだりは青鉛筆で囲まれて鉛筆で薄く斜線が引かれている。指示内容は不明で、後述のパイパイビスケットと商品が被るのでカットされたのではとも考えられるが、話の流れから考えると、フィルムで別撮りしておいて回想シーンのように画面にダブらせるのに使った可能性もある。なお今回はミニチュア特撮はなし。

ミュージカルの本分である唄のシーンは悟空と玉英の妄想(オーバーラップで表現)がデュエットする恋の歌、玉英のソロ(不二家フランスキャラメルのテロップあり)の2か所で歌詞が確認できる。
生CMに相当すると考えられるシーンは、先述のゴールドチョコレート(金貨チョコのことではなく一口サイズのチョコをキャンディ包装したもの。「ゴールドミルクチョコレート」の名で近年まで販売されていたようだ)と、ラストシーンの巻き物あらためパイパイビスケット。これはトブラローネのような黄色い六角柱型の紙パッケージに入ったお菓子で巻き物に見えないこともないが、長さが5センチ足らずの小さなものだったらしい。このままでは巻き物に見間違えようもないので、劇中ではおそらく画面に映り易いよう拡大サイズにした小物を使ったのだろう。……スポンサーのお菓子を仙人が美味い美味いと太鼓判を押し、勧められた悟空も美味い美味いと言って食べながら第三話終了。なんだこれ。

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2020年04月02日

日本で初めて三蔵法師を演じた女優は誰だったのか

前述(「エノケンの孫悟空」その1)で触れたとおり、「8時だョ!全員集合」のプロデューサーとして名を残す居作昌果は著書「8時だョ!全員集合伝説」の中で「エノケンの孫悟空で三蔵法師を演じたのは松竹少女歌劇団の長谷川待子」と誤った記述をしていた(※長谷川が演じたのは観音様であり三蔵法師を演じたのは花柳寛(現:二代目 花柳壽應))。とはいえ松竹歌劇団への言及は先人による重大な示唆であった。歌劇団で西遊記を演じた事があるならば、団員は全て女性なので三蔵も女性が演じていたはずだ。

「レビューと共に半世紀 松竹歌劇団50年のあゆみ」によれば昭和31年1月公演の「第6回 春のおどり」では申年にちなんで「西遊記」が演じられたという。だがこの書籍には勝浦千浪が孫悟空を演じている写真や演目の概要しか記されておらず、それ以外のキャストや役名、特に三蔵法師が登場したのかどうかがわからなかった。京劇の西遊記を見に行くのがほぼ孫悟空の早変わりを見るのが目的も同然であるように、これが申年の主役である孫悟空の活躍を見せて楽しませるために組まれた演目だったとしたら、最初から三蔵法師の登場しない翻案という可能性もないとはいえない。配役を知るためにはパンフレットを見るのが早道だったが長年入手できる機会に恵まれず、松竹作品の膨大な資料を蔵する大谷図書館への訪問もまた開館日がシビアでタイミングが合わず、懸案事項を棚上げしたまま何年もの月日が流れてしまった。

松竹歌劇団・孫悟空/春のおどり.jpg

本日ようやく「第6回 春のおどり」のパンフレットを入手できたため確認してみたところ、確かに三蔵法師役が存在していたのでここに紹介する。
「レビューとともに半世紀」では「第六景 桃李」というキャプションの付いた孫悟空の立ち回り写真しか載っていなかったが、実際には「第四景 牡丹」のCパートから始まり、西遊記の「西梁女人国」エピソードを(東宝映画「白夫人の妖恋」の原作者としても知られる)林房雄が脚色した「第五景 芙蓉」「第六景 桃李」と2幕にわたって続く、唄と踊りとお芝居をたっぷり見せるバラエティだとわかった。
孫悟空を演じるのはOSKから特別参加の二枚目スター勝浦千浪。沙悟浄役は一條敬子(SDK幹部)、猪八戒役は麻耶みずほと五月千晴の交替制(いずれも準幹部)。そして三蔵法師を演じたのは……これもSDK幹部の八坂圭子と江川瀧子の交替制であった。

松竹歌劇団・孫悟空/御案内.png

パンフレットにはお芝居のセリフを英訳したページが設けられており、外国人観客でもストーリーを概ね理解できるよう配慮されている。ここに三蔵法師役として紹介されているのは八坂圭子の名前だけで、おそらく日程の途中から八坂とバトンタッチして登壇すると思われる江川瀧子の記載はなかった。

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朝日新聞縮刷版の演劇欄で当時の寸評を見たところ「全編がカブキ調」「バラエティーショー形式」「もう少しコミカルな面がほしい」などと評されている。公演期間は1月20日から2月29日まで。
公演期間中の1956年2月5日にはNHKラジオ第1放送の15:05~16:00枠でも中継されている。朝日新聞縮刷版のラテ欄では「劇場中継(浅草國際劇場)「春のおどり」川路竜子 勝浦千浪、小月冴子他」と記載されているが、この時間帯に西遊記の部分が含まれていたかどうかまではわからなかった。

というわけで現時点で挙証資料を出せる範囲においては、日本で最初に三蔵法師を演じた女優は「八坂圭子・江川瀧子」の二人であるようだ。
ただし、もしかしたらこれ以前にも――たとえば子供向けのラジオドラマで女性声優が三蔵法師を演じた可能性は、なきにしもあらずである。
posted by 猫山れーめ at 17:12| Comment(0) | エノケンの孫悟空(TV版) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月30日

TVミユジカル・ショー エノケンの孫悟空(その3)第二回

放送日:1957.1.13(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ企画第二部
演出:鈴木利泰/フロアマネージャー:吉沢比呂志、政田一喜/テクニカルディレクター:吉本琢也、カメラ:坂本晃(一カメ)、木村忠雄(二カメ)、武谷雅博(三カメ)、成田哲雄(CCU)/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利/照明:吉井澄雄/テレシネ技術:桜井芳裕/美術:出口雄章/美術進行:芦田光長/小道具:高橋俊一/化粧:小松英子/かつら:細野/衣裳:山我幸江/ミニチュアー:劇団かざぐるま
出演:榎本健一(孫悟空)、音羽美子(玉英)、武藤英司(玉英の父・椀丹)、中村是好(仙人)、武智豊子(婆や)、如月寛多(こわそうな男)、映演プロ(佐藤圭司、鈴木健次郎、村田茂夫、村井正子、土屋清美(村の男女))

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海の上で歌いながら舟を漕いでいるいる悟空。ようやく西牛賀洲に上陸したものの仙人はどこにいるのか分らず、歩きつかれて山門の横にへたり込んでしまった。ちょうどそこへ怖そうな男が通りかかったのを見た悟空はその男に仙人の居所を尋ねてみたが、なんと男は「教えてほしければ猿の生き肝をよこせ」と刀を抜いた。驚いてその場を誤魔化して逃げ出す悟空だったが、男はしつこく追ってくる。柿の木の上に逃げ込んで籠城戦を始めた悟空と、木の下でしつこく粘る男。さながら猿蟹合戦のような騒ぎとなり村人たちが集まってきた。その中の一人、村娘の玉英が男に話を聞くと「エテ公の分際で妖術を習いに来たと生意気なことをぬかしやがるから生き肝を取ってやるつもりだ、猿の生き肝は高く売れるからな」とのこと。悟空を可哀想に思った玉英は男に120パウンドの金を渡して帰らせ、木の上の悟空には生き肝は取らないから安心して降りてくるように呼びかけた。思わぬ美人に助けられ、照れくさそうに礼を言う悟空。玉英から、仙人の住む山西洞はここから百里もあるため今晩は泊っていくよう勧められた悟空は「どうも話がうますぎるな、ひょっとすると夜中に寝首をかかけて生き肝を……」と疑いつつも玉英についていく。

夕暮れになり玉英の家に着いた悟空は「来々亭」という表札を見て玉英の家業は中華ソバ屋かと尋ねるが、これは玉英の苗字だとのこと。玉英は「お父様に話をしてくるから」と悟空を玄関先に待たせて家の中に入っていく。しばらくすると家の中から「バカヤロー!」と怒鳴り声。窓から覗いてみると玉英が父親の椀丹からこっぴどく叱られている。椀丹は「猿の生き肝は百薬の長であることはお前も知っているだろうに、せっかく捕えておきながら、逆に高い金を払って逃がしてやったとはどういうわけだ……」と言って怒っているようだ。どうやら玉英は悟空のことを椀丹に話したところ、椀丹も生き肝を取ると言い出したので慌てて「逃がしてしまった」と取り繕ったようである。事情を察した悟空がその場をそっとその場を後にした。

夜の山道を歩きながら悟空は、猿だと馬鹿にされたり気安く生き肝を取られそうになった事で人間に対し憤りを覚えつつも、玉英の優しさに対しては深く胸に沁みるものを感じていた。星空を見て故郷の水簾洞を思い唄を歌う悟空。

朝の山西洞――ここは遠く峻険なる岩山の上に建つ仙人の館。仙人が鳥かごの鳥に餌を与えていると召使いの婆やがあたふたとやってきて「お師匠様、ただいま妙な者が参りまして、是非ともお師匠様に会わせろと」「わしは留守じゃよ」するといつの間にか勝手に入ってきた悟空が文句をいう。「留守だなんて、ちゃんといるじゃありませんか。居留守つかっちゃ、ちゃっこいよ」「何て図々しいんだろう。シーッ、早く出ておいき、シーッシーッ」「おいら犬じゃねえんだい!」「まァ婆や、お前はさがってよろしい」実は仙人は、悟空が十年前に水簾洞を出た時から、悟空がここへ来るであろうことを知っていたのだ。「妖術の会得には忍耐が必要だが、お前には忍耐がなさそうじゃ……」と渋る仙人を説き伏せ、妖術を習うことを許される悟空。
それから二十年の月日が流れた。仙人の家でろくなものも食べさせられず薪割りをさせられている悟空が「いつになったら妖術を教えてくれるんだろう……」と愚痴をつぶやいていると、どこからか旨そうな匂いがただよってきた。匂いに引き寄せられて仙人の居間に来てみると、仙人がテーブル一ぱいの御馳走を食べている。「お師匠様一人でこんなに召し上がるなんて、ちゃっこいよ」「何がちゃっこい。行儀の悪いやつじゃのう」「行儀なんて言ってられませんや。衣食たって礼節を知るですからね。何しろ食い物のうらみは恐ろしいですよ」「ははは、よし、では今日は一つお前にもこの御馳走をたべさせてやろう。さあ、これをお食べ」仙人から差し出された支那まんじゅうを悟空が手に取ろうとすると、皿の上のまんじゅうが消えてしまう。更に仙人から勧められてうどんの鉢を受け取ろうとすると、うどんも消えてしまう。困惑する悟空に仙人は「ははは、御馳走が食べられんようじゃまだ修行が足らん」と言って薪割りを続けるよう諭す。
仙人の庭で薪をヤケ気味に割りながら悟空は黙々と考えていた。「お師匠様の留守中に内緒で引き出しの巻き物を読んじまったほうが早いかもしれない……そうして妖術が使えるようになったら可愛い玉英にも錦を飾って会えるというもんだ……玉英はいまごろどうしているんだろう……」悟空はなかば陶酔ぎみに玉英を想う唄を歌い、うっとりとして玉英の幻影に抱きつく。「何をするんだい、イヤラシイ!この馬鹿もの!」玉英かと思いきや仙人である。「ありゃ!?お師匠様すいません――」

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【解説】
ミニチュア使用シーンは海上の小舟に乗っている悟空、三日月(スクリーンプロセス指示があるため種板に使うためのものか)と山西洞の遠景、夜空。テロップカードは陸の遠景、西牛殿の遠景、西牛殿の山門。舟の上で悟空が歌うシーンと、玉英家から逃れた悟空が歩く山道はスクリーンプロセス。
御馳走のシーンはあるが中華なので不二家のお菓子はナシ。悟空が水簾洞を想う唄のシーンで「不二家のフランスキャラメル」のテロップをインサートする指示がある。
原作に添って丁寧に描こうとしているせいか、一向に悟空の痛快な活躍シーンとならないのが当時の視聴者をやきもきさせたことであろう。とはいえ猿の身であることから受ける差別や虐待描写をこまめに積み上げていくことで、天上界で暴れたという悟空の心情の掘り下げや、視聴者の共感を呼び込もうという演出意図があるのも理解できる。毎日新聞1956年12月15日の記事によれば前半の悟空誕生のいわれについては呉承恩の原作を忠実に脚色し、三蔵法師に従って旅に出る後半は自由な創作にするプランだったとのこと。この点、開始3話目で三蔵とお供の3匹が揃い、残る23話分を自由な創作に充てた1978年版「西遊記」と比較してみるのも興味深いかと思う。
もちろん本作第1クールも原作にはない創作部分は多い。妖術を習う決心をした動機がタヌキに化かされたからという描写は原作にはないし、今回の西牛賀洲に上陸してから怖そうな男に生き肝を狙われたり玉英に助けられたりする展開もオリジナルである。玉英の父親の名前は配役表では「椀円」と記されており、放送当日の日刊スポーツのラテ欄にも「椀円」と活字が打たれているのだが、台本の本文では「椀丹」となっている。劇中、玉英の表札を見て中華そば屋と勘違いした悟空が「ワンタンとかラーメンとか……」と口走るセリフがあることから、ワンタンのもじりである「椀丹」が正しい役名であろう。
セリフに何度か「ちゃっこい」という表現が出てくるのは茨城などの方言で「冷たい」の意らしい。
posted by 猫山れーめ at 18:35| Comment(0) | エノケンの孫悟空(TV版) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

TVミユジカル・ショー エノケンの孫悟空(その2)第一回

放送日:1957.1.6(日)19:30-20:00
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ企画第二部
演出:鈴木利泰(※その他のスタッフ・配役は不明。前回に準じると思われる)

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五行山に閉じ込められ、岩肌から頭だけを出している悟空。その傍に観世音菩薩が立っている。「悟空、お前が天上界を騒がせた罪がどんなに重い罪であるか、しってるんですか」「だって、おいら決して、そんな事ァ、コレッポッチもした覚えなんかあるもんかい。ねえ観音様、どうか助けて下さい」「では助けてあげよう……だか喜ぶのはまだ早い。私が助けるのではありません」「えッ、じゃ誰が助けてくれるのですか」「それは今に誰かが来て、お前の頭の上のお札をはがしてくれるでしょう。そしたらお前はそこから出られるのです」「その人はいつ来てくれるのです」「五百年たったら来ます」五百年と聞いて落胆する悟空。「観音様、どうしておいらはこんな目にあわなきゃならないんです」「今までの行ないを、よーく、振り返ってみるがよい」そういって姿を消す観世音菩薩。「今までの行ないを振り返ってみろって……えーと……まず、おいらが生まれたのは……」悟空の脳裏に、生地である傲来国の花果山がうかぶ。「……傲来国の花果山で、おいらはその山のてっぺんから生まれたんだ……」

ここは天上界。天帝の御殿をイナヅマのような光が照らしはじめたのを見て、侍従と千里眼が何事だろうと話し合っている。天帝から調査を命じられた千里眼が遠メガネを取り出してあやしい光のほうへ向けると、花果山の頂上に石猿が座ってあたりを見回しているのが見えた。稲光とおもったものはその猿の眼光である。「何の光じゃ」「それが、下界の傲来国は花果山の頂きにおりまする、石猿の目から発している光にございます」「ほう、石猿の目から?」「はい、しかしながら、下界の水をのみ、木の実を食べておりますれば、やがて光は消え失せることと存じますが、猿は猿でもそんじょそこらの猿とは違うようでございます」「あッ、そう」

その頃、滝の見える花果山のふもとでは山猿たちが集まって、おそろしい狩人や外敵から身を守るために安全な場所へと移住するための相談をしていた。この滝壷の下にはかつて何者かが住んでいたことがあるらしいが、本当に住処にできるのかどうかはわからない。そこで、滝壷に飛び込んでそれを確かめ、無事に帰ってきた者は我々の王様にしようという話が持ち上がったが、物怖じして誰も確かめに行こうとしない。そこへ通りかかった悟空が名乗りを上げた。「よし、俺が飛び込んでみらぁ」「何だいお前は。あんまり見慣れない猿だなぁ」「さっきこの山のてっぺんから生まれたばかりの石猿さ」「お前、俺たちとは毛並みが違うな」「おいらだって立派な猿だぜ」「猿は猿でも石猿だろ」「石猿だって猿にゃ違いねえんだ、あんまり馬鹿にするなィ」天涯孤独の歌を歌いながら去っていこうとする悟空を山猿たちは慌てて引き止め、一人ぽっちは可哀想だから仲間にしてやると伝えた。悟空は重ねて、おいらでも滝壷に飛び込んで帰ってきたら王様にしてくれるのか?と尋ねる。「ああ良いとも、なァみんな!」「意義なし!」山猿たちの言質をとると、悟空はいちにのさんで滝の上から飛び込んだ。ザブーン!と滝壷に飛び込んだはずが、なぜか悟空は綺麗な橋の欄干の上にいた。滝の音に混じってどこからか妙なる曲が流れている。訝しみながら橋を渡ると「水簾洞」と書かれた石碑が建っていた。その洞窟の奥へと進むとそこには先住者が使っていたらしき鍋や釜、椅子などの調度品が揃っていた。

滝の外で山猿たちが悟空の死(?)を悼んでいると悟空が平気な顔をして戻ってきた。「おいみんな、おれは素晴らしい住処を見つけたぞ」「滝壷の中か?」「違う違う、あの滝の後ろだ。さぁみんな俺に続いてついて来い、連れてってやるぞ」「あの滝をうまくくぐれるかな」「大丈夫さ、いきおいつけてダイビングすれはへっちゃらよ」こうして山猿たちは滝の後ろに隠された水簾洞に住処を移し、悟空は約束通り王様となった。戴冠式を受けた悟空は猿彦王と名乗り、山猿たちを相手に酒宴を催す。コーラスつきで酒宴の歌を披露する悟空。そこへ、水簾洞の隣に住むウサギの餅月王の使者がお祝いを持ってきた。悟空が箱を開けると、貢物の中身は不二家のケーキである。「こんなものは猿彦大王が召し上がると思うか!」「召し上がれるか召し上がれないか、まず第一、召し上がって下さいませ」とりあえず口に入れてみる悟空。「ウム、これは美味しい。なかなかに美味しいぞ、これ御使者、帰られたら餅月王によろしくお伝えくだされい」

ウサギの使者が帰るのと入れ替わりに、山猿が報告にやってきた。何でも古ダヌキたちが水簾洞の前を何の挨拶もせずに通り過ぎようとしたので捕まえようとしたところ、暴言を吐いて暴れているという。悟空に命じられて山猿たちがタヌキを捕まえに出てくると、水簾洞の入口で中の様子を覗っていたタヌキは悟空に化けて山猿たちをケムに巻いた。「あれっ大王様がここにいるぞ」「おかしいなぁ、大王様は水簾洞の中にいるはずだが……」「何をそこでブツブツ言ってるんだ。狸は水簾洞の中へ入っていったぞ。早く行って召し捕れーっ!」山猿たちが洞窟の奥に行くと悟空がいて、早くタヌキを捕まえて来いという。混乱する山猿たちを見て、任せておけないと思った悟空は自らタヌキ退治に水簾洞の入口へと向かう。「やい古狸、猿彦大王じきじきに召し捕りにまいった」その途端、腹鼓が鳴り響いたかと思うと、悟空の目の前をグルグルと渦巻き模様が舞った。「あッ」ススキの原っぱでタヌキに化かされた悟空がひとりで大立ち回りを演じ、その挙句にのびてしまう。
悟空の帰りが遅いので山猿たちが様子を見に来ると悟空がのびている。「これは大王様じゃない、きっと古狸だ」と早合点した山猿たちは、さらに悟空を袋叩きにする。それを岩の上で飄々と眺めて笑っているタヌキ。

それからしばらく経った水簾洞の玉座。悟空がタヌキから完膚なきまでに化かされたことで落ち込んでいると、山猿が「大王さまも呪術を習ってみてはどうか」と提案してきた。山猿の話によるとここから海を隔てて十年もかかる西牛賀洲という所に呪術を心得た仙人がいるらしいという。呪術を習う決心をした悟空は山猿たちに後を任せ、「水簾洞も今宵限り……可愛い子分の手前たちとも別れ別れになる門出だ」と、浪曲国定忠治よろしく別れを告げて旅立つ。舟に乗って大海へ漕ぎ出した悟空の一部始終を、天上界の千里眼は遠メガネでつぶさに見ていたのだった。

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【解説】
花果山・山頂の石猿・滝・船の上の石猿でミニチュア使用の指示。またタヌキに化かされるシーンでは渦巻き模様をダブらせる指示あり。タヌキが悟空に化けるシチュエーションではあるが合成で2人の悟空が鉢合わせ、というトリックはまだ実現していない。生放送なので水簾洞の入口と玉座の間をエノケンが行ったり来たりするしかなかったようだ。
今回、不二家のケーキはパーティーの贈り物という形で物語の流れの中に割り込ませているが、ここはおそらく本放送だと画面下にスーパーインポーズで「不二家の洋菓子」とでも広告を流したのだろう。エノケンの歌は2曲、そのうち天涯孤独の歌は台本上は空欄で印刷され、鉛筆の手書きで書き込まれていた。ドライリハーサルの時にエノケンと打ち合わせて決めたのかもしれない。
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2020年03月27日

TVミユジカル・ショー エノケンの孫悟空(その1)プロローグ

放送日:1956.12.30(日)17:15-17:45
作・構成:井崎博之、岡田教和/音楽:若山浩一/企画:電通ラジオ・テレビ企画第二部
演出:鈴木利泰/AD:吉沢比呂志、政田一喜/美術:出口雄章
技術班・TD:吉本琢也、カメラ:木村忠雄、成田哲雄、坂本晃、武谷雅博/オーディオ:吉田昭之助、須賀良浩/効果:金川勝利
出演:榎本健一(孫悟空)、恩田清二朗(お釈迦様)、十朱久雄(天帝)、木田三千雄(侍従)、江戸屋猫八(千里眼)、丘寵児(章聖真君)、天城竜太郎(哪吒太子)、長谷川待子(観世音菩薩)、増田淑子(花摘む娘)、映演プロ(川上正夫、滝雅雄、横田年正、岸本清、山口勝美、柵田貴代男(天兵1~6)、増田淑子、宍倉榴美、水野禾子、鉤富美子、柳本隆子、野崎紀子(侍女1~6))/殺陣:桜井美智夫

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なにやら悟空が大勢の天兵に囲まれ、如意棒を振り回して大あばれしている。見得を切った悟空が頭の毛を抜き、テレビ画面に向かってフッと吹くと番組タイトルが現われ、テーマソングが始まる――。

ところかわって天上界。天帝がのどかに過ごしていると千里眼が慌ただしく駆け込んできて天帝に報告した。「天上界の侍大将達は誰一人悟空を取り押さえられず敗北しました」天帝の傍でそれを聞いた哪吒太子は自ら孫悟空の討伐を買って出る。天帝は安堵しつつも「あの悟空が何だってこうも暴れ出したのだろう……」と表情を曇らせた。

哪吒太子は天平を連れて悟空の根城である水簾洞へやってきたが、応対に出てきた悟空を見下して「石猿」呼ばわりしたことで悟空の怒りを買い、天兵ともども蹴散らされてしまう。千里眼は休む間もなく雷大将を差し向けるが悟空はこれも一蹴(天界での千里眼の実況で描写されるため雷大将の配役ナシ)。天帝から「もう誰も残っておらぬか」と尋ねられた侍従は章聖真君を遣わせることにした。

次から次へと現われる捕り手の相手にいいかげんくたびれてきた悟空は、章聖真君が水簾洞にやってきたのを見て「逃げるが勝ち」と觔斗雲で逃げ出す。どうやら悟空は何者かに化けて天上界の天帝の城に潜り込んだらしい。どうやって探し出すのかと尋ねる侍従や千里眼に章聖真君は、この場にいる5人の侍女の誰かが悟空ではないかと言い出す。口々に否定して騒ぐ侍女に「猿は欲張りだから物を食べさせると頬袋にしまいこむ習性があるからすぐわかる」と、そこにあった「不二家のショートケーキ」を持ってきて食べさせようとした。ところが今まさに食べられようとしたショートケーキが悟空へと姿を変えた。逃げていく悟空を追おうとする章聖真君だったが、天帝はこれを引き止め、かくなる上は雷音寺のお釈迦様にお願いするしかないといって侍従を名代に遣わせた。

雷音寺の宝蓮台で侍従から悟空の乱暴狼藉を訴えられた釈迦如来は「悟空は淋しいやつなのじゃ。根は至っていいやつなのじゃが」と庇いつつも、乱暴を働くことは許されぬと天帝への助力を引き受けた。

天上界の花園を歌いながら散歩していた悟空は、侍女が花を摘んでいる所へ出くわす。悟空が話しかけると、彼を乱暴者と聞き及んでいる侍女は恐怖に震え「どうか乱暴しないで……」と必死に懇願する。驚いた悟空は「おいら、お前さんには何のうらみもないんだから何もしやしねえよ。それより、おいらも花が摘みたいんだ」となだめる。実際に出会った悟空が噂とは違ってやさしいことに侍女はとまどいながらも安堵していた。
そこへ割って入るように、お釈迦様の声が響き渡ってきた。「これ悟空!お前はだいぶん腕に自信があるようだが、わしと腕比べをしようじゃないか。もしお前が勝ったら、お前を天帝にしてやろう」「本当ですかい?おいら人がいいからいつでも騙されて損ばかりしてるんだ」「わしは嘘など言うものか」「でも『嘘も方便』ってお釈迦様が言ったんでしょ?」「それは時と場合によるのじゃ」こうして悟空はお釈迦様の右手のひらから飛び出すことができるかという賭けに乗ることになった。もしできなければ、また下界に戻って修行してもらうという――。
さっそく悟空が頭の毛を抜いて觔斗雲に変え、ジェット機のように飛ばしていくつもの雲と山を越えていくと、やがて行く手を阻む奇妙な岩山が見えてきた。「ははぁ、あれが空の果てなんだな。一番高いのがきっとマナスルだ」そうして岩山こと五行山の山頂に降り立った悟空は証拠として岩肌に『斉天大聖孫悟空此処へ来る』と書き、元来た道へと踵を返した。カメラがバックしていくと、五行山は岩山と思いきや、手の形をしている。

悟空は天上界の花園へ戻ってくるなりお釈迦様から「これ悟空、下界で修行してまいれ」と言い渡される。「あれっ、嘘はいいっこ無しっていったじゃないか。俺は空の果てまで行ってきたんだぜ。チャンと証拠まで残してきたんだ」「その証拠とはこれであろう」お釈迦様が右手のひらを広げると『斉天大聖孫悟空此処へ来る』と書いてある。驚いた悟空がもう一度行ってくると言うが、そのときお釈迦様の大きな手が悟空を包むと大音響とともに山崩れが悟空を埋めていき、やがて五行山が出来上がった。悟空が岩の隙間から頭を出しているそばの岩場にお釈迦様が『オムマニパビウン』と書いた札を貼ると、悟空がどんなに力を入れても岩場から抜け出すことができなくなった。
しばらくすると悟空のそばに観音様が姿を現した。助けてほしいと哀願する悟空に観音様は、天上界を騒がせた悟空の罪は重いため今すぐに助けてやるわけにはいかない、五百年たったら助けてあげよう――と伝えて消えてしまう。途方にくれ、水簾洞に帰りたいと願う悟空だった。

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【解説】
「エノケンの孫悟空」は1957年1月6日放送の「第一回」から始まる『1月の新番組』であり、年末の夕方に放送された「プロローグ」は話数に含めないとするものが多い。だがあらすじを紹介したとおり「プロローグ」もまたドラマであり、前夜祭のような内容ではなかったことがわかる。続く放送第2回「第一回」では、冒頭で「俺は悪い事なんかしていない」と愚痴をこぼす悟空に対して観音様が「今まで自分が何をしてきたか思いだしてみなさい」と諭し、悟空が「ええと、おいらが生まれたのは……」と自身の生い立ちの回想を始める……というもの。驚くなかれ、ここから1クールたっぷり悟空の回想シーンとなるのだ。岩山に閉じ込められる「プロローグ」のラストシーンへ回想が追いつき、やってきた三蔵法師に助けられるまで、視聴者はあと3ヵ月も待たされることになる。

オープニングは天兵との立ち回りからタイトルが出るところまでが16mmフィルム30秒で、続くキャスト表示は文字テロップのみ(第11回のキューシートによれば1分40秒)。
飛行する觔斗雲の遠景や五行山はミニチュア、觔斗雲から半身を乗り出している悟空のアップはスクリーンプロセスで撮られている。ショートケーキから元に戻った悟空と、岩山に閉じ込められた悟空の前に姿を現わす観音菩薩は二重写し。悟空が岩山に閉じ込められるシーンはあらかじめ山を爆発で崩す様子を16mmフィルム1分50秒撮っておき、逆再生させることで瓦礫が摘み上がって山が生まれる様子を表現した。

後に「8時だョ!全員集合」のプロデューサー等を務めた居作昌果は著書「8時だョ!全員集合伝説」の中で「エノケンの孫悟空」担当時を回想した際、三蔵法師役は松竹少女歌劇団の長谷川待子だったと記しているが、前述のとおり長谷川が演じたのは観音様で(代打で小野敦子が観音様を演じたこともある)、2クール目でようやく登場する三蔵法師を演じたのは花柳寛(現:二代目 花柳壽應)である。ちなみに猪八戒は由利徹、沙悟浄は八波むと志。
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2020年02月25日

「空飛ぶ円盤」という訳語はいつできたのか

かつて東北電力が発行していた情報誌「白い国の詩」2003年12月号に北村小松に関する記事があるというので国会図書館から複写を取り寄せてみた。筆者は米田省三氏という日本近代文学会会員の方だが、我々が今日でも目にする九割方の解説(Wikipediaを含む)と同様に戦前の業績にしかスポットを当てていない――要は戦後の19年間がほぼ空白のものだった。それよりも気になったのが「北村小松は『空飛ぶ円盤』という言葉の名付け親である」という事実誤認を書いてある点である。北村氏が円盤の事を知ったのはマンテル事件以降で、その頃には既に日本でも「空飛ぶ円盤」という単語が話題の新語として浸透済みだった(宇宙人の乗り物としてではなく、科学時代の人魂、不知火、狐火というべき不思議現象として)。どちらかというと、欧米で使われている「UFO」という略称を最初に日本へ紹介したのが北村氏であろうから、推すならその点を推すべきだろう。
ところが誰が言い出したのかはわからないが、北村氏が「空飛ぶ円盤」の名付け親のように語られることがしばしばある。青森県近代文学館の発行したパンフレットでは北村氏の御令嬢様より寄せられた寄稿にもこのくだりが出てくる。記憶違いか、ずっと後になって誰かから吹きこまれたのを信じ込んだに相違ない。

では実際に日本で誰がいつ Flying Saucer を「飛行皿」でなく「空飛ぶ円盤」と訳したのかというと、名だたるUFO研究家の間でもはっきりと起源を断定できないらしい。とあるUFO研究の大家からは「この言葉は戦前にはもうあったらしい」という示唆が与えられたそうだが、ソースまでは出てこなかったようだ。
全ての「空飛ぶ円盤」のはじまりであるケネス・アーノルド事件の起きた1947年6月24日から12日後の7月6日、アメリカでのUFO騒動がようやく日本のマスコミでも報じられた。もうこの時点ではUFOはアーノルド一人のものではなく全米を挙げて見たの見ないの大騒ぎになっていたため、ケネス・アーノルド事件を指して報じる記事ではないが、記事の見出しが説明もなくいきなり「空飛ぶ圓盤」! これが日本での初報道である。画像はたまたま取り寄せた九州タイムズの複写記事だが、元はAP通信による外電記事なので東京タイムズの同日にも同じ記事があるそうだ。

空飛ぶ圓盤
【ニューヨーク四日発AP=共同】今週來アメリカ各地で輝いた円盤樣の物体が空高く物すごい早さで飛んで行くのを見たという報道がひんぴんと傳わりアメリカ國民に疑惑を抱かせている、最近では定期空路の乘組員達がこの「飛び行くコーヒー皿」を見たといゝ、またこれを寫眞にとつたという沿岸警備隊員も現れて、いよいよ好奇心をそゝつている
 ワシントンの海軍監督所では「これは天文学的な現象ではないと思う」と語つており、陸軍当局では三日以來事件の眞相調査を開始した、一部ではこれは「飛び行くパン・ケーキ」という海軍の新型機ではないかとの説もあるが海軍側では同機はまだハートフォードに一機あるだけだからそんなはずはないと否定している


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翌月の雑誌でもちらほらと空飛ぶ円盤の話題が取り上げられるようになっていたが、時事通信社の「WORLD NEWS 時事英語通信」にコラム「略語と新語」を連載していた三輪武久は同誌1947年8月15日号で「Flying Saucers」を近頃話題の言葉として取り上げ、その文中で「Flying Saucers」を「空飛ぶコーヒー皿」、「flying discs」を「空飛ぶ圓盤」として2つの表現があることを紹介している。
また「旬刊ニュース」29号(1947年8月)の特集「どれが本物か?『空飛ぶ円盤』集」でも同様に「空飛ぶ圓盤(flying disc)」と「空飛ぶ皿(flying saucer)」の二語があることを紹介している。どちらもリアルタイムのアメリカの動静を伝えようとする記事であり、現地アメリカに2つの名称が存在することに戸惑いつつも、念のため両方を紹介しているのはジャーナリストとして非常に真摯な姿勢だといえる。

そこでいまいちど夕刊各紙に立ち返ってみると「新潟日報」1947年7月14日号、7月15日号「九州タイムズ」1947年7月23日号、8月3日号、これらすべて「空飛ぶ圓盤」で統一されており「空飛ぶ皿」の表記は無い。どうやらAP通信からのソースが「Flying Disc」で統一されており、各社の日本語訳も原文に忠実に従ったにすぎないようだ。時々失念してしまいがちだが、この時点ではまだGHQが日本のメディアに対し検閲を行なっている。原文が「Flying Saucer」となっているものをリスクを冒して「空飛ぶ円盤」に意訳するとは考え難い。

では「Flying Saucer」の出どころは何かというと、これも同じくケネス・アーノルド事件を報じる新聞記事だ。英語版Wikipedia「Kenneth Arnold UFO sighting」の頁には世界で初めて空飛ぶ円盤の目撃事件を報じたと見なされているシカゴ・サン紙1947年6月26日号の画像が掲載されており、その見出しは「Supersonic Flying Saucers Sighted by Idaho Pilot」となっている。アーノルドが説明した「水面を皿が跳ねるような飛び方」が曲解された結果生まれた単語であることは今や誰もが知るところだ。

ところがその後に続く報道各社の表記が「flying disc」派と「flying saucer」派で真っ二つに分かれていく。
UFO関係の資料を集めた海外のサイト「ROSWELL PROOF」には当時の円盤関係の報道が端的にまとめられており、先述のシカゴ・サン紙に続くUFO関連記事が「saucer」派か「disc」派かを抽出してみたところ、いずれもせめぎ合っていて2週間弱ではどちらか一方に収束しそうな兆しは見られなかった。当初はUP通信に「saucer」、AP通信に「disc」が多かったようだが、日数が経つと読者の理解を促すためか「saucer」と「disc」を併記する記事がちらほら現れるのも興味深い。

・6/27 ロディ・ニュースセンティネル紙「Flying Saucer」(UP通信からの配信)
・6/27 ユージン・レジスターガード紙「Flying Discs
・6/27 スポケーン・デイリークロニクル紙「Flying Piepans」(空飛ぶパイ皿)
・7/1 ピッツバーグ・ポストガゼット紙「Flying Saucers」(UP通信からの配信)
・7/1 フォートワース・スターテレグラム紙「Flying Discs
・7/1 ロズウェル・モーニングディスパッチ紙「Flying Disks」(※diskはアメリカ英語でのdisc)
・7/1 オースティン・アメリカン紙「Flying Disks」(AP通信からの配信)
・7/2 フォートワース・スターテレグラム紙「Flying Discs
・7/2 エルパソ・タイムズ紙「Flying Disc」(AP通信からの配信)
・7/3 リッチランド・ビレッジャー紙「Flying Disks
・7/3 ピッツバーグ・ポストガゼット紙「flying saucers
・7/4 モントリオール・ガジェット紙「flying saucers
・7/4 ツインフォールズ・タイムズニュース紙「Saucers
・7/5 ビリングス・ガゼット紙「Flying Saucers」 (※Mysterious Discs とも併記)
・7/5 ワシントンポスト紙「flying saucers」と「flying discs」の併用(UP通信からの配信)
・7/5 アビリーン・レポーターニュース紙「flying saucers
・7/6 ポートランド・オレゴニアン紙「flying discs」(INS通信からの配信)
・7/6 デンバー・ポスト紙「flying disc
・7/6 デンバー・ロッキーマウンテンニュース紙「Flying Discs
・7/6 ローガンズポート・プレス紙「Flying Saucers
・7/7 ウィニペグ・フリープレス紙「Flying Discus」と「flying saucers」の併用
・7/7 ガストニア・ガゼット紙「Flying Saucer
・7/7 ルイストン・デイリーサン紙「Flying Saucers
・7/7 メアリーズビル・イブニングトリビューン紙「SAUCERS」と「Flying Discs」の併用
・7/7 ビデット・メッセンジャー紙「celestial saucers(天の皿)」と「flying discs」の併用
・7/7 メルボルン・ジ・エイジ紙「Flying Saucers」(豪AAP通信からの配信)
・7/7 エリリア・クロニクルテレグラム紙「flying saucers
・7/7 ロチェスター・ニュースセンチネル紙「Sky Discs(空の円盤)」
・7/7 シカゴ・デイリータイムス紙「Flying discs」を見出しに、本文に「flying saucers」を使用
・7/7 ソルトレイクシティ・デザートニュー紙「Discs」を見出しに、本文に「flying saucers」を使用
・7/7 オックスナード・プレスクーリエ紙「flying "saucers"
・7/7 サンマテオ・タイムズ紙「Flying Discs」(AP通信からの配信)(※本文は"flying saucers"
・7/8 シカゴ・サン紙「flying disks
・7/8 ワシントンポスト紙「Flying Saucers
・7/8 ステーツビル・デイリーレコード紙「Flying Saucers」(UP通信からの配信)
……
※情報ソース:http://www.roswellproof.com/

結局のところ日本へは最初に「Flying Disc」を用いていたAP通信社の外電が入ってきたのでこれを直訳した「空飛ぶ円盤」が定着し、欧米では「Flying Saucer」と「Flying Disc」が拮抗していたものの何らかの理由で「Flying Saucer」へ収束していった……というのが無難な落としどころだろう。

もちろん、1934年のネメス・パラソルや1944年のザックAS-6といった円盤翼飛行機がケネス・アーノルド事件以前の日本で記事になり、その際に「空飛ぶ圓盤」という表現が使われた可能性も考えられないことはない。だが、その記事が日本中あまねく広まって「空飛ぶ円盤」という単語を日本人の常識レベルに浸透させたか、といえばいささか疑問である。

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下記のトゥゲッターにまとめられたツイート群「日本での「空飛ぶ円盤」という言葉の登場について」に参加したのがもう8年も前なのか。
https://togetter.com/li/295097
あの時は引っ掻き回すだけ回して混乱させてしまった。8年たって得た結論は「日本へ最初に円盤の記事を配信したAP通信が Flying Disc 派だったから」というのではさすがのチコちゃんも大激怒の超展開だと思う。
posted by 猫山れーめ at 22:12| Comment(0) | 空飛ぶ円盤(用語) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月04日

宇宙パトロール~宇宙船オリオン号の素晴らしき冒険~(その7)

第七話「侵略(Invasion)」1966年12月10日(土)20:15~21:15放送 視聴率39%
監督:Michael Braun、脚本:Rolf Honold, W. G. Larsen (※5人の共同ペンネーム)

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ある日ワムスラーは自分のオフィスにマクレーンを呼びつけて、干されてパトロール任務に甘んじているべき立場のマクレーンが結局はいつもパトロール活動の枠に収まらない大事件に関わっていることに苦言を呈していた。これ以上何もするなというのなら自分はもう辞めるしかないと口を尖らせるマクレーンにワムスラーは、あと半年我慢すれば謹慎が解けるんだ、そんな大立ち回りは宇宙軍に復帰してから好きなようにすればいいじゃないか、と終始苦り顔。
そこへ副官のスプリングブラウナー伝令将校が飛び込んできて、シークレットサービスの巡洋艦タウから遭難信号が入ったとワムスラーに報告してきた。通信音声を執務室のスピーカーに切り替えると、タウ号のリンドリー指揮官と冥王星軌道の宇宙ステーション0/3との交信が響いて来た。タウ号は太陽嵐に巻き込まれてコントロール不能に陥っているという。それを耳にしたワムスラーが驚く。「なんてことだ!タウ号に誰が乗っているか知ってるか?ヴィラ大佐と彼の部下たちだぞ」
タウ号の船内ではリンドリーが必死で宇宙ステーションに呼びかけていた。「状況は絶望的!こんなに強力な太陽嵐は見たことがない。エネルギー供給が全て止まってしまい脱出できない」横からヴィラ大佐がリンドリーに言う。「これは太陽嵐じゃないぞ、リンドリー。重力波に揺さぶられてるんだ!」シャトルでの総員脱出を決断したリンドリーだったが、ヴィラはこれが重力波であることを報告しないうちは脱出できない、ことによるとこれはエイリアンの攻撃かもしれないといって拒否する。「あなたは神経質だ」と言うリンドリーを尻目に、ヴィラは光波通信で宇宙軍と宇宙パトロールを呼び出した。「タウ号は反重力場に閉じ込められている。これは通常の太陽嵐ではなく振動する重力場だ。少し前にマクレーンが陥った状況に似ている。地球外生命体の可能性がある。シャトルへの移乗を余儀なくされた。エネルギーも枯渇している。これから小惑星ゴードンの宇宙基地にシャトルで向かう。可能性は最小限だが……」これを最後にタウ号からの通信は切れてしまった。
呆然と聴いていたスプリングブラウナーにワムスラーは「なぜまだここにいる?惑星ゴードンの基地に連絡するんだ!何が起こっているのか知る必要がある」と命じる。「ゴードン基地はまだ気づいていません」「ナンセンス!ゴードン基地は重力場のハリケーンに気付いているはずだ。もう一度連絡してみろ!それから宇宙軍につなげ!緊急会議と調査を求める」スプリングブラウナーがすっ飛んで行くとマクレーンがワムスラーに尋ねた。「将軍、ヴィラ大佐はそこで何をしていたんですか?シークレットサービスの責任者はデスクにふんぞり返ってるのが任務でしょう」「時と場合によるんだ」「では彼らは何を?」「わしも知らん……ヴィラは絶対の確信を持った時にしか手の内を見せんのだ。だから私は今から最高指揮官のところへ行ってくる。君は君の任務を遂行したまえ……ちょっと待った。ヴィラはさっき君のことを言ってなかったか?」「はい、私もMZ4基地(※第一話参照)で振動重力場に出くわしましたので」「じゃあ出発は延期だ。委員会は君の専門知識を必要とするかもしれん」

所変わってスターライトカジノ。ここでは今日もまた数人の男女が固まって風変わりな社交ダンスに興じている。そこへマクレーンがタマラと話しながら歩いてきた。「……でもあなたはシークレットサービスが嫌いなんじゃなかった?」「例外をひとり除いてね」そこは軽く受け流すタマラ。「ヴィラは人間としても上司としても素晴らしい人よ。まだ信じられないわ」「ああ、彼は大抵の人よりはずっと賢い。いちいち名前は挙げないがね。みんなが戦争したがってる時、私がクロマへ飛ぶことを彼が認めてくれたのには感謝してもしきれないよ。冷たいインテリのように見えても彼こそ本当の理想主義者であり宇宙全体の平和主義者さ。彼の後任がその反対にならないことを願うね」「……私に探りを入れたいのなら諦めることね、マクレーン。あれは誰にも知らされていないほどの秘密なの」そこへ宇宙パトロールの女性伝令が任務を知らせにやってきた。命令書を一読して驚くマクレーン。「ええと、貴官はこれより……おい、ヴィラは生きてるぞ」「えっ?」「うん、彼とその部下たちはシャトルでゴードンに着いたらしい。……犠牲になったのはリンドリー艦長と乗組員だけだそうだ」「しかし、どうやって……」嬉しいながらも困惑を隠せないタマラ。「ヴィラはゼファー号に乗っている。3日後にここへ着くそうだ」命令書を最後まで読むと、今度はマクレーンが困惑した。「その宇宙軍の会議に私が召集されてる」

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後日、宇宙軍の会議にて。アーサー卿がヴィラの帰還をねぎらっている。ヴィラがすまし顔で「あの太陽嵐の中をどうやってゴードン基地に辿りついたものか、自分でも説明がつかないよ」と答えるのを聞き、ハッとして聞き返すワムスラー。その横にはマクレーンも同席している。「……太陽嵐と言ったか?」「ああ、太陽嵐だ」これにはアーサー卿も引っかかったらしく「しかし、タウ号からの最後の通信で君は何と言ったかな……もう一度頼む」とワムスラーに振る。「重力場の振動です。あなたはそれが地球外生命体の仕業かもしれないと言っていた」「ええ、覚えています。否定はしません。しかし正直なところ、私は言葉がコントロールできなくなっていたのです」すぐにヴィラの横に座っていた精神科医のハイネ博士が口を挟む。「ヴィラ大佐が重度のショックを受けていたことに疑う余地はありません」アーサー卿はなだめるように言う。「質問責めになるのは許してほしい。だが君のタウ号からの最後のメッセージを聞いて私たちはとても心配したんだ」ヴィラは顔色を変えないでにこやかに話し始めた。「みなさん、通信ではあのように言いましたが、あれは間違いなく地球外生命体のしわざなどではありません。大災害が私に見せた幻だったというわけです。その点をお詫びします」ワムスラーはまだ納得のいかない顔をしている。「謝る必要はありません。誰もがマクレーンのようにクールでいられるわけじゃないですからね」アーサー卿たち参謀がクククと笑うのを割って入るようにハイネ博士が再び発言する。「ヴィラ大佐のような多才な脳は、簡単に言えば、興奮した瞬間に幻を見たり、それが強迫観念にまで発展するのかもしれません」マクレーンがハイネ博士に尋ねる。「つまりあなたは私の脳は原始的だと考えているわけですね?」「いえ、そうではありません」立ち上って興奮ぎみに話すハイネ博士をヴィラ大佐が制するが、構わずマクレーンが続ける。「質問していいですか?私の意見としては、最初の説明には何の問題もありません。放電や、推進力がブロックされたこと。私もMZ4で遭遇しました。そしてもし私が閉じ込めたなら……!」「それで、君は何を尋ねたいのかね?」「なぜそれが太陽嵐だけだと確信したのですか?」「ゴードン基地では通常の太陽嵐のみ記録していることは知っているね」「その通常の太陽嵐は人工重力場の結果である可能性があります」「リンドリー指揮官はただの太陽嵐だと言っていた」「リンドリー指揮官と彼の乗組員は行方不明です。証拠がない」「私がリンドリー指揮官の言葉を誤って伝えているとでも言いたいのかね?」「私はただ……」「マクレーン!もう十分だ」ワムスラーに制されたマクレーンは今度はワムスラーに「矛盾を指摘できないのなら、私はなぜここにいるんですか!?」と食ってかかる。それを今度はアーサー卿が「これらの食い違いは、ヴィラ大佐がこうむった精神的なショックのせいだということで説明できるよ」と制し、ヴィラ大佐の機嫌をとるように「驚いたね、もし私が君の立場だったら、きっと異星人の怪物に取り乱していたことだろうよ」と話しかけた。マクレーンはヴィラ大佐へ別の質問をぶつけてみる。「タウ号に乗った目的について尋ねてもいいですか?」「まもなく機密報告書で宇宙軍にお知らせします」「ひどい秘密主義だ」「宇宙船の指揮官に秘密情報を明かす義務はないのでね」ヴィラ大佐が横のハイネ博士に目で合図をするとハイネ博士は心得た体で「ヴィラ大佐にもう質問しないでください」とその場の全員に伝えた。マクレーンが「しかし、何かがおかしい」と異議を唱える。アーサー卿がたしなめるのを重ねて「ミッションの目的からつながりを探すのは間違っていますか?」と言うマクレーンにヴィラ大佐は「私と私の側近以外、誰も目的を知らないのです。特にフロッグスはね……超能力でもない限り」そこでアーサー卿は議論の終了を宣言した。これ以上の質問はなし、マクレーンも例外じゃないぞと釘を刺すアーサー卿。散会するとマクレーンはワムスラーに調査委員会を動かすよう進言するが拒否され、ワムスラーから明日また通常のパトロール任務に就くよう指示される。マクレーンはパトロールの代わりに惑星ゴードンへ行って何が起きているか見てきたいとワムスラーに申し出るが、これも一蹴されてしまった。


翌日、パトロール出発50分前のマクレーンたちオリオン号メンバーがスターライト・カジノで待機していると、タマラがやってきて「ヴィラの命令で今日のミッションはキャンセルになりました。代わりにシークレットサービスがこの任務を引き継ぎます」と伝えた。マリオたちは思わぬ臨時休暇に気分を良くして、シークレットサービスの気が変わらぬうちにと遊びに行ってしまう。マリオたちを見送ったマクレーンはタマラからシークレットサービスの出発日程を聞き出そうとする。オリオン号は今回、ベスタ管区のレーダー衛星をチェックする任務を受けていたが、これは惑星ゴードンのそばにある。きっと何かがそこで起こっており、ヴィラはそれを秘密にしているのだと訴えるマクレーンだが、タマラは疑い過ぎだといって取り合わない。「君も少しは疑いを抱いていてほしいんだがね」「じゃあ、ヴィラはどうしてそれを隠す必要があるの?何を隠してるというの?」そこへちょうど、マクレーンの同僚でマリガン大佐が泥酔して割り込んで来る。マクレーンからタマラを紹介されたマリガンは、タマラがシークレットサービスだと知ると悪態をついた。「きみ、失礼だぞ。彼女が何か間違ったことをしたか?」「いいや、だが彼女の仲間に文句があるのさ。俺が理由もなく酔っ払ってると思うか? 俺は10年間ずっと発進基地での監視任務に努めてきた。苦労の甲斐あって3年前そこの主任になれたんだ」「それで?」「クビになったよ、何の理由もなくね!」ふらふらと立ち去ろうとするマリガンにマクレーンが問いかける。「いつ?誰がそんなことを?」「2時間前に言い渡されたよ。シークレットサービスのセキュリティ部門からだ。シークレットサービスが直ちに基地の監視を引き継ぐんだと……俺がどれほど怒っているか口じゃ言い表せないね」マリガンが行ってしまうと、マクレーンはあらためてタマラにヴィラの異変を訴えた。「まだ僕が疑いすぎだと思うかい?ゴードン基地から帰ってきてから、ヴィラは何かがおかしい」「怪談はもう結構よ」「これは怪談じゃない、事実だ。彼はゴードン基地で起こった事を軽視し、宇宙監視を引き継いで艦隊基地を掌握してる。彼の次のステップは何だろう」「何か計画に基づいて行動してるみたいね……何だと思う?」「馬鹿げた話じゃないとしたら……クーデターの準備だね」
歩きながらタマラと話すマクレーン。「彼を完全に寝返らせるような何かがゴードン基地で起きたに違いない。彼は3年前にマリガンの仕事ぶりを高く評価していたにも関わらず、突然地上管制の仕事を取り上げてしまった。僕自身、ワムスラーのオフィスでそれを聞いていたんだ」話を遮るようにタマラが口を挟む。「今夜の話はそれだけ?」「……申し訳ない。何か飲むかい?」「結構です」熱弁のあまり本題からだいぶ逸れてしまったと気づいたマクレーンは、あらためてヴィラたちの航行日程を尋ねるが、タマラは知らないと答える。「じゃ、その時君は何をしてるんだい?新しい仕事でも?」「何も。……これはイエスという意味になるわね」怪訝な面持ちのマクレーンにタマラが続けて言う。「私は、マクレーン指揮官の義務違反、サービス規則違反、軍事的違法行為を防ぐためにオリオン号に派遣されてきました」「ベビーシッターとしてね……しかし、素晴らしいベビーシッターさ」「厳しすぎたかしら?」「……手伝ってもらえないかい?明日にでもヴィラと話がしたいんだ」「……どうして?」「僕がゴードン基地へ行けるよう特別許可を頼んでみるだけさ。彼が認めてくれれば、僕の考えは間違っていたことになる。しかし、そうでなければ……」「それは何の証明になるの?」「……タマラ、僕はいままで一度も主張したことはなかったけど、勘が働くんだ。今はそれ以上言えないよ」「わかったわ、それであなたが今晩ぐっすり寝られるのなら。明日、時間があるかどうかヴィラに聞いてみます」「ありがとう。それから、シークレットサービスの本部にいるとき、お願いがあるんだけど」「何かしら?」「探してほしいんだ。たぶんヴィラが惑星ゴードンの近くで任務を遂行していた理由がわかる……文書があるはずなんだ」タマラが目を丸くして聞き返す。「クリフ、気でも狂ったの?あなたが何を頼んでるのかわかってる?」真顔で頷くマクレーン。

マクレーンが会いたがっているという話をタマラから聞いたヴィラは、笑って承諾しながらもその真意を訝しんでいた。「無論OKだとも。いつだってマクレーンのために割く時間はあるさ。彼は何がしたいのかな?」「彼に個人的に話をさせてあげましょう。きっと重要な事だと思います」「重要な話でなくちゃ困るね。マクレーンはとても利口なんだろう?」「はぁ」「納得していないようだね。君はいつも彼を尊敬していると思っていたが」「……個人的な感情はよしましょう」「君は、たとえ火の中水の中の間柄だと思っていたがね」「……」「そのへんにしておこうか。今のところは。……それでは彼と話すことにしよう。他には?」「ありがとうございます、大佐。それで全部です」退出するタマラ。それを黙って見送るヴィラの目からは笑みが消えている。
ヴィラのオフィスを出たタマラは文書保管室へ向かい、壁に据え付けられたコンピューターを操作し始めた。そこへ不意に「面白いじゃないか、中尉」と声をかけられてタマラは飛び上がる。振り向くと壁のモニター画面にヴィラの顔が映っていた。「君の友人のマクレーンはとても喜んでいただろうね。だが君が発見したものを彼に知らせるチャンスはないよ」慌てて笑顔を取り繕うタマラ。「あ、その、お詫びします大佐……」「いいえ、どういたしまして。君の行動は私の役に立っているよ。それとも私が許可していなければ、君がその部屋に入れたと思うかい?」「あの、単なる好奇心でしたの……」「そうだね。マクレーンの好奇心だ」「マクレーンは何も関係ありませ……」「馬鹿を言うな! マクレーンは君にここを覗き見るよう頼んだのだ。私は彼が何を嗅ぎまわっているのか知るために、君を泳がせておいたのだ。次は私の番だ。彼女を逮捕しろ」文書保管室の扉が開くとシークレットサービスの男性職員2名が現れ、タマラのもとへつかつかと歩み寄った。

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その頃マクレーンは精神科医のレグワート博士に質問をぶつけていた。「……君が何を言いたいのかがまだわからんのだがね、マクレーン君」「私自身もはっきり掴めているわけじゃない、それで先生にお尋ねしているんです。信頼できる人物を外部の力によって生まれ変わらせてしまうという事は可能でしょうか?」「催眠術かテレノーシスという意味かね?」「いえ、そうじゃありません。つまり人間が、外見は変わらないのに、内面では敵のように考えたり感じたりするんです。テレノーシスに影響されている間だけじゃなく、その先もずっと」「ふん、人間を完全に変えてしまうためには、脳を再プログラミングする必要がある。それは何か月も何年もかかる、無限にも等しい複雑な手順だ。医学的観点からいえばね」「エイリアンが関わっている可能性は?」「フロッグスかね?」「そう呼ばれているものです。彼らは私たちよりもはるかに早く人間の頭脳を書き換えられると考えられますか?」「そのためには、まず捕虜にした人間が必要だな」「彼らはどれで試したんでしょうか。最初はMZ4で、次にテレノーシス事件で、そして今回……。先生、私はもはや正気かどうかはわかりませんが、ひとつだけ頭から離れない事があるんです。……ヴィラと彼の部下が乗ったタウ号は、回避不可能な災害に巻き込まれます。ヴィラは奇跡的に生き残り、数日後に説明のつかない帰還をして、災害はタウ号で容易にしのげる通常の太陽嵐だったと言いました」「……それで?」「私はその災害を亜空間通信で聴いていました。それは振動する重力場で、フロッグスだけが作り出せるものでした。ヴィラはシャトルで惑星ゴードンに降りようとした。それが上手くなんてますます怪しいんです。本当ならシャトルはもみくちゃにされて破裂してしまいます」「マクレーン君、どういう意味かね」「これを説明できるのは一つしかありません、先生。ヴィラがシャトルに乗るとフロッグスはエネルギーフィールドをオフにしました。彼らはヴィラを殺すよりも、むしろ生かしておいてキーパーソンにしようと企んだからです」「ヴィラがタウ号に乗っているのを彼らが知っていたと仮定するならね」「ええ、知っているでしょう。おそらく彼らは私たちの無線通信を監視できます。それもありそうです。それに好奇心をより高めるために歪んだ無線送信を使ってヴィラを惑星ゴードンへおびき寄せたかもしれません。……彼の任務の目的についてすぐにでもわかるといいのですが」「君は何か忘れているようだね。君の悪夢のような予想が本当なら、ゴードン基地にはフロッグスがいるはずだ。誰も気づいてないようだが?」「我々がMZ4で彼らに遭遇したのは全くの偶然でした」「しかしゴードン基地はタウ号が遭難したことの報告を完全に通常通り送ってきたぞ」「おそらくゴードン基地の職員の頭脳は既に書き換えられていたんでしょう」「なぜワムスラーに話さないんだね?」「信じてなんかくれるもんですか。すぐさま精神病院に送られるのが関の山だ」「正直いって、マクレーン、病院で診てもらうのも別に悪くないんじゃあないかな。君とのつきあいはもう10年にもなるが、こんな妄想を言い出すことはなかったからね。また時々ここへ来て、ヴィラのことをどう思っているか話してみるといい」「先生も私が狂っていると? そう診断するんですか?」そこへスピーカーからマクレーンを呼び出す声が流れてくる。ヴィラ大佐が6時半にシークレットサービス本部でマクレーンを待っているというのだ。

約束の時間になり、シークレットサービス本部のヴィラのオフィスへヴィラとマクレーンが話しながらやってきた。「君も知ってると思うが、マクレーン、私はいつだって君の観念的な計画をサポートしてきたよ。しかし、いったいぜんたい、惑星ゴードンで何をやりたいのかね」「タウ号で起きたことのあなたの分析について、あなたとリンドリー指揮官が正しいことを確認したいだけです」「そうかね。会議でやりこめられたのがまだ気になるかね?」「まぁ、そんな感じです。プロとしてのプライドが傷ついた……とでもいうか」「それで、君はまだこの事件が地球外生命体によって引き起こされたと信じているのかね?」「私は何も信じちゃいません。その可能性を排除したいだけです」「なぜワムスラーに聞いてみない?」「“ゴードン”と言いだす前に追い出されました」「私が許可すれば宇宙軍司令部にも伝えなければいけないことは知ってるね」「あなたは宇宙軍司令部の完全な信任を得ています。以前お願いした時は問題になりませんでしたが」「よろしい。行ってください。全て手配しておきましょう」目論見が外れて拍子抜けするマクレーン。「……ありがとう。ありがとうございます、大佐」席を立って退出しようとするマクレーンにヴィラが声をかける。「マクレーン? ……そこに本当に何かが起こっていて、タウ号と同じ事態に陥ったらどうなるかな?」「それは私が負うリスクです」「いや、そこまでの責任は負わせられんよ。安全のためオリオン号には重力場発生装置を装備させよう」「そりゃすごい……しかし時間がありません」「長くはかからんよ。新しいシステムを全艦隊に導入するところなんだ。技術主任のクランツを知っているかね」「名前だけは聞いたことがあります」「いわば専門家だ。人工重力の第一人者といえる。彼を同行させよう」「……ありがとうございます、大佐」マクレーンが再び退出しようとすると、またもヴィラが呼びとめた。「マクレーン、言うのをすっかり忘れていた。君のチャーミングな公安官は一緒に行けないよ。特別な訓練コースに行ってもらったのでね。その後のミッションまでは知らなかったんだ」「……それはどんなコースですか?」「彼女は昇進を一年以上待っていてね、そのコースを受けるのが昇進の前提条件なんだ。彼女自身が希望したのさ」「……なぜ彼女は教えてくれなかったんだろう」「何も聞いてないのかね?」「何も」「そりゃまずいね。何か怒らせるようなことでも?」心あたりもなく狐につままれたような面持ちで首を振るマクレーン。「彼女のことはさっぱりわかりませんよ」「女性とはそういうもんさ」

海底の104基地でオリオン号が打ち上げ準備に入っている。たまたま打ち上げ地点にスピラ指揮官のループス12号が帰還してきたが、女性管制官に呼び出すまで待つよう指示されてしまった。「本艦は重要書類を積んでおり最優先で処理されなければならない。マリガン大佐を出してくれ!すぐに潜水できないのなら別の基地に移動する必要がある」と連絡しても「マリガン大佐は休暇中です。あと数分で空きますので」とそっけなくあしらわれてしまった。出発準備の整ったオリオン号はクランツ技術主任を乗せて海底基地を発進し宇宙へ飛び立っていく。

そのころシークレットサービス本部では部下を集めて命令を下すヴィラの姿があった。「極めて重要なのは――コスモスマイナス186地点で宇宙軍の全ての通信の妨害。コスモスマイナス100地点での宇宙基地の封鎖。すべてのレーダー警報装置を記録専用モードにセットすること。接近データは転送せず、保存のみになっていることを確認しなければならない。コスモスマイナス164ではその宙域の全部隊に対し、最も近い基地へ帰投するよう最優先命令を発動する。コスモスマイナス200は午後11時に開始。宇宙プラス200で任務完了だ」

基地を飛び立って18時間経ったオリオン号艦内では、クランツ主任技師が自分のシステムのテストをさせてもらえることの悦びを1時間おきに語るので、マクレーンは辟易していた。そのときレーダー担当のヘルガが遠く離れた宇宙空間に何か動く物体を発見する。その物体の発している信号はMZ4事件で聞き覚えのある、フロッグスの三進法信号だった。それはすなわちフロッグスが2つのレーダー警報装置をすり抜けてきたことを示している。ただちに宇宙パトロールへ報告するアタン。

ヴィラは様々な命令書を暗号化して送信するよう部下に命じていた。「コスモスマイナス200を開始する。コスモスマイナス150の侵略部隊にゴードン基地経由でエネルギーを供給せよ」そこへオリオン号から宇宙パトロールに光波通信が送られてきたとの報告が入る。宇宙パトロールに代わって通信を取るシークレットサービスの副官。「宇宙パトロールは現在停止中だ。通信を転送している。報告があるのか」「ある。4つの区間でUFOを発見した。RS-118・KL90からRS-118・KL94。やつらはレーダー装置の外側を通過した。地球へ向かうコースに乗っている」マクレーンの報告を聞いて指を噛むヴィラ。副官は「把握している。対策を講じているところだ」「ワムスラー将軍には通知したか?」「もちろん。現在のコースに留まって次の命令があるまで待機せよ」「我々のコースはUFOから離れている!」「それで大丈夫です」「UFOに誰が乗っているんだ!フロッグスか?」「言う権限がありません。通信おわり」宇宙パトロールと繋がらないなんて前代未聞だ、と焦るマクレーン。通信相手が誰だったかアタンに尋ねられても、マクレーンには見当がつかなかった。ヘルガはUFOが間違いなく地球に向かっていると報告した。
一方シークレットサービスでは全ての宇宙ステーションから滝のような問い合わせが集中していたが、それに対してもヴィラは既に対策ずみだと回答することで2時間は問い合わせを止めさせるよう指示していた。そこへタマラがシークレットサービス職員に付き添われてやってきた。「なぜ私をここに引き留めているの!?」「正当な理由があってね」「最後にあなたが何をしようとしているのか教えてくれるかしら」「君はもう知ってるんじゃないかな? 君の友人のマクレーンが、君にここでスパイをしてほしいといっただろう」「それじゃやっぱり……クーデターを企んでるの?」「クーデター? なんて幼稚な考えだ。私はそんな些細な事に構っている暇はない」そこへ管制基地47-36-A5から通信報告が入る。先遣部隊は地上基地や部隊からの妨害もなく予定通り侵入ルートに到達したと聞いて「素晴らしい!」とご満悦のヴィラ。「コスモスマイナス164の侵略部隊は集合地点を離脱せよ」「了解」驚いてヴィラに問いかけるタマラ。「大佐、どういう意味ですか?侵略部隊?信じられない……狂ってるわ!」「なぜ平均的な頭で理解できない事をすべて狂気として片づけるのかね?」「しかし、お願いです、考えなおしてください……」「議論する時間はないんでね。マクレーンは遅かれ早かれ、我々を呼び出すだろう」「呼び出すのは宇宙パトロールだわ」「いいや、彼の声は誰にも聞こえないさ。私は彼らの暗号変換機を自由に操れるのでね。……マクレーンが連絡してきたら君が相手をしろ。その時、どう答えるかは私が指示する」

フロッグスの大編隊をレーダーで捉えたオリオン号は再度宇宙パトロールへ連絡を取ろうとするが、依然応答はなかった。マクレーンは繰り返し呼び出しを続けるようアタンに指示すると、同乗のクランツから銃を取り上げる。「何をする!? そんな権利はないぞ!」「念のためです。あのヴィラが単なる好意であなたを同乗させたとは思えない」「ばかばかしい!」「それなら結構。いまにわかります」

シークレットサービスでヴィラに食ってかかるタマラ。「あなたは私を殺すことはできても、マクレーンに誤った命令を伝えるよう私に強制することはできないわ」「まず、私は君に強制できる。次に、私は命令をくだす。そして彼がそれに従うのを確信しているよ」「あなたはマクレーンのことを知らないんだわ!」
そのとき副官が、オリオン号の発した光波通信をキャッチした。ヴィラは副官に命じてマクレーンがどれだけのことを知っているかワムスラーの代わりに聞き出させようとするが、一向に宇宙パトロールへ繫がれないことに業を煮やしたマクレーンは「今から自分の判断で行動する!」と宣言。ヴィラはタマラに「奴と話すか、それとも酷い目に遭わされたいか」と脅すがタマラは身じろぎもしない。苦々しい顔でヴィラは自ら「マクレーン、こちらはヴィラだ。君を驚かせることがある」と通話に出た。タマラがふと視線を落すと机の上にインターホンのスイッチが目留まった。「わしと一緒にいるのは公安官のヤジェロフスク中尉だ。君がわしの命令に従わなければ彼女はここで死ぬことになる」タマラの背中に突きたてられている光線銃。ヴィラがタマラに話をさせるため部下に合図をすると、部下がタマラを後から突き飛ばした。タマラはよろけて机に手を突くと、咄嗟にインターホンのスイッチを押した。

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「タマラ!」「マクレーン!あなたが正しかった。手遅れよ、ヴィラが勝ったわ!侵略が始まったの、フロッグスよ!私の声が聞える?」宇宙パトロールの館内スピーカーを通じて放送されるタマラとマクレーンの声に、執務中だった宇宙パトロールの女性職員たちが驚いて、居眠り中のスプリングブラウナー伝令将校を起こす。「聞いたかね、マクレーン?これは脅しじゃないぞ。彼女の命は君の手の中にある。わしの言うことを聞いてくれるかな?」「何をすればいいんだ?」「クランツはどこだね?」「ブリッジにいる」「彼と話がしたい」マイクの前に歩み寄るクランツ。「クランツです。大佐、私は武装解除されました」「そんなことだろうと思った。マクレーン、1分だけやろう。それまでにクランツが指揮権を執ったと報告させろ。クランツに武器を返し、彼の命令に従うんだ。そうしなければタマラは死ぬ。わかったか?」マクレーンはクランツが前を向いている隙にアタンへ目で合図をする。「ああ、はっきりわかったよ!」「それからクランツは私に暗号でメッセージをくれるから、彼を強要しようとは思わんことだな。今から1分だ」アタンはこっそり自分の光線銃を椅子に乗せて上着で隠した。ヴィラがカウントダウンしながら言う。「50秒……マクレーン、わしらが少し古臭いことを忘れないでくれ。わしらの武器がひと昔前のものなので、反撃できると期待しているかもしれんからな。君はいつか、わしら全員が死なねばなんと言い出すかもしれんから、これだけは言っておこう。君はガールフレンドが支払わなければならん対価を低く見積もっているよ」

一連の放送が悪い冗談のようで及び腰だったスプリングブラウナーは秘書官の説得もあってワムスラー、宇宙司令部および政府への通知を部下へ指示した。一斉に動き出す部下たちへ慌てて付け足すスプリングブラウナー。「伝令を使って!時間はかかるけど、全ての回線は支配されてると思ったほうがいい」

ヴィラのカウントダウンが残り15秒を告げる。マクレーンはクランツに「ばかみたいに突っ立ってないで!何をすればいいのか言ってくれ!」と言うが、クランツは黙って立ったままだ。「10秒……」「一人では決められない!」「7秒……」ハッソーから武器をクランツに返すよう促されるマクレーン。マリオとヘルガも同じように武器の返却を訴える。「4秒……」マクレーンが光線銃をクランツに渡すと、クランツは「よろしい……それから動かないで!」と銃口をオリオン号のメンバーに向けたままアタンの所へ。「渡してもらおう」隠した光線銃を渡すアタン。「気づいていないと思ったんだが……」「ヴィラ大佐、こちらクランツです。01、00、2、3。アルゴル、ベスタ、インターコスモス、ウー、インディゴ」「認証した、インディゴ。……彼は対応できたようだ。コスモス管制どうぞ」壁のモニター画面に管制官が映る。「集結地点の侵略部隊です。宇宙軍の妨害はありません」もう一つのモニターに女性管制官が映る。「コスモスマイナス150」「今から侵入ルートに入れ。ゴードン基地からビームでエネルギーを供給する」副官がヴィラにタマラを処分するか尋ねると「コスモスマイナス50まで待とう。宇宙パトロールが口を挟んできたとき必要になるだろうからな。彼女はよく繋がってくれているよ。連れていけ」

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宇宙空間を悠悠と飛んでくるフロッグの宇宙戦闘機の編隊。
宇宙軍本部を大股でズカズカと歩きながらウェナースタイン政府委員とアーサー卿に「部下の訴えを聞いてゾッとした!ヴィラは気が狂ったに違いない!」とわめいているワムスラー。また他方ではクブライクリム元帥が3人の部下にそれぞれ「シークレットサービス区画を磁気的に分離しろ!それからドアをバルゴ光線で焼き切れ!ヴィラの不意を突くんだ!」「作戦地域へのすべての部隊は、デルタ計画でいく」「現時点ではデルタ計画での全セキュリティ対策は有効だ。報道管制を敷け!」と命じている。

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ヴィラが遂に基地本部の破壊命令を発した。「コスモスマイナス100。艦隊基地をブロックせよ!発着ベイを爆破!」海底基地の宇宙船発着場に轟音が響くと天井から大量の海水がなだれ込み、そこに駐機していたオリオン号と同型の宇宙船を押し潰してしまう。
さらに、宇宙防衛を手薄にするためのダメ押しの命令がヴィラから発せられた。「作戦中のすべての部隊へ光波通信。アルファオーダー、地球に戻れ!これはアルファオーダーである!」
時を同じくしてワムスラーが宇宙パトロールに指令を発する。「こちら宇宙パトロール。アルファ警報!フロッグスの侵略軍が地球へ近づいている。重戦闘部隊出動せよ。第25番基地の1から12部隊!第25番基地の12部隊は第30番基地へ!」
アーサー卿がウェナースタイン政府委員に報告している。「最高宇宙司令部より政府へ。フロッグスは我々の基地を爆破しました。基地は浸水しています。フロッグスの侵略艦隊はセクター118-KL12から118-KL4に近づいています。抵抗の甲斐もなく。侵入を止められません。我々は交渉を提案します」
モニターの向こうでウェナースタインが言う。「政府より宇宙司令部へ。仲介交渉者は軍法会議にかけられるだろう。敵は何らかの手段で阻止しなければならない」
ワムスラーの指令が響いている。「宇宙パトロールより全ステーションへ通達。基地と作戦部隊の間の光波通信はシークレットサービスによって転送されるため無駄である。繰り返す……」シークレットサービスで放送を聞いているヴィラたち。「……光波通信は転送されるため無駄である。繰り返す。光波通信は転送される……」そこへ武装した大勢の宇宙パトロール職員が駆けつけ、ヴィラたちを拘束した。後ろ手に組んで平然として語るヴィラ。「何でそんなに時間が掛かったんだね、紳士諸君?もう手遅れだよ!計画は進行中だ。誰にも止めることはできん。24時間以内に、地球はついに知的存在の手に渡るだろう」それを聞いていたスプリングブラウナーが言う。「奴らがあなたより遥かに知的でないのなら、我々は何も心配はしませんよ。ご同行ねがいます!」職員に促されてその場から連れ出されるヴィラ。

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オリオン号の船内では銃を構えたクランツがソファへもたれてメンバーに目を光らせていた。その緊張を破るようにマリオがクランツへ話しかける。「……理解できないね。なぜシンプルに俺たちを殺しておいて、コンピューターに宇宙船を操縦させないんだ?5人も監視し続けるのはストレスが溜まるだろう?」「ストレス?君たちが行儀よくしていれば問題ない。……君たちの最初の質問に関してだが、君たちはゴードン基地から期待されている。ヴィラは彼らに知らせていた」マクレーンが尋ねる。「誰が私たちに期待しているって?」「……そのうち分かる」「フロッグスか?」「……知的な存在さ。そして彼らは君たちのオーバーキル・システムについて特に興味があるんだ。君たちにはすてきなデモンストレーションをやってもらう」「死んだ方がましだね」「まあまあ……ゴードンに着いたら、まず最初に眠ってもらうんだ。目が覚めた時には全てが違って見えるだろうね」思わず椅子から立ち上がって声を荒げるマクレーン。「奴らは私たちの頭脳を置き換える気なのか?……奴らがヴィラにやったように!?」「ちっとも痛くないさ」「失敗したな、クランツ……私たちにそれを教えるべきじゃなかった!」激高して飛びかかろうとするマクレーンにクランツは銃を向けて「そこにいろ!……もう一歩だ。このことはヴィラに知らせる。タマラを忘れるなよ」と制した。「ちょっと待て……惑星ゴードンはまだ遠い。君は遅かれ早かれ失敗するだろうな」とうそぶいて席に戻るマクレーンを見て冷ややかに笑うクランツ。そのときブリッジの計器が奇妙な音を立て、クランツの後ろのコンソールが点滅し始めた。「今のは何だ!?」と驚いて尋ねるクランツ。マクレーンが計器に手を伸ばしてクランツから牽制されると、成り行きを覗っていたヘルガやアタン、マリオも各々の担当計器をチェックし始めた。モニター画面が点いてハッソーが報告する。「機関室から指揮官へ。変圧器の3番と5番が誤動作しています。どうしますか?」クランツが銃を構えたまま「どういう意味だ?」と聞き返すと、ハッソーが続けて言う。「変圧器の役割の技術的な説明をしましょうか?というか、むしろなぜそれらが誤動作しているか説明しましょうか」クランツがマクレーンに言う。「修正するよう命令しろ」マクレーンが何か言いかけるが、ハッソーが畳みかけるように「それはつまり、一時的に半分の速度で飛行しなければならないことを意味しています」と言う。「マクレーン、おまえがしているのは妨害行為だ」「……君がしていることは違うのか?」「……ジビヨンソン、はったりをやめろ。オリオン号をすぐフルスピードに戻さないなら、どのクルーが一番の犠牲者かを決断しなきゃならない……俺の言ってることがわかるか?」息をのむマクレーンたち。だがモニターの向こうのハッソーは強気の姿勢を崩さない。「降りて来て、自分の目で確かめてみるんだな!」「……馬鹿にしてるのか?」クランツはあたりをねめまわしてからモニター越しのハッソーに「仕事にかかれ!」と言い放った。

一方、宇宙軍本部のクブライクリム元帥はアーサー卿に「重戦闘部隊が発進できないなら、どうやって敵の攻撃を撃退するんですか!?」と興奮気味にまくしたてていた。「……宇宙には巡洋艦が何隻あるかね?」「標準警備艇が8隻。攻撃規模に比べれば無いも同然です」館内放送が聞えてくる。「侵略軍はレーザー砲台7番から9番を通過中。彼らに多大な損失を与えるも、いまだ進路は変えておらず」クブライクリムが言う。「信じられないほどの数です。奴らの砲列の半分を潰せたとしても」ウェナースタイン政府委員は「ヴィラに何かやらせることはできないのか?」と尋ねるが「ヴィラには何もやらせることができん。彼は精神病棟にいるんだ!」と言うワムスラー。
そこへタマラが「元帥、私たちはヴィラが侵略を指揮するために使用した暗号を解読しました」と駆けつけてきた。「本当か?」「彼らは前進するためのエネルギー供給に明らかな問題を抱えていました。それが、彼らがすべてゴードン基地経由で近づいている理由です。ゴードン基地はエネルギーの供給と彼らの誘導を行なっています」ワムスラーが言う。「奴らが我々の砲台を通過するときでもコースを変更しなかったのはそういうことか」ウェナースタイン「つまり、攻撃を止める唯一の方法はゴードン基地を破壊することだ」クブライクリム「では、それをどうやって実行する?ヴィラはすべての隣接セクターを隔離してしまった」アーサー「それと、どの部隊なら時間内に惑星ゴードンへ行けるのかね?」クブライクリム「ありません。ヴィラの最後のアルファ・オーダーで、彼らはすべて地球に戻ってしまった。我々は彼らを惑星ゴードンに転進させましたが、そこに着くには時間がかかりすぎます」そのやりとりを聞いていたタマラが言う。「マクレーンだけが時間内に惑星ゴードンへ到達するかもしれない。でも彼はクランツの支配下にあります」ワムスラー「我々はオリオン号に連絡をとろうと1時間前から粘っています。スクリーン上に捉えてはいるのですが、返答がないのです」
オリオン号ではヘルガの前の呼び出し機器がさかんに鳴っている。ヘルガが取ろうとすると「中尉!」とクランツが銃を向けてそれを制止するのだ。「神経質にならなくてもいい。あるいは……私が神経質になって、君たちを不快にさせるかもしれん」マクレーンがクランツに言う。「本当にチャンスがあると考えているのか?」「私はあなたが持っていないことを知っています」「誰かが私たちと話をしたがっている。誰が、どうして?ヴィラだけが私の離陸を知っていた。だからそれができるのはヴィラだけだ。……彼の計画が露呈して、宇宙司令部がコンタクトを試みてこない限りはね」「気にするな、マクレーン!ヴィラは決して露呈させたりしない。彼の計画は……完璧なんだ」

そうこうしているうちにフロッグスの宇宙戦闘機編隊は刻一刻と地球へ近づいていた。「侵略者はセクター116-LM-4を通過しています。コースは変更されていません」「オリオン8号応答なし」管制からのモニタリングを聞いていたタマラは「私たちも何かしなければ……」とやみくもに焦るが、ワムスラーから「本当かね?それじゃ何を?」と軽くいなされてしまう。スプリングブラウナーがやってきて「フォン・ダイク将軍の配下のヒュードラーは惑星ゴードンに進路を定めました」と報告するも「役に立たん。彼女は惑星ゴードンに着くには遅すぎる」と目も合わせないワムスラー。「彼女はオリオンの前にいると思われます」「ヒュードラーはいつからオリオンよりも速くなったんだ?」「オリオンはしばらくの間、半分の速度で飛行しています」それを聞いてタマラとワムスラーはお互いに目を見合わせる。タマラがワムスラーに尋ねる。「ヒュードラーはオリオンに追いつけないんですか?」「ああ。しかし、それが何かね?ヒュードラーはクランツを冬眠キャビンに追い込むと思うかい?」だが、タマラは名案を思い付いたらしくニッコリ笑う。「ヒュードラーにマクレーンを攻撃するよう命じてください!」「気でも狂ったのかね?」「オリオンが攻撃された場合、マクレーンが制御を取り戻す可能性があります。クランツはオリオン号を守る必要があります。彼にはマクレーンとド・モンティが必要です」ピンとこない様子のワムスラーにタマラが畳みかける。「分からないの?!彼は彼らが必要だから、彼は彼らの支配権を失うかもしれない……やってみなけりゃわからないわ」少し考えたあとのワムスラーは即断した。「わかった。ヒュードラーへ光波通信……」

オリオン号の機関室で何やら機器の調整をしているハッソー。パネルのネジを回したあとでレバーを動かすと機器がショートしたりしている。モニター越しにクランツが疑わしい目で尋ねる。「何をもたもたやってるんだ?」「加速しようとしたんです。しかし、結果ばごらんのとおり。だめでした」「ジビヨンソン、もう十分だ。君のことはもう信じない」「私を信じないなら、マクレーンに聞いてみてください」クランツは緊張の面持ちで見守っている傍らのマクレーンに向かって言った。「……君はずいぶんと静かなんだな?」表情を崩して答えるマクレーン。「あなたはジビヨンソンが正しいのを知っている」クランツはマクレーンに近づいて言う。「私もすぐわかるよ、いつまでも飛行速度を半分にしていたら君らの仲間が一人殺されるということをね」「じゃあさっさとやったらどうだ!」感情的に怒鳴りつけるマクレーンに銃口を向けたまま押し殺したような声で言うクランツ。「……リスクを冒し過ぎだぞ、マクレーン」唾を飲むマクレーン、頬に脂汗がにじんでいる。その時ヘルガが飛行物体の接近をレーダーに捉えた。「警戒警報!飛行物体です。高速接近中、距離144、143」

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飛んできたのはヒュードラー号である。ヒュードラーのブリッジではかつてマクレーンの上司だった女性将校リディア・フォン・ダイクが指揮を執っていた。「指揮官から機関室へ。これで全速力か?」「ヒュードラーには持てる能力を全て注ぎ込んでいます」嘆息するダイク。「指揮官から戦術士へ。距離109でオリオン号を攻撃。わかっているだろうが、オリオン号を使用不能にしてしまわないように!」「わかってます」
オリオン号のブリッジでも接近してくるのがヒュードラー号だということがわかった。「オリオン級の戦艦」「距離110」「クリフ、これはヒュードラーだ!」クランツがマクレーンを脅す。「ジビヨンソンに加速させろ」「なぜオリオン号が故障するリスクを冒すんだ?ヒュードラーの目的もわからないんだぞ」「やつらがここへ乗り移ってこないためにだ」「距離109」マリオが慌てて報告する。「クリフ、あいつら攻撃してきた!俺たちは射程圏内にいるぞ!」クランツは動じない「君のお連れさん方は君を撃ったりしないさ」「標的は我々じゃない君だ!フォン・ダイク将軍はおそらく、我々はもう死んでいると確信したんだ」ブリッジにチリチリッ……と焼きつくようなノイズが響く。ヒュードラーの砲撃だ。「命令だ、私たちを守れ」「どうやって?」「あの船を攻撃しろ!今すぐだ!」「……仰せのままに」精一杯の嫌味を言って踵を返すマクレーン。「マリオ、戦術卓の配置につけ」「あいよ」エレベーターに向かおうとしたとき砲撃で船体が大きく揺れ、よろけるマリオ。クランツも背後へ倒れそうになる、その隙を突いて銃を持ったクランツの右腕を掴んで椅子の背もたれに叩きつけるマクレーン。無邪気な笑顔で成り行きを見守るマリオのカットバック。マクレーンのパンチを受けたクランツが殴り返そうと構えたところを、いつの間にか背後に忍び寄っていたハッソーが取り押さえた。「まぁ落ち着きな、あんちゃん。マリオ、こっちに来てくれ。僕は下に戻らなきゃいけないんだ」クランツをマリオに引き渡して階下に降りるハッソー。ホッとしたマクレーンはすぐさまアタンのいる操作卓へ駆け寄ってヒュードラーに連絡を取った。「オリオンからヒュードラーへ。フォン・ダイク将軍、こちらマクレーン。我々は無事、もう少し長生きしたい。聞えるか?」「マクレーン、大丈夫か?」「はい、将軍」「オリオン号は全て自由自在に動かせるか?」「技術的には、はい。神経のほうは少々すり減っています」「クランツはどこだ?」「ここにいます。彼は少し落ち込んでいるようです」ダイクの顔に一瞬、ホッと笑みが浮かぶが、すぐに毅然とした表情に戻る。「では超空間航行に移り、コースを惑星ゴードンにセットせよ。ゴードン基地はオーバーキルで排除する。これは政府からの命令である」「まだ存在してるんですか?」「余計な質問さえしなければ、そう長くはない!以上だ」マクレーンが「ハッソー、超空間航行はいけそうか?」と尋ねるとハッソーは笑顔で「問題ない」と操作卓のスイッチを入れてみせる。ブリッジのレベルメーターがモーターの高鳴りとともに上がっていく。それを見て「そんな事だろうと思ったよ」とつぶやくクランツに、マクレーンが呆れぎみに返す。「そうだな。君は賢いから」ヒュードラーと別れて宇宙の彼方へスピードを上げていくオリオン号。

宇宙パトロール本部のワムスラーたちの元へ「オリオン号が惑星ゴードンへ向かって超空間航行速度で飛行しています!」とスプリングブラウナーが駆け込んできた。ざわめく一同。ワムスラーが管制室にインターホンで尋ねる。「フロッグスから地球までの距離は?」「47.20」「オリオン号から惑星ゴードンまでの距離は?」「47.30」わずかにオリオン号のほうが遠い。「危険な賭けだ」

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宇宙ステーション7の傍を通過しようとするフロッグスの編隊。すれ違いざまに目に見えない砲撃が展開され、かろうじて3機のフロッグスを撃墜するもステーション7は宇宙の塵となって消滅した。
その間にも宇宙の深奥へ向かって一直線に飛んでいくオリオン号。

宇宙パトロール本部にステーション7の敗北が伝わった頃、モニターホンを通じてクブライクリムがワムスラーに状況を尋ねてきた。「どうなっている。オリオン号はいけそうか?」「やり遂げられるのはマクレーンだけです」「数値を教えてくれ」「フロッグスと地球、47.8。オリオンとゴードン、47.6」ややオリオン号の方が近づいたようである。「マクレーンは頼りになるな。彼を降格した天才は誰だったかな」「あなたです、元帥」「私が?……ああ」モニターホンを切ってしまうクブライクリム。

オリオン号ブリッジでレーダーを見ていたヘルガが報告する。「インパルス受信。前方に敵基地」「共鳴接触。距離は?」「距離37.4」「指揮官から戦術士へ」「はい、クリフ」「準備はどうだ?」「準備OK、奴らは射程圏内です」「距離37.3」「機関士から指揮官へ。ウルトラインパルス実行中」「距離を」「12、11、10、9、8、7……」「5秒以内にオーバーキル発射。いいか、マリオ」「いいぞ!」「狙え……オーバーキル」
次の瞬間、惑星ゴードンから巨大な火柱が上がった。

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後日、宇宙軍本部で報告会が開かれ、レグワート博士がプレゼンテーションを行なっている。「言うまでもありませんが、この情報は直接関係者のみに留めるべき極秘事項であります。そうしないとパニックが発生します。不信と疑いの波がすべての政府機関を覆うでしょう。誰もが他人に対して頭脳の書き換えを疑うでしょうから。幸い、我々は影響を受けた者を正確に特定することができます。それはゴードン基地のクルー、そしてヴィラと彼のスタッフだけです」クブライクリムが発言する。「失礼します、教授。あなたはいま“影響を受けた者”と言いましたか?」「ええ、それは一種の病気です」「彼らは私にとっては犯罪者だ」ワムスラーも「その通りだ」と言う。レグワート博士が説明を続ける。「不本意な犯罪者です。それは自由意志による意図的な行為ではありません。地球外生物の手にかかれば、あなたたちも同じことをしたでしょうね。あなたたちの脳は新しい願望で再プログラムされたでしょう。巨大な星間領域へ版図を広げる地球外の勢力に、地球を明け渡したいという願望」ウェナースタイン政府委員が質問する。「教授、ヴィラの再プログラミングはどのようにして行われたのでしょうか?」「私たちは、一連のテスト、精神化学、および精神電気に取り組んでいます。再プログラミングのプロセスを再作成する必要があるのです。そうして初めて我々は元に戻せるという望みを持つことができるわけです」アーサー卿「ヴィラたちはまた元通りになる望みがありますか?」「やります。あらゆる手段を講じて」レグワートは「他に質問は?」と参加者に呼びかけたが、誰も手を挙げないようだ。「以上で私のプレゼンテーションは終わりです。今日ここにいる人々、そしてもちろん政府には進行中の調査の結果が通知されます。ありがとうございました」

散会する中でワムスラーが「オリオンの乗組員はもうしばらく残っていてくれないか?」と呼びかける。ハッソー「何を始める気なんだろうか?」マリオ「聞くまでもないよ。将軍に黙って出発したことについてさ、賭けてもいい」アタン「それはないさ。俺たちが助けてなきゃ将軍はフロッグスに脳みそ書き換えられてたんだぜ」ヘルガ「そんなの分らないわよ。彼、頑固だから」と銘々が噂し合っているうちにワムスラーがフォン・ダイクと話を終えて戻ってきた。「マクレーン、何か言いたいことはあるか」「ええと……何も思いつきません」「では私から言わせてもらおう。君が私の命令に逆らって惑星ゴードンへ出発したのは明らかに不正行為だ」オリオン号の面々が騒ぎそうになるのを上から重ねるように「それ自体は!不正行為だ」と強調するワムスラー。「殺されたり洗脳されたりする危機から我々を救った。思いがけない幸運とはまさにこの事だ。もし君のカンが間違っていたら、今頃クビになっていたんだぞ」さすがにバツが悪いと感じたマクレーンが「お願いです、もし……」と言いかけるとワムスラーが強い調子で制した。「マクレーン大佐!」思わず顔をそむけてしまうマクレーンだったが、ふとワムスラーの言った言葉に気が付く。マクレーン“大佐”だって?

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「……マクレーン大佐。宇宙パトロールでの任務は本日で終了する。懲戒処分の終了に伴い、君を高速戦闘部隊に戻す」予想外の昇任と原隊への復帰に喜びを隠せない一同。「どこで飲むか教えてもらえれば、私も参加するぞ」がっしりと握手するワムスラーとマクレーン。「そうですね……では」「スターライトカジノで!」続けてフォン・ダイクがきびきびとした口調で言う。「あなたたちの任務は乗組員全員への3ヵ月の特別休暇をもって始めます。今のところはそれだけです。落ちついたところでまた会いましょう」マリオがダイクに尋ねる。「休暇の目的地はみんな別々でもいいんですか?」「よろしい」「それじゃ、クロマに行きたいです!」それを聞いて皆が一斉に吹き出すので「何が可笑しいんだよ!」とむくれるマリオ。皆と一緒に会議室から出ていこうとするマクレーンをタマラが呼びとめて話しかけた。「……昇進おめでとうございます」「ありがとうございます」「その……古巣に戻れたことをお喜び申し上げますわ」「そうだね、みんなも素晴らしいことだと感じてるよ」「そうね、でも私はどうかしら。何をしたらいいのか思いつかなくて」「本当に?じゃあ私たちと一緒にいませんか?」「私がベビーシッターをするのは、あなたが転任するまでの間だけよ」「だからさ。君なしでいることなんか想像も……」「何事にも終わる時は来るのよ」「MZ4を覚えていますか?私たちが一緒の最初のミッション。私たちは喧嘩ばかりしてた」「それからムーラ、刑務所のコロニー。ああまったく、私は怒ってたのよ」「そしてあなたは私に、あの詩人とイチャついてみせた」「ちょ、ちょっと待って。クロマでのこと覚えてる?あなたがあの女王と一夜を共にしてたら、私はあなたを絞め殺してたかもしれないわ」「でも君は私にキスをした、私の記憶が正しければ……」急にしおらしくなるタマラ。「……ええ……忘れてるかと思ったわ」「フォン・ダイクに話してみるよ。ベビーシッターを続けてほしい、でなきゃサービス終了だってね」「このサービスのことしか考えられないの?プライベートのベビーシッターは要らない?」抱き合ってキスを交わす二人。

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突然、壁の巨大モニターにヘルガのアップが映し出される。「ありがとう、クリフ。もう十分よ。マリオと私で賭けをしてたの。ここにいる恋の専門家さんは、まさか会議室でキスするわけないよなって主張したのよ。で、私はシャンパンを10本獲得」横からヘルガを押しのけてマリオが画面に割り込んで来る。ヘルガが「くたばれ!」と言い捨てると今度はマリオが「あなたを見くびっていたよ、クリフ。僕は専門家だけがそれをやってのけると思ってたんだ。まったくあなたは驚くべき人だ……」と賛辞を述べ始めた。祝福されていることに喜ぶタマラとマクレーン。マリオが画面袖のヘルガに「おいで!」と引っ張られてモニターが消されると、今度は本当に誰も見ていない会議室でゆっくりと抱き合いキスをする二人だった。 【完】

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本作は第7話をもって最終回である。フロッグスとの決着がついたわけではないが、宇宙パトロールから高速機動艦隊へ復帰できたことで「宇宙パトロール(Raumpatrouille)」としての物語はこれで一旦区切りがついたといえるだろう。視聴者から見ていけすかないキャラを大いに立たせてきたヴィラ大佐はまさかのラスボスになって退治されるし(精神病院)、マクレーンは地球を救った功績で少佐から大佐への昇進というおまけ付きである。命令無視を覚悟の働きで大手柄をあげて処分どころか逆に昇進して終わる大団円というと確かTVアニメ「佐武と市捕物控」の最終回がそうだった気がする。古典作品のストーリーで何かお手本になるものがあるのだろうか。
宇宙ステーション7はどう見ても絵にしか見えなかったが惑星ゴードンは幾何学的な立体テクスチャを備えたワンダーあふれる造型だったと思う。ヒュードラー号が再登場したのも嬉しい。一方でタウ号の外見は判らない終いだったし、そもそもヴィラがなぜ自らタウに乗ってゴードンのそばに行ったのか明らかにされないままだったのは残念だった。劇中ではすでにゴードン基地を占領していたフロッグスの策略でおびき寄せられたのだろうというマクレーンの推測が語られるだけだが、まったくもってマクレーンの言うように管理職は前線などに出ずデスクにふんぞり返っているべきである。

さて、どうにか最終回まで翻訳し終えることができた。他の回は一晩寝なければ片がついたのに最終回は何度も気力が続かなくなってしまった。訳語や口調の不統一も心残りだがもし同人誌にまとめる機会があれば統一したい。意訳した部分もかなり多いが脳内でスタートレック声優に置き換えて口調をシミュレートしている影響もある。別にアフレコ台本を作ってるわけじゃないので粗筋で事足りるのだが、セリフの一つ一つが理解できていないとストーリーを読み違えてしまっているのではないかという恐怖心が勝ってしまう。Google翻訳のままだと前後関係から意味不明な日本語になってしまい、フレーズで検索したらいわゆる「言い回し」だったことなどはしょっちゅうだ。

兎に角、宇宙パトロール・オリオンは最高に面白いSFドラマである。それもたった7本とそれを再編集した劇場映画1本しかないのだから、ボイスオーバーでも良いから吹き替え声優を充ててスカパーで放送してほしい。海外では古典的名作として語り継がれているのに日本では一度も放送された事が無い白黒ドラマは沢山ある(だいたい1964年の「The Adventures of Robinson Crusoe」なんて日本ではテーマ曲だけは有名だけど本編を見た人は何人いるのやら。たった13話しかないんだから……。「秘密諜報員ジョン・ドレイク」だって配給元のトランスグローバルに残っていないのであれば新たに吹き替えを新録するべきであろう)。というわけで白黒ドラマ専門チャンネルの開局を切に願う次第。
posted by 猫山れーめ at 20:35| Comment(0) | 宇宙パトロール・オリオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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